❄21:テレシアが抱く不安。
◇◇◇◇◇
結婚して一ヶ月半が経ちました。
仲睦まじくは過ごせていると思いたいです。 まぁ、その…………なんでしょう、夜もちゃんとありますし。
「じゃあなんでそんなに浮かない顔なのよぉ」
ムキムキセクシー紫ドレス姿のフリーナ様が、我が家のサロンでバンバンとテーブルを叩いています。
今日は夜会用ドレスを納品しに来てくださいました。
先日、ランヴェルト様と注文しようという話になり、その旨をフリーナ様にご連絡したところ、「結婚祝いのつもりでウエディングドレスのデータを元に既に着手しているものがあるから、ちょっと待っていなさい!」と言われていたのです。
「体型は変わっていないようだし、フィッティングはしなくてもいいわ。だから、洗いざらい話しなさい!」
「洗いざらいと言われましても」
結婚式の数日後、ベッドでゆっくりと眠られているランヴェルト様を見て、ふと『今日もいらっしゃるのね』と思ったのですが、それはちょっと嬉しかったからなのです。
会話はあまりないのですが、ともに同じ空間にいるだけで、何だか心も身体もふわふわとするのです。
そのせいなのか、何なのか……ぽろりと口から滑り落ちてしまっていました。
「――――は?」
「寝ていると思っていたのです……」
ランヴェルト様の肩がビクリと動いて、ゆっくりと開く瞼の奥にあったのは、曇り空のような色をした瞳でした。
苦しそうな表情のランヴェルト様が「湯を……浴びてくる」と足早に立ち去られてしまい、言い訳も何もできずじまいのままで日にちが経ってしまいました。
「いや、風呂から戻ったときにすぐ言えや!」
「……素が出てますが?」
「チッ」
フリーナ様の声が野太くなりました。なったというか、野太いのが素の声なのですが。
「あんたたちは、頭の中でグルグルグルグルグルグルと考えてばっかりで、全然声に出さないのがそもそも駄目なのよ!」
「言葉は選ばないとですし」
「ボロッといらないことを漏らしたヤツの言葉かしら!?」
「あ…………」
正論過ぎて何も言えなくなりました。
「まったくもぅ。他には? あるんでしょ!?」
「はい。その…………複数の女性から、ランヴェルト様宛てのお手紙があまりにも多くて」
「あー、うん。はぁぁぁ」
フリーナ様が心底面倒くさそうなお顔で、大きなため息を吐かれました。
「アイツ、中身は読んでいるの?」
「差出人を確認されて、その場で破り捨てられているとは執事から聞いています」
「でも、信用できない?」
信用できないというわけではないのです。ただ、聞いて良いものなのかがわからなさすぎて。
ランヴェルト様が何も言わないのに、それをしつこく知りたがるのは、嫌がられそうで。
「あら。ふぅん? でも、知りたいんでしょう?」
「…………っ、はい」
「気になるのなら、ちゃんと本人に聞きなさいな」
「はい」
フリーナ様がサロンのテーブルに肘をついて、にやりと笑われました。
「ふふっ。ほんと面白いわね」
「私は面白くありませんが?」
「あはははは! また、愚痴を聞きに来てあげるから、ランヴェルトと沢山話しておきなさい」
「……はい」
何が面白いのか、フリーナ様はずっと笑いっぱなしでした。





