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9月6日(日曜日)結衣花とゆるキャラ展

 スイーツを食べ終えた俺達は、駅ビル一階にあるイベントスペースにやってきた。


 催しがない時はただのエントランスだが、イベントが行われる時は舞台がセットされる。


 普段はイベントが開催されたとしても気軽に立ち寄れる場所なのだが、今回は状況が違った。


「人……すごいね……」

「ああ……」


 結衣花が驚くのも無理はない。


 混雑によるトラブルを防ぐためスタッフが大声で誘導しているが、その声がかき消されるほどの大盛況なのだ。


 整理券を受付に渡した俺達は、ステージ前に移動した。


「そういえば、結衣花はどうしてゆるキャラ展に来たかったんだ?」

「ハロウィンのイラストコンテストに応募する作品の参考になると思って」


 結衣花が得意とするイラストはゆるキャラなので、このイベントはちょうどいいというわけか。


 このイベントの目玉は、次々と登場するゆるキャラたちと撮影できることだ。

 さらにTwitterで投稿すれば、抽選でオリジナルグッズが貰えるという仕組みになっている。


 ゆるキャラが登場するのを待っていた時、結衣花が何かを思い出したように訊ねてきた。


「ねぇ、お兄さん」

「ん?」

「あのさ……、元カノさんとはどんなデートをしたの?」


 そういえば結衣花に一度、大学の時に付き合った元カノの話をしたことがあったな。


「いちおう……あるにはあるんだが……」

「歯切れが悪いね」


 そりゃあ、歯切れも悪くなる。


 なにせ、「私と付き合いなさい!」と命令口調で告白されて、九日後に「インドに行ってくる!」とか言って去って行った奴だ。


 正直なところ……元カノとの思い出はそれほど多くない。


「付き合ってた期間がたった九日だぜ? カップルらしいことなんて、ほとんどないよ」

「ふぅん」

「ハッキリ言って、今日のほうが数十倍デートらしいな」


 そう言うと、結衣花は頭を『ぽふっ』とぶつけてきた。

 予想外の反撃だぜ。


「なんだよ」

「別に」

「今、喜んでただろ」

「そんなことないもん」


 よく言うぜ。

 声にリズムが乗ってるんだよ。


 結衣花と出会って、もう三ヶ月なんだぜ。

 このくらいの反応は余裕で読めるというものだ。


 パッパラパ~ン♪ パッパラパ~ン♪


 イベントが始まった。

 曲が流れると同時にゆるキャラたちが登場し、撮影会や握手が行われる。


 こうしてゆるキャラ展を体験した俺達は、イベントスペースを後にした。


   ◆


 駅に向かって歩く途中、隣を歩く結衣花が話しかけてきた。


「それにしても本当にすごい人気だったね。グッズとかも売れていたし」

「ああ。ゆるキャラの人気もそうだが見せ方が上手い。アレを企画したやつはかなりデキるぜ」


 ゆるキャラ展を企画したのは大手広告代理店だったか……。

 これは負けてられないな。


 ……すると、結衣花がポツリと言った。


「……仕事のことを考えている時のお兄さんって、雰囲気が変わるんだね」

「そうか? 意識してなかったが」


 わずかに声が沈んでいるように聞こえたが気のせいだろうか。

 仮とはいえ、デート中に仕事のことを考えてしまったのは失敗だったかもしれない。


 そして彼女は……表情を見せないように前を見て、静かにつぶやいた。


「私……、お兄さんに追いつけるかな?」



 その一言は、心をえぐられるような衝撃があった。



 追いつく? 俺に?

 まるで結衣花を置いてきぼりにしているような言い方だ。


 ここで俺は、楓坂が『仕事の顔を見せたくない』と言っていたことを思い出した。


 楓坂は自分の本性をさらしたくなかったのではない。

 結衣花に『自分とは違う』と思われたくなかったんだ。


 うかつだった……。


 社会人は高校生活を経験している。

 だが、女子高生は社会人を経験していない。


 俺には気づかない壁を、結衣花は感じていたんだ。


 なにか言ってあげないと……。


「ゆ……結衣花」


 俺は立ち止まって結衣花を呼び止めた。

 彼女は振り向いて訊ね返す。


「なに?」

「あー。なんというか……。アレだ……」


 やべぇ、言葉が思いつかない。


 なんでもいいんだ。

 結衣花と俺を繋げる何かを……。


 そうだ!


「こ……コミケの時の約束を覚えてるか?」


 結衣花はコクリとうなずく。


「お兄さんが家を一軒買ってくれるって話だよね。覚えてるよ」

「……そんな約束はしてないよな」

「うん、冗談だもん」


 おいおい。

 俺、結構マジでお前のこと考えて話そうとしてたのに、緊張感がぶっとんだじゃないか……。


 結衣花はすぐ傍まできて、俺を澄んだ瞳で見つめた。


「それで……なに?」


 ああ……、なるほど。

 肩に力が入っていた俺の緊張をほぐしてくれたわけか。


 はは……、本当にこの女子高生にはかなわないな……。


「コミケの時の約束だ。結衣花が作ったものを販売した時は一番に買いに行く。いつまでも待ってるから、結衣花は結衣花のペースでいいんだ」


 追いつくとかそんなこと考えなくていいと伝えたいのだが、こんな言葉でよかっただろうか。


 結衣花は優しくほほえむ。


「うん。じゃあ、私も頑張るね」


 彼女は隣に立つと、俺の腕を二回ムニった。


 俺は結衣花に負けっぱなしだ。

 だが、悪い気はしない。


 こうして、俺と結衣花のデートっぽいデートは終わった。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・ブクマ、とても励みになっています。


次回、音水のお見合い相手が問題に!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] うん、デートっぽい(*^^*) さすが結衣花ちゃん! [気になる点] いきなりインド…?ちゃんと帰ってきたのかな…?(-_-;)
[一言] そっか。結衣花以外はみんな(それなりに)仕事してるんだ。 元カノさんというのは、今はどうなっているのかねえ。 参戦してくるには、さすがに遅すぎるだろうし/w
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