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第3章ー27

 ホール川防衛線を巡る戦闘で事前の想定を上回る損害を日本軍は被ったが、それはあくまでも事前の想定を上回る損害というだけであり、第八軍の4個師団も加えた日本軍がハバロフスクへの攻勢を続行するのには特に問題ない程度にとどまった。

(具体的には、ホール川防衛線を巡る戦闘での日本軍の死傷者は1万人程度にとどまっている。)

 だが、少なくとも歩兵相手には絶対無敵に近いと信じていた百式重戦車の後期型が、ソ連軍歩兵の携帯式対戦車兵器RPGの前には破壊されるということが判明したというのは、ハバロフスク攻略を目指す日本軍にとって、暗い影を落とすものだった。

 また、別のソ連軍の影も別方面から落ちてきた。


「チタ方面からハルピン市方面を目指して、ソ連軍が反攻を試みつつあります」

 満州里方面に展開していた米陸軍から急報が届いたのは、1941年6月半ばのことだった。

 米陸軍4個師団を基幹とする第六軍がそれに対処しているものの、チタ方面から反攻を行っているソ連軍の規模は少なくとも6個師団、予備部隊を含めれば10個師団に達していると見積もられる有様で、第六軍単独では対処が困難な有様だった。


 小畑敏四郎大将とマッカーサー将軍は協議した末、予備として拘置していた部隊の中から、日本軍機甲師団2個及び米軍2個師団を第六軍の応援に差し向けることにした。

 この予備部隊の到着により、満州里方面の戦況は日米満韓連合軍側が守勢に徹する限りは、ソ連軍側が不利となった。

 基本的に航空優勢は日米満韓連合軍が握っており、兵力もややソ連軍側優勢といった程度の差しかない。

 更に、モンゴル民族主義者が日米満韓連合軍側に味方して、パルチザン活動を展開することでソ連軍の補給線に現実の脅威を与えている状況とあっては。

 幾らチタ方面に展開しているソ連軍が切歯扼腕しようとも、大興安嶺の地形まで生かして守勢に徹する日米満韓連合軍の防衛線を突破するのは困難というより無理に近かった。

 だが、このままいけば、沿海州とアムール州が完全に日米満韓連合軍の手に落ちる。

 そういったことから、詳しくは後述するが、1941年の夏一杯、チタ方面から攻勢を執ったソ連軍は何とか日米満韓連合軍の防衛線を突破しようと懸命の攻勢を展開するのである。


 少なからず話がずれたので、ハバロフスクを巡る攻防戦に話を戻す。

 1941年6月末から、実際にハバロフスクの攻略に取り掛かった日本軍の当初の兵力は、第八軍4個師団も加えた10個師団の内4個師団に止まった。

 小畑大将の方針もあり、残りの6個師団は、ハバロフスクの周囲の町村の制圧に当たったり、予備部隊として拘置されたりすることになった。


 これはハバロフスク近郊に展開していたソ連軍6個師団の内、ハバロフスクに立てこもったのは2個師団に過ぎないと(日本軍に)判断されたことが大きかった。

 残りの4個師団は大損害を受けた末に、広範囲に展開しての遊撃戦(ゲリラ戦)を展開しようとしていると判断された(実際にそうだった)。

 これは、既述のようにハバロフスクが完全に飢餓の街と化していたというのが大きい。

 ハバロフスクに立てこもる兵力を増やすという事は、それだけ飢餓に苦しむ兵を増やすことに他ならないという判断をソ連軍は下した。

 それくらいなら、広範囲に展開しての遊撃戦を展開し、味方の農村からの物資の提供により戦うことが効果的だという判断が下されたのである。


 だが、実際問題として、それは半ば絵空事だった。

 かなりの物資をこれまでに奪われていたソ連領の農村地帯の住民は、更なる収奪を行うソ連軍兵士に敵意を向けだした。

 そして、住民が日本軍に好意を向ける事態が起こり出すのである。

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