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第3章ー18

 こうした日本軍の急進撃によって、イマンは第五軍によって速やかに攻囲され、ウスリースクも第三軍の進撃により5月半ばには徐々に孤立しつつあるという有様に陥った。

 だが、第七軍が対処するマンゾフカ方面は、少し話が違っていた。


 マンゾフカ近辺には機動防御の為に、沿海州に配置されていたソ連軍戦車部隊の主力が集っていた。

 シベリア鉄道の破壊等により、燃料等の不足で移動が困難になっていたためもあり、また部品等の不足に苦しむ余り、共食い整備が発生していたというのが哀しい現実ではあったが、満州方面から撤退してきた戦車部隊の生き残りが集められ、ブラゴベシチェンスクで生産されたT-34戦車も配備されたこの戦車部隊は中々有力であり、日本軍も無視できるものではなかった。

 そして、沿海州方面に対する日本軍の侵攻を前にして、更に第七軍に機甲師団が含まれていることを把握したソ連極東軍は、第七軍の戦車部隊とこのソ連軍戦車部隊の主力とを激突させて雌雄を決した上で、勝利を収めた場合は、ウスリースク救援なり、イマン救援なりにソ連軍戦車部隊を向かわせることにした。


 実際にどこまでの戦車がマンゾフカ近辺に集められており、また、どこまでの戦車が稼働できたのかは、生き残りのソ連戦車兵からの聞き取りを併せても、かなり推測が混じるのはやむを得ない話だが。

 多数説に従うならば、この当時のマンゾフカ近郊には800両余りの戦車が集められていたという。

 但し、その中で稼働可能だったのは500両を切るというのが現実だった。

 だが、その稼働可能な戦車の中にT-34戦車約100両とKV戦車約50両が、日本軍戦車に対する切り札として期待され、また、まだまだ新しかったり、重点整備されたりすることによって含まれていた。


 これに対して、第七軍の戦車部隊は歩兵師団に配備された戦車を含めても400両といったところだった。

 百式重戦車は後期型になることで攻撃力が増加しているとはいえ、相変わらず二人用砲塔ということに変わりはなく、新型の一式中戦車は三人用砲塔を搭載しているとはいえ57ミリ長砲身を搭載しているにすぎないという現実があった。

(なお、戦車全体の内、約四分の三が一式中戦車で、約四分の一が百式重戦車の後期型だった。)


 このため実を言うと、昨年のKV戦車ショックが完全に抜け切れていなかった日本軍の戦車兵や歩兵はかなり不安を覚えていたという。

 百式重戦車の後期型なら何とかなるだろうが、それ以外では、というのが正直な想いだった。

 なお、この当時の日本軍の対戦車砲は基本が47ミリで、ようやく半数近くが57ミリに改編されつつあるといった有様だった。


(これは牽引式の対戦車砲が未だに主力であるという現実によるところが大きい。

 いざという場合は人力での移動をせねばならないという以上、75ミリの対戦車砲はやはり重すぎるというのが現場の対戦車砲を扱う兵員の現実の意見だったのである。)


 それもあって、マンゾフカ近辺に集結しているソ連軍戦車部隊に対しては苦戦を多くの日本軍の将兵が覚悟して進軍することになった。

 その中には、中国内戦介入以来、数々の戦車戦を戦い抜いており、日本軍きっての戦車部隊の現場のエースと目されている西住小次郎大尉の姿もあった。


 西住大尉は、自らの乗る一式中戦車の性能に一抹の不安を覚えながらマンゾフカを目指していた。

「勝てるか勝てないか、と言われれば、ソ連軍の新型戦車やKV戦車以外となら一式中戦車でも互角以上に勝てると言える。しかし、KV戦車相手にこいつでは苦戦を絶対に余儀なくされる」

 西住大尉は部下に対する手前もあり、口には出さなかったがそう考えていた。

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