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幕間1-5

 だが、岸総司大尉と斉藤雪子少尉がそんな会話をしていることは傍にいないと聞こえない。


 アラン・ダヴー大尉は、ド・ゴール将軍から5月から発動される独東部への連合国軍の侵攻作戦の大雑把な打ち合わせを兼ねた日本の欧州総軍司令部に表敬訪問する際の通訳として同伴してほしいと求められ、臨時に同伴して任務を果たし、帰ろうとしていた。

 別に通訳が自分で無くとも、とダヴー大尉は当初は想ったが、ド・ゴール将軍にしてみれば、日本語に堪能で欧州総軍司令部内に個人的な知人までいるダヴー大尉を連れていくことで、今後のために欧州総軍司令部内の人間の具体的な顔と名前を覚えたいという目的もあったようだった。


 表敬訪問を済ませた直後、ダヴー大尉の働きに満足したド・ゴール将軍は、個人的な知己と話をもう少ししたいだろう、とダヴー大尉を解放した。

 その言葉に甘えてダヴー大尉は考えた末に、妙に気の合う岸大尉と会おうと思い、第3海兵師団司令部を訪れたが、岸大尉は第1海兵師団の駐屯地に出かけていると言われた。

 それで、第1海兵師団の駐屯地に回ったところ、岸大尉と斉藤少尉が会話をしているのを遠目でダヴー大尉は見てしまった。

 ダヴー大尉の目には相思相愛の恋人同士の会話に見えたので邪魔をしては悪い、と気を利かせて、考えた末に土方勇中尉の下を訪問することに変更した。


「ダヴー大尉、わざわざお越しとは何事ですか」

 土方中尉は驚きつつ、ダヴー大尉を歓迎した。

「いや、ちょっと欧州総軍司令部を訪問する用事があり、その帰りですよ」

 ダヴー大尉は、土方中尉と会話を始めた。


「それにしても岸大尉も隅に置けませんな。女性の軍医士官を口説いていましたよ」

 ダヴー大尉としては、世間話のつもりだったのだが、土方中尉は少し顔色を変えた。

「何かまずかったですか」

 岸大尉の私生活(昨年9月に妻を亡くしたこと等)を余り知らないダヴー大尉にしてみれば、土方中尉が顔色を変える理由が分からなかった。


 土方中尉は少し逡巡した。

 身内の話をしていいものだろうか。

 だが、岸大尉の異母姉と自分が結婚しているのを、ダヴー大尉は知っている。

 それに、そもそもダヴー大尉は知らないとはいえ、自分の義弟ではないか。

 下手に話さないでいる方がダヴー大尉は気になるだろう。

 釘を刺して話せばいいだろう。

 ダヴー大尉が触れ回ることもあるまい。

 そこまで土方中尉は考えを巡らせた。


「大したことではありません。ただ、身内話ですので周囲に話さないでください」

 そう前置きして、土方中尉は岸大尉が昨年9月に妻を亡くしていること、自分の妻(岸大尉の異母姉)千恵子が、独身になった岸大尉が欧州で恋人を作るのではないか、と心配していることを話した。

 ダヴー大尉は黙って聞いた後で言った。

「私に話して良かったのですか」

「言わないと気を回されそうでしたので」

「分かりました」


「それにしても独身に戻ったとはいえ、確かに他の女性にすぐに手を出すとは余り褒められた話ではないですな。初産で妻が亡くなったことを想うと」

「全くです」

 ダヴー大尉と土方中尉はそんな会話をして、その話を終わらせ、後は別の様々な話をして過ごした。


 ダヴー大尉は、土方中尉の下を辞去した後で思った。

 あの光景は、自分の知る限りの岸大尉の性格からして、女性を岸大尉が口説いていたのではなく、岸大尉が独身だと知った女性に岸大尉が口説かれていたのかもしれないな。

 自分と妻カテリーナの関係がそうであるように。


 妻を自分が愛していない訳ではない。

 だが、初めて抱いて子どもをなした女性を忘れられる訳が無い。

 カサンドラ、君はどうしているのだ。

 ダヴー大尉は、過去を思い起こして感傷に耽りつつ帰った。

これで、幕間は終わり、次から第3章になります。


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