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第2章ー29

 独北方軍集団を率いるレープ将軍は、この英軍を主力とする2月攻勢を懸命に迎え撃ったが、そもそもレープ将軍自身が、どちらかというと電撃戦の理解に乏しい古典的な将帥だったこともあり、英軍の正面からの力押しの攻勢に真っ向から対処してしまい、傷口を更に広げる結果を招いた。

 皮肉なことにこの後に述べるルール工業地帯を死守した第18軍司令官のモーデル将軍の方が、電撃戦に対処するための機動防御に本来は長けていたという戦後の評価もある。


 階級からはあり得ない話だが、モーデル将軍が北方軍集団を率いていたら、もう少し北方軍集団は機動防御を駆使して英軍の攻勢に対処できたかもしれない。

 尤も既に1941年に入ったこの頃には、独空軍の航空優勢は失われており、独陸軍は移動するだけで連合軍の航空攻撃により大量の損害を被っていたのも事実ではあるので、モーデル将軍が機動防御を駆使しても、(この世界の)史実とそう変わらなかったという説もあるのが現実なのだが。


 ともかく、2月も中旬に入る頃には、独北方軍集団の戦線は綻びを見せ始め、英蘭白の三国を基幹とする連合軍はオスナブリュクを陥落させ、ブレーメンやハノーヴァーを視界に収めつつあった。

 そして、言うまでもなく独最大の工業地帯、ルール工業地帯を連合軍は独軍を圧迫しつつ、西方と北方から徐々に包囲しつつあった。

 このような状況に鑑みて、ヒトラー総統が命じた命令は単純だった。

「ルール工業地帯を失っては、独の敗北は必至である。独軍はルール工業地帯を死守せよ」

 その困難な命令に北方軍集団所属の軍として、実際に対処する羽目になったのが第18軍だった。


 第18軍を率いるモーデル将軍としては、本音としてはルール工業地帯を死守せよと命じるヒトラー総統命令は不本意極まりないものだったらしい。

 ルール工業地帯に拘泥せずに指揮下にある部隊を縦横に動かして連合軍の攻勢を跳ね返すことを、モーデル将軍は本音としては希望していたらしいが(ヒトラー総統に心酔していたためとも、軍人として命令には従うべきの信条に従ったためとも言われることから)、実際にはヒトラー総統からの死守命令を固守することになった。


 モーデル将軍は、手持ちの兵力が不足していたことや、ルール工業地帯がいわゆる都市化が進んでおり市街戦を展開するのに向いている地形であったこと、更に最前線に国民突撃隊を投入しようとしない国防軍の態度に苛立っていたヒトラー総統直々の命令があったことから、ルール工業地帯の防衛に国民突撃隊を積極的に投入することを決断した。


 国民突撃隊は、一人一丁も小銃が提供されない中、エッセンやドルトムントといった都市防衛に駆り出される羽目になった。

 更にその小銃も中には伊陸軍の小銃更新に伴う伊製の旧式小銃までもが入り混じる有様で、このルール工業地帯攻防戦を生き延びた国民突撃隊隊員の何人かの回想によると、口径の違い等から肩を並べて戦う同じ国民突撃隊所属の隊員同士が、お互いの手持ちの銃弾を融通しあうことができないことがよくあり、更にはいわゆる後方から補給として届いた銃弾が使えないことも稀ではなかったという。


 このため、国民突撃隊の隊員は手持ちの小銃の銃弾が尽きたら、連合軍の兵士とはその小銃を槍や棍棒の代わりに使って戦うのが稀ではなかったらしい。

 こうした状況において、英軍を主力とする連合軍の兵士が行おうとするルール工業地帯攻略作戦阻止のために投入される国民突撃隊の面々が、如何に悲惨な目に遭う羽目になったか。

 戦後の史書等において、英軍側視点と国民突撃隊側視点の供述は完全に対立して、お互いに非難合戦に近い状況を呈する有様になる。


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