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第2章ー20

 2月末のある日、独軍の包囲環からの脱出を果たした後の補充と再編制に日本海兵隊は努めていた。

 独軍の反撃と包囲環の形成、それからの脱出に伴う過酷な戦闘は、日本海兵隊に多大な損害を与えていた。

 損害の取りまとめ、精査にもそれなりに時間が掛かった結果、欧州総軍司令部がその全貌を把握して、東京に報告するのは3月初めになる有様だった。

 その内容だが。


 1月近い戦闘の結果、日本海兵隊6個師団は攻撃開始前の兵員の3割近くを死傷させていた。

 これは一般的な軍事的評価からは全滅と評価されてもおかしくない損害だった。

 特に深刻だったのは、包囲環の中で孤立した戦闘を日本海兵隊は暫く強いられた結果、死傷者の半数近くが実際に死亡したことだった。

 通常だったら、そこまで戦死者が出ることはない。

 戦場での死傷者の内多くて3分の1、通常は4分の1程度が戦死者なのが通例である。

 この大損害は、日本海兵隊の上層部の頭を痛める問題を引き起こした。


 日本海兵隊を救援しようとした米軍もそれなりの損害を出した。

 特に米第3軍の損害は深刻で兵員の2割近くが死傷している。

 こちらは戦死者はそう出しておらず、精々兵員の5パーセントが戦死した程度で済んだが。

 それでも、ワシントンにこの損害の内容が伝わった際には多くの陸軍省幹部の顔が青ざめたという。


 だが、その代償として。

 独中央軍集団も半壊する大損害を被った。

 日本海兵隊に対する攻撃の為に投入された20個師団余りの内、3月初めの時点で戦力として数えられる師団は10個師団に満たない惨状で、それも北方軍集団や南方軍集団の救援に向かう羽目になっており、独軍中央軍集団は大幅に弱体化してしまった。


 勿論、中央軍集団には、まだまだ他にも部隊、予備の師団が存在している。

 だが、日本海兵隊に対する攻撃には、中央軍集団でも精鋭の部隊を根こそぎ投入しており、そう言った意味からも、この攻撃の失敗は量はともかくとして質の弱体化に拍車をかける事態と言えた。

(英仏米日等の連合軍のこの2月攻勢阻止のために投入された独軍の師団は全てを合わせるならば100個師団を超えており、中央軍集団だけでも50個師団近くを数えたという。

 なお、正確な数字は各軍集団間での師団の移動もあり、その時々で変遷している。)


 そのために少し話は先走るが、3月に入ってから再開されたポーランド軍を主力とする日米ポーランド連合軍の攻勢の前に独軍中央軍集団は苦戦を強いられることになる。

「冬の嵐」と「雷鳴」作戦によって、日本海兵隊の脱出を許したことは独軍中央軍集団の終わりの始まりとなったのである。


 だが、そんなことは2月末の時点における土方勇中尉には直接は関係ないことと言えた。

 土方中尉にしてみれば、目の前のことが遥かに重要だった。

 これまで無敵と自負していた零式重戦車は、独軍がこの作戦から積極的に投入してきた50ミリ対戦車砲やパンツァーファウストにはそれなりの苦戦を強いられるのが判明して、土方中尉もそれを実感させられてしまったのだ。


 物思いに耽る土方中尉にしてみれば、バイエルン地方を席巻している仏軍は羨ましい存在だった。

 ブレンハイムの戦いに大勝利を収めた仏軍は、救援に赴いた独第2装甲軍が加わった独南方軍集団の懸命の抗戦を排除してバイエルン地方を3月中に完全に制圧できるのではないか、という勢いを維持しているという。

「アラン・ダヴー大尉は、どうしているのだろうか」

 土方中尉の口から自然と言葉が出た。

「きっとバイエルン地方を制圧するために奮戦しているのだろうな」

 そう更に想いを巡らせると名乗りを交わせない義弟が奮戦しているのが、土方中尉には羨ましくてならなかった。 

 これで第2章で日本海兵隊が主に出てくる部分は終わり、次話から仏軍等が主に出ることになります。


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