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第2章ー3

 実際に南欧や東欧諸国では、独の敗北を見越した動きが始まっていた。

 特にその動きが顕著なのがイタリアだった。


「ドイツから届く予定のアクィラの資材は全て届いたか」

「ドイツは少しでも我々の参戦を遅らせたいようで、全て送ってくれました。最もドイツに遺しておいても意味が無いですし、ドイツ海軍としてはソ連に渡すくらいなら、イタリアに渡した方がマシという判断もあるものと思われます」

「大いによろしい。我が国にも空母が必要不可欠だからな」

 1941年1月初めのある日、ムッソリーニ統領は閣議において上機嫌極まりない状況にあった。


 ムッソリーニ統領自身は、イタリア海軍は必ずしも空母を保有する必要は無い、とずっと考えていたが、その蒙を開く事件があった。

 言うまでもない1940年春に行われたドイツのノルウェー侵攻作戦における日米英の空母機動部隊の猛威である。

 独海軍のシャルンホルスト級戦艦でさえ、空母機動部隊の空襲の前には赤子のような存在だという事が全世界に知れ渡ってしまったのだ。


 慌ててイタリア海軍は、空母整備に奔ったのだが。

 日米英とずっと微妙な関係だったイタリアに、日米英が空母に関する技術情報を進んで提供してくれる訳がなかった。

 そうした中で、1940年初夏の頃にヒトラー総統の直命により水上艦部隊の解散が決まったドイツ海軍からイタリアに接触があったのである。

 空母グラーフ・ツェッペリン建造の為に蓄積してきた情報や資材を、イタリアに提供しても良い。

 その代りに潜水艦建造や運用のための物資を提供してほしい。

 イタリアにしてみれば渡りに船の好条件の申し出だった。


 勿論、ドイツ海軍にもそれなりの理由があった。

 ノルウェー侵攻作戦の失敗により、ドイツ海軍への物資提供はなおざりにされるようになった。

 こうした状況を打開するために、ドイツ海軍は独自に物資を手配する必要が生じていたのである。

 これはお互いに実りのあるやり取りだったが、今となってはイタリアの方が見返りが大きくなっていた。


 最もドイツ海軍にしてみれば、ある意味では当然の行動だった。

 カナリス海軍大将を始めとするドイツ海軍の主流を占める反ナチ派の軍人にとって、今やヒトラー率いる現ドイツ政府は打倒されるべき存在だった。

 そして、カナリス海軍大将は反共主義者でもあった。

 こうした事情から、ドイツ海軍は反共のイタリア政府への協力を惜しまなくなっていたのである。

 更に言うなら、反共主義者のドイツ人も反共主義という点からイタリア政府に協力しつつあった。


「DB605についての設計図等を我々に秘密裡に流すと、ダイムラーベンツ社の重役から提案がありました。その代償として戦後の身柄の保護等を求めています」

「受け入れてやれ。順調に様々なモノが手に入りつつあるな。さて、我々がドイツに宣戦を布告すべき時が迫りつつあると私は考えるがどんなものだろうか」

 報告を受けたムッソリーニ統領は更なる上機嫌になった後、閣議に参加している面々を見回していった。


 チアノ外相が意を決して答えた。

「英仏米日等の各国政府からも、我々の参戦を望む旨の秘密裡の意向が示されています。徐々に独との国境に軍隊を集結させて独軍を牽制した後、5月頃を期して参戦というのはいかがでしょうか」

 閣議に参加している陸海空の軍人達もチアノ外相の言葉に賛成した。

 その頃には、エルベ河を英仏米日軍は渡っている可能性すらある。

 我がイタリアは少数の犠牲により戦勝国の栄誉を勝ち取れるはずだ。

 彼らはそう考えた。


「良かろう。そう我々は行動しよう」

 ムッソリーニ統領は上機嫌で答えた。

 だが、彼らは最終的には間違った。

 第二次世界大戦はまだまだ続いたのだ。

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