第2章ー2
「ところで、このルノー41戦車の砲塔は3人で運用するには些か小さくないですか?」
フリアン曹長は半ば分かっているのにのに、わざとアラン・ダヴー大尉に問いかけた。
「幾ら何でも、1人用砲塔ばかり作ってきた我がフランスには3人用砲塔を急造するのは困難でな。一応、小柄な戦車兵なら3人で使えるようにしたようだ」
ダヴー大尉はしかめ面で答えた。
「57ミリ砲を搭載して、それによって生じた空間を活用して3人用砲塔にすれば良かったのに」
フリアン曹長は更に皮肉を言った。
「フリアン曹長、そこまでにしろ。それ以上は看過できない。イギリスに頭を下げられるか」
ダヴー大尉はわざと怒った。
フリアン曹長も、スペイン以来の付き合いでダヴー大尉の真意が分かっている。
黙って首をすくめることで、ダヴー大尉に暗に同意した。
実際問題として、この頃に開発、量産化された日英米の主力戦車はイギリスが新規開発した57ミリ砲、6ポンド砲を主砲とする方向になっている。
その例外と言えるのは、日本の零式重戦車くらいだ。
それなのに、フランスが75ミリ砲を主砲とするルノー41戦車を制式採用したのは、イギリス製の主砲をフランスが採用できるか、という面子の問題が大きかった。
何だかんだ言っても、独仏以上の長年の歴史に渡る英仏の対立の歴史がある。
その歴史的経緯から、フランスはルノー41戦車の主砲に75ミリ砲を採用したのだ。
(それに、フランスの旧式戦車から開発、量産化されたフランス製の砲戦車が、75ミリ砲を採用している以上はそれより小口径の主砲を新型戦車に採用しにくいという事情もあった。)
それに。
ダヴー大尉は、フリアン曹長にも明かせない裏事情を考えた。
フランス国内にはまだまだ共産主義者、全体主義者が潜んでいる。
そういった面々がサボタージュのみならず破壊工作まで企んだら。
フランス政府が、この際、軍用機の供給の多くを日米に頼り、その代りに戦車等の軍用車両の国産量産を決断したのも無理はない。
軍用機ならエンジンが止まったら、そこまでだ。
軍用車両ならエンジンが止まっても、脱出して生存できる可能性がそれなりにはある。
更に日米からの暗黙の要求もあった。
旧態依然たるフランスの産業を、急速にいわゆる近代化させるためには日米の協力が不可欠だった。
だからと言って、戦時中の同盟国への対処とはいえ(いやだからこそ)、日米は見返りを求めた。
そのために、フランス政府は日米からの軍用機の大量購入を決断した。
日米とは逆に軍用機産業を自動車等の産業に転用することで、自動車等の大量生産を図り、日米のノウハウを吸収することで、第二次世界大戦後に軍用機産業を発展させようとフランス政府は考えたのだ。
ダヴー大尉は、以前にフランス陸軍総司令部に勤務していた関係で、そういった裏事情を把握していた。
とは言え、それは決して口に出せる事情ではない。
だからこそフリアン曹長を叱り飛ばすしかダヴー大尉には方法はなかった。
それにしても、とダヴー大尉は想いを巡らせた。
この新型戦車の癖等を掴んで、前線部隊が存分に活用できるようになるのには、1月は欲しいものだ。
フランス陸軍上層部も同様に考えているだろう。
さらに昨年末でのライン河渡河作戦で連合軍が大量に物資を費やしたことを考えると。
やはり2月初めに更なる大作戦が連合軍によって展開されることになるのではないだろうか。
その目標となるのは、エルベ河以西の西ドイツ部分の制圧が第一、第二がエルベ河を渡河してのベルリン侵攻作戦準備だろう。
そうなってくると、南欧、東欧諸国の動向がカギになってくるな。
ダヴー大尉はそこまで自分の思考を進めざるを得なかった。
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