【26:赤根さんは浴衣を着る】
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鹿野島神社の前で4人で待ち合わせした。
女子二人がどんな姿で現れるのかドキドキする。
いや待て。俺はついこの間まで二次元のヒロインだけで満足していて、三次元の女子にドキドキするなんてほとんどなかったのに。
ああ、俺はいったいどうしてしまったんだ。
ごめん、イチハさん!
なんてアホなことを考えながら現地に着いたら、他の3人もちょうど来たところだった。
うっわ、女子二人とも浴衣姿!
赤根さんは名前のとおり赤、クールな月ヶ瀬さんはイメージにぴったりの青。
超絶美人二人の浴衣姿揃い踏み!
こんな構図、人気ラノベの専門店特典タペストリーでしか見たことない!
「ねえねえ、どっちから告白したの!?」
赤根さんは数寄屋と月ヶ瀬さんの顔を見るなり、食い気味に尋ねてる。
赤根さんって恋愛に興味がないって噂を聞いたことあるけど、案外そうでもないんだな。
「俺からだよ」
「へぇー! いいなあ! ね、月ヶ瀬さん!」
「ええ。私もぜひお付き合いさせていただきたいって、ありがたくお答えしたのよ」
「へぇ! いいなぁ、いいなぁ!」
「あら。赤根さんならモテるし、その気になったらいい人いるんじゃないの?」
「いえいえ、それがなかなか……」
赤根さんは苦笑いして、俺をチラリと見た。
きっと助けを求めてるんだろうけど、俺は赤根さんの彼氏事情なんて知らんからな。何もフォローはできない。
でも月ヶ瀬さんがそう言うのもわかる。赤根さんほどの可愛くて性格のいい子に彼氏がいないなんて、俺も不思議だ。
きっとすっげえイケメンで運動できて性格も良くてカッコいい男子じゃないと、付き合う気にならないんだろうな。
でもそんな男子なんてめったにいない。
目の前の数寄屋はまさにそんな男だけど、月ヶ瀬さんの彼氏になっちゃったし。
そう言えば赤根さん、サッカー部のイケメンキャプテンを振ったよな。
あれ以上の男でないと赤根さんの彼氏になれないのだとしたら、どんだけハードル高いんだよ!?
「おい大和」
「え?」
気がついたら、三人が俺を見つめてた。
数寄屋と月ヶ瀬さんはなぜか優しく微笑んで、とても温かい眼差し。
「行くぞ」
「あ、おう。ごめん」
ついボーっとしてしまってた。
左右に出店が並ぶ参道を四人で歩く。
数寄屋と月ヶ瀬さんは自然と横に並んで、俺の少し前を歩いてる。
時々見つめ合っては楽しそうに喋ってる。
既に恋人同士のオーラがバシバシ出てるじゃんか。
ふと横を見ると赤根さんが、歩きながらこちらを見てた。
「あ、ごめんね赤根さん。急に誘ったりして。でも来てくれてありがとう」
「うんいいよ。ガタニ君がどうしても私に来て欲しいなんて言うからねー。仕方ないでしょ」
「あ、いや。あはは……」
そんなことは言ってない。
そんなことは言ってないが、否定するのも赤根さんに失礼な気がする。
「そっかそっかぁ」
なんだか赤根さん、嬉しそうだ。
髪をアップにした浴衣姿。
いつもと違う雰囲気。
周りの夜店の明かりに照らされて、整った顔にさらに陰影が刻まれる。
息を飲むくらい美くしい。
こんなに可愛い女の子と夏祭りに来てるなんて、現実感がなさすぎるわ。
これ、ギャルゲーのワンシーンじゃないよね?
俺、夢を見てるんじゃないよね?
「ねえ数寄屋くん。わたあめ食べたいなぁ」
「あ、いいね。買うよ」
前を歩く月ヶ瀬さんが、数寄屋のシャツの袖を引っ張ってる。
あのクールな月ヶ瀬さんが数寄屋に甘えてる!?
なんかすごいものを見てしまった気分だ。
甘すぎ注意報発令中!
俺はいったいなにを見せつけられてるのか。
リア充爆ぜろ。
二人がわたあめの屋台に足を向ける。
俺と赤根さんも彼らの後ろをついて行った
「ガタニ君、羨ましそうだね」
横から赤根さんがニヤと笑ってる。
心の中を読むのはやめてほしい。
「いや、別にそんなことは……」
「羨ましそうだね」
「はい」
完全に見透かされてる。
くっそ恥ずかしい。
「ねぇガタニ君。私もわたあめ食べたいなぁ」
うわ、なにすんの赤根さん!
なんで俺のシャツの袖口を引っ張ってんの!?
「ダメかな?」
「いや、ダメじゃない。全然ダメじゃない。買ってあげるよ」
「やったぁ!」
くそっ。
アイツらのやり取りをわざと再現してくるなんて、完全にからかわれてるな。俺をキョドらせて楽しんでるんだ。
いやこれ。周りのヤツから見たら、完全に『リア充爆ぜろ』って思われるヤツ。そう思われて実はそうじゃないって、どうなんだよ。
屋台で買ったわたあめを渡すと、赤根さんがペロリと舌を出して舐めた。淡いピンク色の舌にドキリとする。
「おいちい」
なんで幼児語になってんだ。可愛いすぎるだろ。
それから参拝をするために、四人で神社の拝殿に向かった。
今度は赤根さんは月ヶ瀬さんの隣を歩き、俺と数寄屋が少し離れて後ろを歩いた。
女子二人はなにやら楽しそうに話しているけど、会話の中身はわからない。
しかしこの二人。さすがに目立つな。
すれ違う人達がみんなガン見してる。
男性なんかはびっくりした顔で二度見、三度見してる人も多いし、「すげえ可愛い」なんて声も度々聞こえる。
拝殿で参拝を済ませ、復路でまたいくつか屋台を覗いた。
こんな可愛い女の子達と一緒に祭りに来るなんて生まれて初めてだ。なにこれ楽しい。
少し休憩しようという話になって、参道から少し外れた公園に行った。四人で立ったまま輪になって話す。
「なあ大和。よかったな」
「なにが?」
「赤根さんが来てくれてさ、楽しいな」
「あ、ああ。そうだな」
数寄屋も月ヶ瀬さんも、できない子を見守るような温かい眼差しで俺を見るのはやめてくれ。
「そう? そう言ってもらえたら、来た甲斐があったよ」
「そうだよ。赤根さんが来てくれなかったら、大和は家で寂しく過ごしてるだけだしな」
「こら数寄屋。そんな言い方すんな。家にいたらいたで、俺にはちゃんと過ごす相手がいるんだから」
「ガタニ君が過ごす相手……?」
「あはは、赤根さん。そんな不思議そうな顔しなくていいよ。大和が過ごす相手なんて、アニメのヒロインか猫だ」
くそっ。図星なだけになにも言い返せない。
「猫……そう言えばガタニ君、猫飼ってるって言ってたね」
「ああ、うん」
「へぇ、私猫好きなのよ。どんな猫なのかしら?」
猫の話題に、意外にも月ヶ瀬さんが食いついてきた。
「三毛猫だよ」
「なんて名前?」
「茜」
「え? 猫に赤根さんの名前付けてるの?」
月ヶ瀬さんがびっくりした顔をしてる。
んなわけないだろ。飼い猫にクラスメイトの名前をつけるヤツがいるかよ。
「違うよ。茜色の茜」
「そうなんだ。あーびっくりした。それにしても御稜威ヶ谷君って、猫の話する時はすごく嬉しそうな顔をするのね」
「あ、うん。まあね」
猫好きは事実だからいいんだけど、改めてそう言われるとなんかちょっと恥ずかしい。
「そうだよ。大和はその猫ちゃんのこと、大好きなんだもんな。『俺は茜が大好きだー』なんて、この前学校でも叫んでたくらいだ」
「こら数寄屋。恥ずかしいからそんなことカミングアウトすんなよ」
「微笑ましくていいじゃないか。ねえ赤根さん」
「え……? ガタニ君、それを学校で叫んだの?」
ほら、赤根さんフリーズしちゃってるよ。
「あれ? どうしたの赤根さん。顔色悪いぞ?」
ホントだ。呆然とした感じ。
俺の猫好きがよっぽどキモかったんだろうか。
学校でそんなセリフを叫ぶ男子なんて、やっぱキモいよな。
「おい数寄屋。赤根さんにキモいって思われたじゃないか。どうしてくれるんだよ?」
数寄屋に文句を言いながら、横目で赤根さんの様子をチラ見する。
お願い! 嫌いにならないでくれ。
「えっと……キモいなんて思ってないよガタニ君。ね、猫好きってほのぼのしてていいなぁ、なんて思ってる」
「だろ? 赤根さんはこう言ってるぞ大和」
面と向かってキモいなんて、言うわけないだろ。
でもまあ確かに、気持ち悪がってるって感じじゃないな。ホッとした。
「そっか、キモいって思われてなくてよかったよ」
赤根さんに笑いかけたら、「うん、そんなこと全然思ってないから!」と、明るく答えてくれた。
「うん、私も微笑ましくていいと思うわ」
月ヶ瀬さんもそう言ってくれた。
「猫の名前、茜って言うんだね。私の苗字と同じでびっくりしたよ、あはは」
「そうだね。偶然だね」
猫と同じ名前だなんて言ったら失礼かと思って、今まであえて言わなかったけど。面白がってくれたようでよかった。
気がつけばいつもの明るい赤根さんだ。
それからまた四人でいくつかの屋台を覗いてから、この日は解散した。
***
帰宅しても、まだ赤根さんの浴衣姿が頭から離れなかった。
ホント、可愛かったなあ。
「お兄ちゃん、またニヤニヤしてるぅ。よっぽど楽しかったんだね」
あ、しまった。また妹のひかりに指摘された。
赤根さんとお出かけした日は、だいたいこうだ。
気をつけないといけない。
でもまあ──楽しかったんだから仕方がないか。




