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やり直し令嬢は竜帝陛下を攻略中  作者: 永瀬さらさ
第一部

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24

「よーし、なら出てこい」

「扉を開いた瞬間、攻撃したりしないだろうな!?」

「もちろんだ。こっちはそろそろ逃げる準備をしたいんでね、あんたらを全滅させる時間が惜しい」


 ぎい、と内向けの扉が開いた。

 ジルの背後では、皆が作り直したバリケードの中で身を潜めている。

 まだ外は明るい。頭目らしき男が一歩、前に出た。頭目というには、まだ若い男だった。なかなかの色男だ。軽薄そうだがいい面構えをしていると、のんびり観察する。


「よし。確かにそのガキだな。ご苦労さん」


 確認した途端、北方師団の服を着たままの頭目が片手をあげた。背後にいた兵が正面から火矢を構える。


「そしてお別れ――」


 地面を蹴ったジルは、火矢が放たれるより早く、頭目の顔面に膝蹴りを入れた。そのまま背後を取り、首を締め上げる。


「お前らの頭の命が惜しくば全員引け!」

「はったりだ! 俺にかまわずこんなガキころっ――」


 ぶんと右手を振って、周囲にいた敵をすべて吹き飛ばした。ついでに聖堂正面にあった見張り台が真っ二つに折れ、別の場所から火矢を放とうとしていた集団のほうへと落ちていく。


「な、ん……?」

「ちなみに船を壊して回ったのはわたしだ」


 地面に落ちた頭目の背中を踏みつけ、ばきりとジルは指を鳴らす。


「選べ。ここで全員死ぬか、おとなしく抵抗をやめて降伏するか」

「……っはは、油断したな! おい、今だ――」


 聖堂の中に向かって叫んだ頭目が途中でやめた。ジークに蹴り飛ばされ、スフィアの相談にのっていた神父が聖堂の外に転がる。


「残念、スフィアお嬢様なら無事よ」

「神父が刃物持って襲いかかるとはな。世も末だ」


 カミラとジークの言に、踏みつけていた頭目の体から力が抜ける。


「……俺だけでいいはずだ。部下は逃がしてやってくれ」


 なかなか男気があることを言う。ジークとカミラも顔を見合わせた。ジルは端的に答える。


「お前が誰とつながっているのかを吐けば」

「……。わかってんだろ。ベイル侯爵だよ」

「それを皇帝陛下に言えるな?」

「俺の言うことなんざ、そんなに重要かねぇ。お偉いさんにとっちゃゴミみたいなもんだろうよ、俺らは」

「お、お頭ぁ! お頭、ベイル侯爵が攻めてきやがった! 約束が、違……!」


 そこで走ってきた男は、矢で胸を射貫かれて絶命した。聖堂の中から出たスフィアが甲高い悲鳴をあげる。

 頭目が走り寄ろうとするのをジルは押さえこむ。殺気だったその目にささやいた。


「こらえろ」

「てめぇ……!」

「全滅したいのか! お前達が捨て駒なのはわかってる、わたしのできる限りで助けてやるから、今はこらえろ……!」


 頭目が両目を見開く。

 倒れた賊のうしろから、騎士団が出てくる。整然と統率のとれた動きはとても私兵とは思えない。訓練されているのだろう。


「……お前が皇帝陛下をたぶらかした子どもか」


 整列した立派な騎士達の中から、ひとりだけ馬に乗った男が進み出てくる。お父様、とスフィアがか細い声で言った。

 精悍な男だった。こちらを見おろす視線に嘲りがまじっている。よくクレイトス王城でもこんな目で見られた。


「幼くともクレイトスの魔女というわけか。化け物め」


 だから笑い返してやる。


「初めまして、ベイル侯爵。軍港は北方師団が取り戻してくれました。助けにくるのが一歩、遅かったですね」

「何を言う。間に合ったのだよ、私は」


 ジルは踏みつけていた頭目を、ジークのほうへ放り投げた。せっかくの手柄を横取りされるわけにはいかない。

 にたりと笑ったベイル侯爵が、片手をあげる。と同時に、上からいきなり大きな影がかかった。

 何かと見あげた先には――竜がいた。その口から吐き出される炎は、ただの炎ではない。

 竜神から与えられた裁きの火だ。


「貴様らを始末すれば、それで終わるのだから」

「全員、聖堂の中へ退避しろ!」


 ジルがひとりよけるだけなら問題ない。だが、よければ聖堂が燃える。防ぐしかない。

 両足を開いて見あげた。上空から竜が口をあける。


(くる!)


 竜の口からぷすんと音を立てて煙が出た。

 ジルが目をまたたいている間に、翼を広げて地面に墜落する。その巨体に、ベイル侯爵の軍が押しつぶされた。

 悲鳴が飛び交う中、落馬したらしいベイル侯爵の怒号が響く。


「ど、どうした、突然! 起きろ、攻撃するんだ!」

「そんなことをできるわけがないだろう、竜帝を前にして」


 背後からよく通る声が響く。だが、声色ほど気配は優しくない。

 冷水を浴びさせられたように混乱が静まった。

 鳥肌が立つほどの、圧と魔力。クレイトス王国のときと同じだ。ごくりとジルは唾をのむ。

 竜の体から上半身だけ這い出てきたベイル侯爵が、あえぐように言った。


「こ、皇帝陛下……」


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― 新着の感想 ―
[一言] 囮は大事にしなきゃ(違)
2019/11/19 20:02 退会済み
管理
[一言] 「そんなことをできるわけがないだろう、竜帝の僕を前にして」 竜帝の僕(しもべ)と読んでしまいました(´・ω・`)
2019/11/19 14:50 退会済み
管理
[一言] 普通に見たら嫁のピンチに旦那が駆けつける場面だけど この作品では嫁が手作りお菓子を持ってきた微笑ましい光景にしか見えない
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