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反省会

「千香さん、ほうれんそうて知ってますか?」


 放課後の図書室、僕は千香に説教をしていた。


「ええと、おひたしにすると美味しい野菜?」


 僕は、ムッとする。


「すいません、ふざけました。たしか、報告・連絡・相談だよね?」

「そうです、コミュ障という社会不適合者の一員である僕が言うのもおかしな話ですが、ほうれんそうはしっかりしてください」

「すいませんでした」


 謝る千香は、ただでさえ小さいのに余計に小さく見えた。


「確かに、お弁当という作戦は悪くない。実際ラブラブアピールになったと思う」

「でしょ。これ思いついた時、私天才て思ったもん」


 千香はドヤ顔する。


「昼も言ったが、千香は料理初めてだっただろ」

「うん、初めてだけど頑張ったよ」


 千香はちょっと嬉しそうに言った。なんだ、このコミュ障あざといぞ。


「……そうじゃなくて、わざわざ君が頑張って料理する必要はないだろ」

「だって、天王寺君に料理できる女の子て思われたかったんだもん」


 千香は惚けた顔をした。


「だからって、なんも連絡なしだと。僕の心の準備ができないだろ」

「まぁ、サプライズだし」

「しかたないみたいに言ってるけど、昼休み僕の心は大慌てだったんだからな」


 特に、あーん。あれは本当に心臓に悪い。


「どういうふうに?」

「そりゃあ、箸が変なところに刺さらないかとかな」

「ばか」


 いや、実際あーんの箸は怖い。あーんしてもらって嬉しい感情も無きにあらずなんだが、なんか怖い。


「ねぇ、陸斗。明日も弁当作ってきていいかな?」


 千香はいじらしく僕にそう言った。


「ああ、いいよ。実験台になってやるよ」

「なんかそれ、私の料理がまずいみたいな言い方じゃない」


 千香の料理はまずくはない。レシピを忠実に守っているから癖はない、気分的に自分で作るよりもうまい。でもそれだけで、美味しさのあまり服がはだけるというレベルではない。


「千香、自分独自のアレンジだけはしないでくれよ」

「なによそれ。ラブコメの料理下手のヒロインじゃないんだから、そんなヘマしないわよ」


 そうだよな。変な固形物体ができるのはフィクションだけだよな。


「それで、今後の作戦はどうするのよ?」


 上目使いで千香が聞いてくる。さっきから、千香があざといんですが。


「僕たちの目的は、天王寺と星野に恋人よりもいい男、女だと思わせることだ。イメチェンは上手くいったと思う。大事なのは、次だ」

「次ね……何か思いついているの?」

「さっぱりだ」


 はぁ、と千香はため息をつく。


「うーん」

「ぬーん」


 今日も金曜日と同じように唸るだけで、ロクにアイデアは出ずに終わってしまった。


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