銃は剣よりも強し
真咲は炎を生み出した右手を無造作に振った。その動きに合わせ火炎が鞭の様に伸び緋沙女を襲う。
しかし炎の鞭が緋沙女に届く前に、彼女が吐き出した氷の吐息がその軌跡を断ち切った。
「貴方の炎じゃ私は倒せない、私の氷じゃ貴方は倒せない……お互い不毛な事は止めましょう」
「不毛か……確かに不毛だぜ……だから今日で終わらせようぜッ!」
真咲の体から炎が噴き上げ、彼の体は炎の塊となった。
「……本気なのね……」
「ああ、本気だ」
「……あなたは処分したくは無かったのだけれど……」
そう言って緋沙女が右手を掲げると彼女の周囲に風と氷が渦巻いた。
「花!! タマを抱えて窓から逃げろ!! 二人の事は神さんには伝えてある、結界も通れる筈だ!!」
「でも……」
「お前らがいると全力でやれねぇからよ!!」
「……分かったにゃっ!! 花、行くにゃ!!」
「咲ちゃん!! 絶対に勝つだぞ!! 約束だッ!!」
「ああ……約束だ」
緋沙女と対峙した真咲の後ろを駆け抜け、二人は割れたガラスから飛び出した。
直後に珠緒は猫に変わり、花はその珠緒を抱いてワンピースの背中から羽根を生み出し空を飛んだ。
背後では真咲が炎を噴き上げ、高層マンションはまるで灯台の様に夜の街を照らし出した。
「咲ちゃん……咲ちゃん……」
『花、泣かなくても絶対に真咲が勝つにゃ』
「グスッ……どうしてそう思うだ?」
『真咲は緋沙女と違ってずっと矢面に立って来たにゃ、後ろから指示してただけの卑怯者に負ける訳が無いにゃ』
「……そだな……負ける訳がねぇべ!」
胸に抱いた珠緒の目を見て、花は大きく頷き羽ばたいた。
■◇■◇■◇■
炎を吹き出すマンション、そしてそこから飛び出した小さな影をヘッドマウントディスプレイで確認した後、桜井は眼前の敵に視線を戻す。
岡田以蔵、幕末の人斬りの名を名乗った黒髪の吸血鬼は上着を脱ぎ棄て、皮膜の羽根を羽ばたかせながら白鞘から赤黒い刀身の刀を引き抜いた。
『本当にコレとやるのかね?』
「俺は無能な吸血鬼でな……何かを斬る事しか出来ん……だが如何に俺でも炎は斬れんのでな……代わりにお前を斬ってやろう」
『ふぅ……戦闘狂か……戦場にもいたよ、君の様に戦いに魅入られた者が…………ではやるとしようか?』
「話が早くて助かるッ!!」
以蔵は叫びと共に鞘を投げ捨て翼を打ち、桜井の操縦する五メートル程の人型兵器に肉薄した。
『クッ、やはり速いッ!!』
以蔵の力、それは彼が言った様に何かを斬る事に特化していた。
岩を断ち、鉄を断ち、肉と骨を断つ、斬撃が彼の全てを支配していた。
ヒュッという微かな呼吸音と共に合金製の巨人に刃が振るわれる。
その刃は桜井が咄嗟に構えた左手のシールドの一部を音も無く切り裂いた。
「大きいだけで、見掛け倒しだったか?」
『……材質の見直しが必要なようだ』
断ち切られたシールドを見た桜井は、そう呟きつつ以蔵から距離を取ると右手に持った銃を彼に向ける。
「そう来ないとな……だがな」
桜井が以蔵に向けたのは高出力のレーザー兵器だ。
光と同じ速度でほぼ真っすぐに進む弾丸は、生物が躱す事は出来ない筈だった。
しかし以蔵は放たれる直前、銃口と指の動きから射線を見切り、連続して放たれたレーザーをいとも容易く躱していく。
『馬鹿な!?』
「銃は点の攻撃だ。銃口を見れば躱すのはそう難しい事ではない」
『……なるほどな……こちらも改良が必要だな』
そう言うと桜井は銃を背部のハンガーに掛け、腰から金属の棒を引き抜いた。
巨人がその棒を握り締めると青白い光が伸びる。
「俺と剣でやり合おうというのか!?」
『銃では君に勝てそうに無いのでね』
「……その光の剣なら勝てると? 人斬りを舐めるなッ!!」
剣に絶対の自信を持っていた以蔵は、桜井の言葉に苛立ちを見せ一気に距離を詰める。
その攻撃を左手のシールドで捌きつつ、桜井はタイミングを窺った。
以蔵は光の剣を警戒してか、突きを主体とした隙の少ない連撃を放っている。
シールドはその連撃で削られ、同時に攻撃を捌く桜井の集中力も削られていく。
一旦、間合いを開き仕切り直しを計った桜井の隙を見逃さず、再び以蔵は間合いを詰め、人型兵器の足元から刀を逆袈裟に振り上げる。
『それを待っていた』
その攻撃を桜井は損傷したシールドを構え踏み込みながらまともに受けた。
「なッ!?」
桜井が踏み込んだ事で力点がズレ、以蔵の刃は力が乗り切る前に腕に半ばまで食い込みながらも止まる。
その刀が食い込んだ左腕を裏拳の様に振り以蔵から刀をもぎ取ると、桜井はその勢いのまま右手の光の剣を以蔵に振るった。
「チッ!!」
以蔵は咄嗟に左手を変化させ刃を作り出し、光の剣を防ごうと構えた。
しかし光の剣は以蔵が生み出した刃を抵抗も無く断ち切り、彼の体を横に凪ぐ。
剣は以蔵の腹を溶断しながら左から右へ真っすぐに抜けた。
「グフッ……」
腹から下を失った以蔵は、口と腹から鮮血を吹き出しながら巨人を見上げる。
「何だ……それは……?」
『プラズマソード……発生させたプラズマを刀剣の形に磁界で形成させた武器だ……こうでもしないと当てられそうに無かったのでね』
「そう……かッ!!」
『なにッ!?』
答えた桜井の虚を突いて、以蔵は残った半身を日本刀に似た一本の刃に変え、巨人の胸を刺し貫いた。
『グッ!! ……カハッ……』
刃は巨人の装甲を貫きコックピット内の桜井の胸骨を通り抜け、心臓の中心を切り裂き止まった。
その刃から以蔵の顔が現れ口を開く。
「俺に奥の手を使わせたんだ。お前もこの鉄の巨人も本当に強かったぞ……よい死合いだった……」
「そうか……クッ……さっ……」
「何だ?」
以蔵は苦痛に顔を歪める桜井の呟きを聞き取ろうと、耳を口元に近づける。
「さっき……銃では……勝てそうに……無いと……はぁ、はぁ……言ったな?」
「それがどうした?」
「あれは……」
「あれは?」
「……クッ……嘘だッ!!」
そう口にした瞬間、残った力を振り絞り桜井は以蔵の髪を掴むと、太腿のホルスターから抜いた大型リボルバーM500でこめかみを撃ち抜いた。
以蔵の頭は爆発する様に弾けて、コックピット内に鮮血が飛び散らせ、桜井の装備したボディースーツとヘッドマウントディスプレイ、そして周囲の全てを赤く染める。
その赤も限界を超えた為か揺らめき灰に変わっていく。
「ふぅ……吸血鬼で……無ければ……はぁ、はぁ……即死して……クッ……いたな……この機体も……設計から……見直しが……必要なようだ……真咲は……?」
そう呟くと、眼下のマンションに視線を送る。見れば屋上は既に無く二人の吸血鬼が炎と冷気をぶつけ合い暴風を生み出しながら戦っていた。
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