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二人だけの秘密の場所

 翡翠(ひすい)を捕らえた上田(うえだ)の家の前、海に面した道路脇のコンクリートで出来た低い防護柵に腰かけ、人魚の少女の話を黒髪の少年が頷きながら聞いている。

 それを少し離れた場所で微笑みながら見ていた真咲(まさき)に、気絶した上田を運び出した警官隊と共に家から出てきた正太郎(しょうたろう)が声を掛ける。


「……あの少年は?」

「翡翠ちゃんのボーイフレンド」

「ボーイフレンド……なるほど、彼女はあの少年に会う為に岬を訪れ上田に……彼にも詳しく話を聞く必要がありそうだな」


「相手は中学生だ。優しく頼むぜ正太郎」

「分かっている! ……はぁ、子供相手は苦手だ……高木(たかぎ)巡査、任せていいだろうか?」

「了解です!」


 未来(みらい)は敬礼をし、された正太郎は嘆息しながらこめかみを指で揉んだ。

 そのこめかみを右手の親指と中指で揉んでいる正太郎に、苦笑を浮かべつつ真咲は少し気になった事を尋ねる事にした。


「そういえば闇オークションの件で動いてたんだろ? そっちはどうなってんだ?」

「そちらは別動隊と三課が動いている。奴らの初陣だ、これで三課がどれ程使えるかが分かる」

「三課、義経(よしつね)達が……ってことは、オークションを仕切ってるのはやっぱ人じゃねぇんだな?」


「ええ、首謀者の自称佐藤(さとう)を名乗る男は恐らく悪魔、彼の部下も獣人や魔女等の主に西洋系の人が殆どの様です」

「佐藤はやっぱ悪魔か……俺と正太郎たちが関係あるって知ったら、あいつ怒るだろうなぁ」

「私はそんな狭量(きょうりょう)では無いよ」


 真咲達が声に視線を向けると、黒のダブルスーツを着た鼠顔の男がいつの間にか彼らのすぐそばに立っていた。


「佐藤……」

木船正太郎(きふねしょうたろう)。今回の件は君が主導して行ったそうだな?」


 佐藤は名前を呟いた真咲には目もくれず、真っすぐに正太郎を見つめていた。


「……そうだ」

「……気を付けたまえ、オークションにはこの国の上層部の中にも顧客がいた……その彼らの意向に君は背いたんだ」

「フンッ、そんな事は百も承知だ。上層部と言ったが上も一枚板では無い。人魚達との交友を優先する者もいる」

「クククッ、確かにな。まったく金で転ばん奴らは面倒でいかん……ともかく忠告はした、ではな」


 そう言うと佐藤の姿は一瞬で掻き消えた。

 相手が何者だろうと己の信念に従い行動する正太郎に、おそらく彼は釘を刺しに来たのだろう。

 余り効果は無かったようだが……。


 真咲がそう考え、チラリと正太郎に視線を送ったのとほぼ同時に、正太郎のスマートフォンが着信を告げた。


「木船だ…………やはり逃げられたか………………先程、こちらに挨拶に来たのでな、そっちにはいないと思っていた………………ああ、そうかよくやった。帰投してくれ」


「先輩……」

九郎(くろう)からだ。オークション主催者の佐藤は取り逃したが、奴の部下の確保、及び人魚の肉は回収したそうだ」

「人魚の肉……その人魚はどうなるのじゃ?」


 人魚の肉と聞いて(たえ)が思わず正太郎に問い掛ける。


「君は木村の連れだな? 何者だ?」

「彼女は妙、あんたらが回収した人魚をずっと守ってた人さ」


「人魚を守る? 回収された人魚は肉……つまり死体だろう? 死体を守るとは?」


「もう儂のような者は増やしたくなかったのでな……回収した肉は誰の手にも触れぬようしてもらえるかの?」

「……君も人魚を食べたのか?」


 正太郎の言葉に妙は静かに頷いた。


「そうか……上田の件が終われば、私が責任をもって厳重に保管する事を約束しよう」

「……よろしく頼む」


 妙は肩の荷が下りたのか静かに微笑みを浮かべ正太郎に深く頭を下げた。

 そんな妙に正太郎は顔を引き締め敬礼を返す。


「では行くかの咲太郎?」


 顔を上げた妙は真咲を振り返り先程の微笑みのまま言う。


「……このまま帰るのか? なんなら事務所に……」

「いや、それはまた今度にするとしよう……久しぶりに大勢の人を見ていささか疲れた」


「そうか……んじゃ正太郎、未来ちゃん、翡翠ちゃんと駿(しゅん)をよろしく」

「ああ任せろ……妙さんだったか、参考人として話を聞きたいので連絡先と住所を教えて頂けるだろうか?」

「連絡先と住所……すまぬ、山中に住んでおるので電話の様な物は何も……住所も日馬峠(ひばとうげ)の山の中としか……」


 妙の答えに正太郎は一瞬顔をピクッと引きつらせた。その後、すぐに表情を戻し未来に視線を移す。


「……なんですか?」

「高木巡査、妙さんに同行して住所の確認を」

「えっ? でも翡翠ちゃんと駿君の話を聞かないと……」

「そうか、そうだったな……致し方無い、私が同行して場所を確認しよう。木村、貴様の車に私も乗せろ」

「えー、正太郎を?」


 真咲はあからさまに嫌そうに表情を顰めた。


「……なんだ? 私が同行すると都合の悪い事があるのか?」

「いや、ねぇけど……お前、冗談通じねぇじゃん」

「安心しろ、貴様と話すつもりは無い。道中、妙さんから話を聞かせてもらうからな」


「じゃあ俺は誰と話せばいいんだよ!?」

「貴様は黙って車を運転すればいい。妙さん、それでよろしいか?」

「あっ、ああ、儂は構わんが……」


 妙が戸惑いながら了承したのを確認して、正太郎は彼女に頷きを返し改めて未来に向き直る。


「では私は木村に同行し参考人である妙さんの在所の確認及び聴取を行う。高木巡査は翡翠さん及びボーイフレンドの少年……確か駿君だったな。彼から話を聞いてくれ。今回は人魚側の要請で、出来る限り早く彼女を海に戻して欲しいと言われている。聴取が終わり次第、海上保安庁へ連絡して送還の手続きを初めてくれ」


「了解です!」


「……彼女が不安を感じるかもしれん。聴取は二人一緒に行う様に」

「先輩……先輩にもそんな人間らしい心が……」

「ほんとだぜ正太郎。ちょっと見直したぜ」

「クッ……貴様らは私を何だと……もういい、木村、車を出せ!!」


 声を荒げた正太郎に「ちょっと待ってくれ」と返し、真咲はコンクリートの防護柵に座って話をしている駿と翡翠に歩み寄った。


「真咲さん」

「俺は人を送って行かなきゃだから、ここでお別れだ。翡翠ちゃん、駿、二人は暫く会えないかもだけど……」

「それなんですが、翡翠に会いに来てもらうんじゃなくて、僕から会いに行こうかと……」


「ん? 会いに行く? どゆこと?」

「あのね、人が一杯住んでいる所だと、また見つかっちゃうでしょ? だから二人だけの秘密の場所で会おうって駿が……」

「僕、釣り用の電動ボートを持ってるので、それでその場所まで通う事にしたんです……」


 この二人は真咲が思っていたよりずっとアクティブだったようだ。


「あっ、そっ、そうなんだ」

「ええ、翡翠と何年も会えなくなるなんて、僕には耐えられない……その事が今回の一件でよく分かりましたから」

「えへへ、私も駿に会えなくてすっごく寂しかったぞッ!」

「翡翠……」

「駿……」


 見つめ合いイチャイチャし始めた二人を見て、真咲は肩を竦めてその場を離れた。

 中学生の少年と人魚の少女、陸と海で暮らす二人は離れた事でお互いの存在をより強く意識したようだ。

 これから先、二人がどうなるかは分からないが、そんな事は万人に当てはまる事だろう。


「上手くいく事を祈ってるよ……」


 呟いた真咲に眉間の皺を深くした正太郎が声を掛ける。


「木村、用が終わったのなら早く車を出せ!」

「へいへい……」


 真咲は苦笑を浮かべると、海を背に微笑み合う二人に一瞬視線を向けて微笑むと、正太郎と妙の待つワンボックスカーへと駆け出した。

面白かったらでいいので、ブクマ、評価いただけると、嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 駿くん、溺れ死んだりしないようにね! 佐藤さん、かなりの大物だった(*゜ロ゜) 政治家とか、触れちゃいけない案件だったのね。
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