警視庁特殊事案対策部第三課
黒髪の少年は服に付いた血を見て身構えた真咲と、眉根を寄せ胸元で右手を握った未来に冷たい視線を送った。
「九郎さん、どうして……?」
「力を取り戻し部下を救う為だ」
「だとしても一言相談ぐらい……」
「相談? そもそも私とお前はテロリストと警官、いわば敵同士だ。慣れあうのは元から無理があったのだ」
「……義経さんよぉ、だからって人間襲って血を飲んでいいって事にはならねぇぜ」
「フンッ、飲んだのはクズ共の血だ。貴様の代わりに縄張りを掃除してやったのだ、感謝しろ」
「感謝だと……」
真咲はギリッと奥歯を軋らせた。
「お前がどんな奴を痛めつけたかは知らねぇが、それは俺達の仕事じゃねぇだろ?」
「弱者を暴力で威圧し虐げるケダモノを誅して何が悪い?」
そう言って冷たい笑みを浮かべた義経に未来はツカツカと歩み寄ると、思い切りその頬を叩いた。
パンッと渇いた音が裏路地に響く。
「それは本来、私達、警察の仕事です……九郎さん、これ以上あなたに犯罪を犯させる訳には行きません……一緒に警察へ行きましょう」
そう言って未来が掴んだ右腕を義経は振りほどかなかった。
「……警察でも監獄でも何処へでも連れていけ」
「……分かりました……木村さん、ご協力ありがとうございました。依頼料は後日お支払いします」
未来は感情を押し殺した声でそう言うと、九郎の右手首を握り彼を連れて口をへの字にした真咲の横を通り過ぎた。
「……待ちなよ」
「……何でしょうか?」
振り返った未来に真咲は笑みを浮かべる。
「未来ちゃんは義経と一緒にいたいんだよな?」
「……」
「んで、義経も未来ちゃんとホントは一緒にいたい。違うか?」
「……先程未来に言ったが、貴様も知る通り私はテロリストだ。そんな事出来る訳があるまい?」
「だからわざと騒ぎを起こして、未来ちゃんがお前を突き出さざるを得なくしたのか?」
「……そうなんですか、九郎さん?」
問いかけた未来から義経はプイッと顔を逸らせた。
「……お前との関係は遅かれ早かれ破綻していた。なら早い方が傷も浅くすむだろう」
「九郎さん……」
「あのー、俺もいるんスけどー」
潤んだ目で義経を見る未来に真咲は苦笑しながら声を掛けた。
「あっ、すみません……」
頬を染めた未来に微笑み掛け、真咲は尋ねる。
「未来ちゃん、この事、誰かに相談したかい?」
「いえ、誰にも……」
「そうか……」
頷きを返すと真咲はコートのポケットからスマホを取り出した。
「あの……?」
問いかけた未来を、横を向きスマホを耳に当てた真咲は左手を突き出し制止する。
「もしもし、真咲だけど今大丈夫かい? …………前に俺みたいな奴らを集めてやりたい事があるって言ってたよな? アレってどうなってる? …………うん………………そうなんだ。あのさ、うってつけの連中がいるんだけど、ねじ込んでみない? ………………うん? 今、二課が拘留してる奴ら………………分かってるよ。だから正太郎も巻き込んでさ………………監視でも何でも理由つけりゃいいじゃん………………あんただって俺に正太郎の事、押し付けたろ? ………………へへッ、んじゃよろしくー」
「あの木村さん? 一体誰と?」
「嶋さんだよ」
「警部と? 警部に何を……?」
真咲は不安顔の未来とムッとした様子の義経にニヤリと笑みを向けた。
「義経とその一党、ナインジャッジを陰陽課に組み込むって話」
「我々を警察に!?」
「ああ、嶋さんは前から俺達みたいなの相手に、いくら装備があるからって人間で対抗するのは限界があるって言ってたんだよ」
「そう言えば警部には、いつも深追いするなって口を酸っぱくして言われてました」
「あの人、何人も部下を亡くしてるからな。だからずっと上に妖怪やモンスターで構成された、第三課を作るべきだって訴えてたのさ」
そう言った真咲に義経は不満顔で尋ねる。
「その第三課に我々になれと言うのか?」
「そうだ。このままじゃお前らつながれちまうんだ。どうせ鎖を付けられんなら、犬になってもいいだろ?」
「あの、九郎さん達は犯罪者です、いくら警部が言ってもそれは難しいんじゃ……」
不安を口にした未来に真咲は笑みを返した。
「嶋さん、あれで上にも顔が効くからな。そこは問題ねぇと思う……そもそも三課が出来なかったのは人材が集まらなかった事が原因らしい。まぁ、仲間を裏切るようなもんだからな。その点、ナインジャッジは他の吸血鬼とも対立してるみたいだし……丁度いいだろ?」
「……貴様の掌の上で転がされている様で腹が立つが、部下を救うにはそれしかないか……」
「九郎さん、木村さんの案に乗るんですか!?」
しゃがみ込み義経の横で目を丸くした未来に、彼は苦笑を浮かべる。
「……下衆共を襲い十人程の血を飲んだが、成長は僅かだった……この分では大人の肉体と力を取り戻す前に私は血狂いとなるだろう……それは本位では無いのでな」
「九郎さん!!」
未来は血で服が汚れる事も厭わずギュッと義経を抱きしめた。
「ちぇッ、義経、お前上手くやったな?」
「上手く? 何をだ?」
「何って未来ちゃんだよ。そんな可愛くておっぱい大きい子、中々いねぇぞ」
義経は抱きついていた未来の肩をそっと押し、彼女を引き離すとニヤつく真咲に無言で近寄った。
「何だよ?」
義経は笑う真咲の顔をムッとした表情で見上げ睨むと、思い切り彼の左足の向う脛を蹴り上げた。
「いでッ!!!」
「この下衆がッ!!」
脛を抱えピョンピョンと飛び跳ねる真咲に背を向け、義経は口に手を当て目を見開いている未来に歩み寄った。
「この下衆の策が上手くいくかは分からん……だがもし上手く行ったら…………私と共にいてくれるか?」
「…………甘えん坊さんですねぇ……いいですよ。一緒にいましょう」
「そうか……感謝する」
視線を逸らしぼそりと言った義経の頭を、未来は微笑みながら優しく撫でた。
■◇■◇■◇■
義経と手を繋ぎ事務所へ向かった未来は、そう言えばと気になっていた事を真咲に問い掛けた。
「あの、木村さん、私が思わず九郎さんって叫んだ時、あんまり驚いて無かったですよね? その後も普通に義経って呼んでましたけどアレは何で……?」
「ああ、アレね。だって義経の偽名、常盤十郎だろ?」
「そうですけど、それが何か?」
「常盤ってこいつの母ちゃんじゃん。俺、結構最初の方で気付いてたけど未来ちゃんも隠したがってたみたいだし、気付かないふりしてただけだよ」
「そっ、そうだったんですか……九郎さん、偽名、駄目でしたね」
「クッ、咄嗟によい名前が浮かばなかったのだ……何だ!? その哀れみを含んだ目を止めろ!!」
あんなので騙せると思っていたのかと考えた真咲は、我知らず可哀想な子を見る様な視線を義経に向けていた。
それに気付いた義経は真咲を睨みつけ声を荒げる。
「悪ぃ悪ぃ。でもまぁ……名前の事でも分かるけど、あんた、犯罪者やるには真っすぐ過ぎるわ。昔そういう役職も貰ってたんだし警官も悪くねぇんじゃねぇ?」
「むぅ……判官か……」
「えへへ、上手く行ったら同僚ですねぇ」
「……そうだな……未来と同僚か……それは悪くないかもしれんな」
そう言った義経に未来は満面の笑みを浮かべ頷き返した。
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