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彼女の願いは

 桜井(さくらい)の車で帰って来た真咲(まさき)達をラルフが珍しく慌てた様子で出迎えた。


「真咲さん、桜井さん、(はな)さんが!?」

佳乃(よしの)に何かあったのか!?」

「急にお腹が痛いとトイレに駆け込んで……その後、部屋に閉じこもってしまったんです……」


「腹が? 基本、吸血鬼が体調を崩すなんて大量に血を失うとかしかねぇ筈なんだが……」

「クッ、とにかく佳乃に話を!」

「左側の一番目の扉です」


 桜井は廊下に続く扉を開けラフルの言葉に従い、左右に伸びた廊下の左手一番目のドアをノックした。


「佳乃!? 大丈夫なのか!?」

「……大丈夫だぁ、そっとしておいてくんろ」


 必死さのにじみ出た桜井の言葉に素っ気ない返事が返ってくる。


「……腹部の痛み……成長……もしかして……」

「真咲さん、何か心当たりが?」

「多分、合ってると思うが……こいつは俺達じゃどうにも出来ねぇ」

「どうにも出来んとはどういう事かね!?」

「まぁ、落ち着きなよ。助っ人を呼ぶからさ」


 そう言うと真咲はスマホを陰陽課(おんみょうか)の戦闘服のポケットから取り出した。

 戦闘で壊れると厄介なので車に残しておいて正解だった。


 そんな事を考えながら目的の人物の名をタップする。


「あっ、夜分遅くに申し訳ありません。真咲っスけど今大丈夫ですか…………ちょっとお願いしたい事が…………ええ、十歳ぐらいの女の子なんですけど、お腹が痛いっていってまして……多分アレじゃないかと…………そうなんスよ、男所帯じゃなんとも…………ええ、お願い出来ますか? …………そうスか! 恩に着ますッ!!」


 真咲はその場で頭を下げ礼を言った。


「一体何なのだ!? 誰に電話を!?」

「現役キャバ嬢で母親だ。俺の知り合いじゃ一番適任だと思う」

「だから佳乃は一体何に苦しんでいるのだ!?」

「まぁまぁ、多分悪い事じゃねぇから……俺達は事務所で待つとしようぜ」


 それから二十分程して事務所のインターホンが鳴った。

 真咲はソファーから腰を上げ、入り口に向かうと扉を開ける。

 そこにはウェーブのかかった栗色の髪の美女が、コンビニの袋を下げて笑みを浮かべていた。


「すみません、香織(かおり)さん。こんな遅くに……」

「丁度、仕事が終わったトコだったから気にしないで。それよりその子は?」

「こっちっス」


 真咲は香織を案内して廊下に繋がる扉を開けた。


「そのドアっス。多分香織さんなら花も話をしてくれると……」

「花ちゃんね。分かったわ、任せて」


 真咲は花の部屋へ向かう香織の背中を見送り、そっと廊下の扉を閉めた。


「……現役キャバ嬢……彼女が佳乃の助けになるのかね?」


 桜井は落ち着かない様子で真咲に尋ねる。

 そわそわとしたその姿は鬼と一対一でやり合い勝利した男とは思えない。


「大丈夫だ。彼女は一児の母親だからよ。ここにいる誰よりも経験が豊富な筈だぜ」

「経験……長く生きている吸血鬼の君よりもかね?」

「ああ、なんせ俺は経験した事ねぇからよぉ」


「真咲さん、一体、花さんは何の病気なんです?」

「多分、病気じゃねぇ……人間なら普通の事だよ」

「人間……女の子……普通…………なるほど……彼女の願いは叶ったのですね?」

「……ああ」

「……そうですか」


 ラルフは見当がついたようで優しい笑みを浮かべたが、桜井は何の事かピンと来ていないようで困惑気味に真咲とラルフの顔を交互に見ていた。


「なぜ君達はそんなに落ち着いているんだ!? 私にも分かる様に説明してくれたまえ!!」

「ディー、そんな事言ってると花に嫌われちまうぞ」

「なっ、何故だ!? 私は純粋に佳乃の体を心配して……」


 唾を飛ばし落ち着かない様子の桜井を他所にラルフが真咲に尋ねる。


「ところで、そのディーと言うのはなんですか?」

「このおっさんのコードネームらしい、そう呼んでくれって言うからよぉ」

「ディー……イニシャルですか? だとしたら車の運転が上手そうですね?」


「ドイツ人なのにあの漫画知ってんのか?」

「あの作品は海外でも人気ですから」

「何を暢気に話しているんだ!?」


 察しの悪い、いや、彼は戦場で暮らしていたそうだから周囲には男しかいなかったのかもしれない。

 そう考え真咲が苦笑を浮かべていると廊下へのドアが開き、パジャマを着た花が香織に手を引かれ事務所に顔を出した。


「花、大丈夫か?」

「……」


 真咲の問い掛けに花はコクンと頷いた。


「……急だったで、ビックリしちまっただよ」

「花ちゃんには私から説明しておいたから」

「ありがとうございます、香織さん」


 真咲は立ち上がりそう言うと、香織に頭を下げた。


「あの……佳乃は……その子は大丈夫なのか?」

「ええ、ほら、花ちゃん」

「……んだ。……お父、オラ……オラ、大人になっただよ……」


「大人に……? しかし見た目はまったく……?」

「そういう事でねぐて……お父は鈍感過ぎるべ!」

「クッ、鈍感…………大人…………女の子……まさか、生理が!?」


 桜井の言葉で花の顔は真っ赤に染まった。


「おっ、お父の馬鹿ぁ!!! おたんこなす!!!」


 目に涙を溜めて花は桜井を罵倒すると自室に駆け込んだ。


「……お父さん、あの年頃の子はデリケートなんですからもう少し言葉を」


 香織が呆れを含んだ苦笑を浮かべながら、茫然とする桜井に声を掛ける。

 そんな香織の言葉は桜井には届いていない様だった。

 彼は娘と同様、花の感情とは別物の様だが目を潤ませていた。


「……出会って三年……ずっと佳乃の事が不憫だった……成長しない彼女は親しい友人もいなくて……そうか……本当に体が……真咲!! 全部君のおかげだ!!!」

「いいって事よ……って、いででで!!!」


 桜井はあふれ出る感情のままに、頭を掻いていた真咲の手を取るとギュっと力強く握りブンブンと振った。

 握られたその手は人間離れした桜井の握力によってバキバキと嫌な音を立てている。


「大変!?」

「ああ、大丈夫ですよ香織さん、真咲さんは頑丈ですから。それより夜遅くにご足労頂いてありがとうございました。私が真咲さんに変わってお送りしますよ」

「えっ!? でも……」

「ハハッ、あれは友人の男二人がじゃれ合っているような物です。さぁ、行きましょう」


 ラルフに背中を押され香織は事務所の入り口へと送り出される。


「そうなの? ……じゃあ、真咲君、またね!」

「グググッ!! はっ、はい!! 香織さん!! ありがとうございました!! クソッ、ディー放せ!!」

「あ゛りがとう!!! 本当にぃ!!!」


 鼻水を垂らし泣きながら手を握る桜井に、真咲は必死に抵抗したがその後も暫く彼が真咲の手を放す事は無かった。

面白かったらで結構ですので、ブクマ、評価いただけると、とてもありがたいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 桜井さん、痛い…痛いから止めてあげて…(ノД`) そうだ、お赤飯炊かなきゃなぁ。
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