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【第4巻10/24発売!】高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない  作者: ミソネタ・ドザえもん
門出を祝う女王様

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林恵の好きな人

 翌朝、目を覚ましたあたしは灯里が起きるのを待って帰宅した。

 灯里は山本と違い、どうやら朝が弱いらしい。高校二年の時からほぼ一緒にいたのに、あたしは今日そのことを初めて知った。


 帰宅道、あたしは丁度帰路の途中にあったコンビニに立ち寄った。

 あいつはもう朝食は食べただろうか。

 半日近く家を空けてしまった。適当に食べるとか言っていたが、掃除に夢中になって何も食べておらず、空腹のあまり倒れてしまった、だなんてこと……ないないない。


 ない……と、言い切れないのがあいつの怖いところだ。


 おにぎり。

 サンドイッチ。

 汁物に、お弁当。


 二千円近くをコンビニで使い、あたしはパンパンに膨れたレジ袋を持って家に帰った。


「ただいま」


 レジ袋を調理場に置いて、あたしはリビングの様子を確認した。


 ……換気のためだろうか。

 窓は全開。カーテンは吹き込む秋頃の少し冷たい風でたなびいていた。


「ん? おう。おかえり」


 山本は窓の掃除をしていた。

 窓の掃除、といっても窓拭きをしていたわけではない。窓のレールの隙間に溜まったゴミを、あいつの所有する様々な掃除用具で綺麗にしていく、そういう作業をしていたのだ。


「早かったな。今日も一日、ゆっくりしてくるのかと思ってた」


「……何よぅ。迷惑だった?」


「俺、そんなこと一言も言ってないが?」


 わかってる。

 そんなこと、言われずともわかってる。


 ただ、もっと配慮のある発言をしてくれたって良いじゃない。


 待ってたよ、とか、お前がいなくて泣きそうだった、とか。


 ……こいつに限って、絶対に言わなそうな言葉を求めていると気づいて、少しあたしは苦笑した。


「どうだった? 友人代表スピーチはまとまったか?」


「……全然」


 昨日の寝る直前は、疲労や責任感からふさぎ込んでいたが……こいつと話していると、不思議と心が落ち着く。

 

「いやあ、これ、難しいよ」


 どうしてだろう。

 どうして、落ち着くんだろう。


 ……ああ、そうか。


「じゃあ、一緒に考えるか」


 山本を頼れば大丈夫。

 いつしかあたしは、一緒に暮らす彼に、全幅の信頼を寄せていたんだ。


 仕方ない。

 仕方ないじゃないか……。


 ここに来てまだ二ヶ月くらい。

 たったそれだけの間にあたしは、一体どれだけこいつに満たしてもらえたんだ。


 こいつはあたしに、様々なことを与えてくれた。


 ドメスティック・バイオレンスの被害から救ってくれた。

 勘当されていた親と再会の機会を作ってくれた。

 親友との再会の場を設けてくれた。


 そして、あたしはかけがえのない恋をした。


 ……だから、あたしが山本を頼るのは仕方のないこと。

 だから、全部……。


 全部、山本が悪いんだ。


「うん。よろしく」


 あたしは微笑んだ。

 きっと、必ず、山本を頼れば大丈夫。


 こいつならきっと、あたしのことをまた助けてくれる。

 こいつならきっと、あたしの困り事なんて一瞬で解決させてくれる。


『それで、山本君に相談してみなよ』


 ふと、あたしは昨晩の灯里のセリフを思い出した。

 無力感に苛まれる灯里が、あたしに助言したことは……山本を頼れ、ということだった。


 あたしは、今の自分と当時の灯里を重ねていた。

 そして、気づいた。


 ……そうか。


 灯里。

 あんたも、山本に救ってもらったことがあるんだね。


 だから灯里も……山本ならなんとかしてくれると、そう確信してあたしに助言が出来た。


「……あんたも罪な男だよ」


「ん?」


「なんでもない」


 山本の掃除が終わるまで、あたしは昼ご飯の支度でもして待っていようと思った。

 ふと、あたしは調理場に置かれたたくさんの食べ物を見つけた。


「あー……、ねえ、山本?」


「なんだ?」


「お昼、唐揚げ弁当とツナマヨおにぎりとたまごサンドと豚汁で良い?」


「なんか多くね?」


 山本は困惑しているようだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あのー、最高すぎます。笑
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