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【第4巻10/24発売!】高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない  作者: ミソネタ・ドザえもん
門出を祝う女王様

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名前当てクイズ

 その日の夜、林が振る舞ってくれた夕飯を食べ終わった俺達は思い思いの時間を過ごしていた。

 部屋中に流れる音はテレビの音。いつもならここに林の見るスカッと系動画の音が交じるのだが、今日はそれは聞こえてこない。


 ちらっと林を見れば、今彼女が見ているのは、元恋人の部屋であいつが見つけた、あいつの卒業アルバム。


 厚いページを一枚一枚捲りながら、林は静かにそれに見入っていた。

 今、林は一体何を考えながら卒業アルバムを見ているのだろう。メガネをかけて、俯きぼんやりとアルバムを見ている今の姿からは、その胸中は推し量れない。


「ふふっ」


 林は唐突に微笑んだ。


「なにか面白いものでもあったか?」


「いやあ、あんたの写真全然ないなあって思って」


「わざわざ俺の写真、探してたのか?」


「……まあ、ね」


 林はバツが悪そうにそっぽを向いた。目を逸しながら、乾いた笑みを浮かべていた。


「ねえ、どうせなら一緒に見ない? 本当、結構懐かしいよ?」


 結構懐かしい、か。

 それは多分、あいつが高校時代を一生懸命楽しんだからこそ生まれた感想だ。


「懐かしむ、という感情は、別れあっての感情だ」


 俺は言う。


「何よぅ。相変わらずまどろっこしい言い方するわね」


「……お前は、銀行でキャッシュカードを作った時にしか会ったことない人と話した過去を思い出したとして、懐かしいと思うか?」


「本当にまどろっこしいんだけど」


「ないよな?」


「えー、どうだろう?」


「ないよな?」


「……うん」


「そうだよ。ないんだよ。何故なら、一度しか会ったことがない人との別れは別れと認識されないからだ。つまりだな、懐かしむという感情は、別れと認識出来る別れを経て初めて生まれるものなんだ。別れと認識出来る別れってのは、相応の関係を築いて別れないとそうならないんだ」


「面倒臭い言い方だけど、つまりあんたは……高校時代にそういう関係を築いた人はいなかったってこと?」


「まあな」


 えっへん。

 俺はドヤ顔をした。


「灯里」


 そして、俺は林の言葉に俯いた。

 ……そうだったな。


 仏頂面で、俺は林の隣に移動した。

 肩が触れると、林は俺から一歩分距離を取った。


 林はしばらく隣にいる俺でも目で追えるようにゆっくりとアルバムのページを捲ってくれた。

 卒業アルバムは、最初の方は学校と教員の紹介からスタートしていた。ついで、教員達の集合写真。加古川先生とか、懐かしい顔がそこには並んでいた。


 ……教員の顔写真を見て、懐かしいと思える日が来ることになるとは、思ってもいなかった。

 

 そこからは、各クラスの集合写真とクラスメイトの顔写真。卒業アルバムの顔写真のために、奇抜な髪型にしてきている人がいたり、なんだか少し面白い。


 ひとしきりのクラス写真の後は、一年から三年の間にあった行事の写真が並んでいた。

 一年時の入学式。林間学校。

 二年時のインターンシップ。修学旅行。

 そして三年時の模試。

 毎年あった合唱コンクールや体育祭。文化祭は年度毎にページが設けられていた。ページ数稼ぎだろうか?


「一応聞くけど、あんた三年生の時の文化祭は、実行委員長だったんだよね」


「そうだ。キャンプファイヤーの写真はあるのにな」


「これ、灯里が男に告白されてた場面だよね」


「……そうだな」


 敢えて笠原の名前をここで出す意味ある?

 俺の心が動いた瞬間でもあるから、俺はなんとも形容し難い顔で返事をした。


「他にも……入学式、あんた新入生挨拶任されてたんだ」


「まあな。俺、実は賢いんだ」


「うわー、うぜー」


 林は微笑む。


「全然記憶になかった。ただ、逆に行事のページで出てくるの、これくらいじゃない?」


「……まあ、敢えて表に出て目立とうとは思わなかったしな」


 体育祭のページ。

 所謂陽キャの連中が半袖短パンの体育着で運動する写真が収められている。中々、構図が様になっている写真だ。俺は少し感心していた。


 ……ただ。


「鍛え方が甘いな」


 一時期筋トレにハマった俺からすれば、連中の肉体は物足りない。何なら、俺の方が整っていたまである。

 自慢に聞こえるかもしれないが、これはまごうことなき自慢だ。


「そう言えば、あたし高校時代に学校側の喫茶店に行った時、あんたを見かけたことがあった気がする」


「もしかして、パブロって店か?」


「あー、そうそう。確かあんた、ジムに入っていくところだったなー。あたし、それ見て舌打ちしたから良く覚えてる。アハハ!」


 ……アハハ! じゃないが?


「もしかしてあんた、筋トレにハマってたとか?」


「その通りだ」


「へえ、もう止めてよ?」


「なんで」


「だってあんた凝り性だから。一周回って体に毒」


 ……親と同じ言い分に、俺はただ黙った。


 後は部活動紹介のページと続き、アルバムは終わった。

 いや、終わりではなかった。

 俺達が高校にいた間に起きた社会の沿革。


 そして最終ページには……。

 色とりどりの蛍光ペンやボールペンでされた寄せ書き。


「懐かしい。皆で書きあったなぁ」


「へえ、そんなことしてたのか。お前達、仲良いんだな」


「お前達って……ごめん。これ以上は何も言わない」


 まあ、お前達って、の時点でおおよその予測は付く。

 お前達って、あんたは友達と寄せ書きしなかったの?


 林の言いたいことはこれだったのだろう。

 そして、言うのを止めた理由。

 それは、あまりに明白だったからだ。

 何が明白だったかは……言わずともわかりそうだ。


「まあ、昔から俺は斜に構えていたからな」


「斜に構えていたんじゃなくて、友達いなかったんでしょ?」


「まあな」


「ごめん。あんたのせいで、あんたの古傷を抉っちゃったよ」


「古傷って……俺が卒業アルバムの最終ページに皆から寄せ書きされなかったこと、トラウマと思っているみたいじゃないか」


「違うの? ごめん。そうだね。あんたはそういう質じゃない」


 林は俺の言葉を一々奪っては、余計に酷い言葉をかけていく。

 納得するのは良いが、後先とか俺の気持ちとかもちょっとは考えてほしいものだ。


「二、三年時はキャンプファイヤーの写真あるのに、一年時はないね」


「敢えてかな。誰かさんへの嫌がらせだろう」


「卒業アルバム委員の中に、あんたのことを毛嫌いしている人がいたのかもね」


「まあ、俺は中々嫌われていたからな」


 林は黙った。

 開き直った俺に、呆れ返ったのだろうか?

 ただ、寂しそうな顔をしているし、もしかしたら別の理由で黙ったのかもしれない。


 林はアルバムのページを前の方へ捲っていく。

 そして、俺達クラスの顔写真とクラス集合写真のページにやってきた。


「あんた、目、半開き」


 クラスの集合写真を指差し、林は言った。


「……昔から写真写りが悪いんだ」


「それはごめん」


「いいよ。もう慣れっこだ」


「……皆、若いねぇ」


「老婆にでもなったかのようにシミジミ言うな」


「仕方ないじゃん。まだ一年も経ってないけど、本当に色々あったんだから」


「……そうだな」


「あんた、ちゃんとクラスメイトの顔と名前、覚えてる?」


「当たり前だろ。逆はないかもしれないけど」


「えー、本当かな? ……じゃあ」


 林は、クラスメイトの女子の顔写真を指さした。反対の手でわざわざ名前も隠している。


「この子の名前は?」


「……うっ」


「ほらやっぱり。あたし、この子親友なんだけど。ちょっと怒りそうだよ?」


「……あー、違う。わかるよ。石田だろ?」


 失敗した。

 素直に名前を答えず、知らないと言った方が良かったかもしれない。

 林が驚き目を丸くして、しばらくして目を細めた頃、俺は思った。


「ちょっと、いっちゃんと何があったの?」


「……な、何もないけど?」


 俺はそっぽを向いてそう言った。

 勿論、俺のそんな言葉を信じる林ではなかった。

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― 新着の感想 ―
まだ一年も経ってないけど、本当に色々あったんだから ここに面白さの根元がある気がする。 余りにも出来事の濃度が濃い。 意識してそう書いてるんだろうけど動画の編集みたいな手法で面白い。
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