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【第4巻10/24発売!】高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない  作者: ミソネタ・ドザえもん
デートする女王様

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お出掛け

 時刻は三時手前くらい。

 俺は風呂場の掃除をしていた。最近の調子なら、俺が掃除をしていると林がキレだすのだが、今日ばかりはそんな様子もない。


「まだかー」


 むしろ、今は掃除をする俺が林に文句を言う始末。

 一体、何があったというのか。


「もうちょっとー」


 まあ、何があったか、だとかそんな大それた話ではない。

 俺はただ、林が着ていく服を決めるのを待っているだけ。さっきから林は、俺を風呂場に押し込んでずっと着ていく衣服を決めている。これがまたなかなか決まらず、時間ばかりが過ぎていく。


「もういいだろー。適当でー」


「いいわけないじゃん」


「なんでだよ。俺と出掛けるだけだろ?」


 俺なんかと一緒に出掛けるだけで、一体どうしてそこまで衣類にこだわる必要があるのか。


「あんたとだからでしょうが」


「はあ? 意味がわからん」


 まったく。女心ってのはわからない。


「おまたせ」


「おまたせされましたー」


「……ちょっとくらい我慢しなさいよ」


 少し、言い過ぎただろうか?

 不貞腐れる林を前に、俺は少しだけ内心で焦っていた。これが怒る方向での不貞腐れだったらいいのだが……最近の林は、元恋人のせいでか落ち込むことが多いから、少しだけ不安だ。


「行こ」


「お、おう」


 どうやらそこまで気には留めてないようだ。

 俺は安心して、林の後に続いて部屋を出た。


 ……そうだった。


「おい、林」


「何」


「その服似合ってるぞ。すごく」


 さっきは林に酷いことを言ってしまったが、今言ったことは間違いなく事実だった。

 

「……ふんっ」


「あ、おい」


 林は頬を膨らませ、俺の先を歩いていく。

 まあ、さすがに俺の発言が酷すぎたか。機嫌をよくしてもらえるよう、頑張るしかあるまい。


 俺は駅に着くまでの間、必死に林をおだてた。

 色々なことを言った気がするが、内容は半分くらい覚えていない。ただ、嘘は付いた覚えはない。


 林は、俺のおだて作戦の結果、駅に着く頃には少しは気分が晴れたようだった。ただ、さっきから頬が赤いような気がするのは気の所為か。


「それで、これからはどういう流れで進むんだ?」


「少し散歩して、夕飯を食べて、舞台に行くって流れ」


「ほう。どこを散歩する?」


「実は全然、決めてないんだよね」


 そうなのか。

 そう言えば前、林は俺と一緒にデートに行った時、随分と受け身なプランニングをしていた。夕飯。舞台は笠原が決めたとして……散歩だけは、笠原も決めてはくれなかった。だから今、彼女は何も決めていない。そんなところだろうか。

 ……うーむ。


「山本、行きたい場所ある?」


「……そうだ」


「ある?」


「レインボーブリッジなんてどうだ」


「え、あそこって歩けるの?」


「実は、遊歩道があったりする」


 レインボーブリッジには、ゆりかもめと上り下りの道路の他に、東京湾側と東京の町並み側、二方向を拝める遊歩道がある。

 実を言うと、いつか一人で歩いてみようと思っていたのだが、この際行ってみるのもありだろう。


「結構見晴らし良いそうだぞ」


「……見晴らし、いいの?」


「おう」


「……それじゃあ、ムードとかも出そうだね」


「ん? おう」


「……へえ」


 林は顎に手を当てて、しばらく思案をしていた。

 薄々、俺は悟っていた。恐らくこの案は通る、と。

 劇団の舞台が開催される場所は、お台場だったはず。だったら、夕飯を食べる場所もその辺だろう。

 つまり、レインボーブリッジ散歩は、ロケーション的にはバッチリだ。


「行ってみようか」


「おう」


 林の合意を得て、俺達は電車を乗り継いでレインボーブリッジへ向かった。

 芝浦ふ頭の方から工場の間を抜けて、少し寂れた場所からレインボーブリッジ遊歩道への道は続いていた。ここから先は、エレベーターを昇って、遊歩道に上がるようだ。


 エレベーターのある施設に入る前、林は真上にあるレインボーブリッジを見上げていた。


「……ねえ」


「ん?」


「あそこ、歩くの?」


 丁度その時、レインボーブリッジから轟音が響く。

 どうやらトラックが走行する時、積荷が揺れた音が橋に反響して……轟音と化したようだ。


「嫌か?」


「……えぇと」


「嫌なら止めよう。別に、お前を辛い目に遭わせたかったわけではないんだ」


 少し、申し訳ないことをしたと思った。

 俺も、レインボーブリッジを歩けるという話題性ばかりを先行して、スリリングさとかを考慮していなかった。

 まあ、俺一人であればあれなら耐えられそうなものだが……女の子にあそこを歩かせるのは、いささか酷か。


「行こう」


 林が言う。


「えっ」


「……行こう」


「……お前、怖いの大丈夫なの?」


 林は俯き、しばらくして顔を横に振った。

 だろうね。さっきから優れない顔を見れば、聞かずともわかることだ。


「ごめん。やっぱ止めよう。俺も正直ビビっててさ、正直、怖い。やっぱ無理だ」


 こうなると彼女が頑なになるのは明白だ。

 俺の責任にすれば、荷が軽くなるだろうと思って言ってみた。


「あんたってさ」


「なんだよ」


「嘘、下手だよね」


 林は、半泣きの状態で俺を強引に引っ張ってエレベーターのある施設に入った。

 エレベーターを見つけた林は、震える手で俺を引き、エレベーターに乗り込み、そうしてついにレインボーブリッジの遊歩道に降り立った。


 自動ドアを出るやいなや……真横の道路をトラックが過ぎ去っていく。

 響く轟音。

 微かに揺れるレインボーブリッジ。


「ひぃぃ……!」


 林は俺の腕に絡みついてきた。

 ……恐怖心はないが、不思議と俺の心臓の鼓動が大きくなった。


「ひ、引き返そう……」


「えっ!?」


「引き返そうっ!!!」


 車の走行音が反響して、いつもの声では真横にいる林の耳に届かなかった。

 大声で言うと、林は不貞腐れた顔で上目遣いに俺を見上げていた。目尻には涙がうっすら見えた。


「泣くくらいなら無理すんなよ」


 呆れた顔で、俺は言った。そして、目尻の涙を拭ってやった。


「い、行けるもん……」


「お前、若干幼児退行してるぞ」


「いいから行くっ!」


 俺の腕に絡みついたまま、林は一歩二歩と歩き出した。

ただのデート!!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 林ちゃん可愛い……っていうよりもあの橋歩けたんだっていう衝撃の方に意識を持ってかれた [一言] 今度あの辺りに行く用事があるので歩いてこようと思います
[一言] ここにきて本格的にデレ発動ですね。
[良い点]  間違った方向に意地を張る女王様(^^)
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