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【第4巻10/24発売!】高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない  作者: ミソネタ・ドザえもん
思い出す女王様

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今はもう昔の話⑤

ヒロイン視点の過去話です

 高校一年の時のあたしは、多分今と比べたら比較するのも烏滸がましいくらいに傍若無人だった。あの時はお父さんとの仲も険悪で、毎夜毎夜喧嘩ばかりする日々だった。だから、あたしの人生の中でもあの頃が一番、あたしの性格は悪かったと思う。

 例えばそう、気に食わない人と目があったら舌打ちしてたし、抜き打ちで持ち物検査をする先生なんていようもんなら、後先考えずにずーっと文句を言っていた。


 思えば、高校最初でそういう態度を繰り返したから、後に引けなくなって女王様だなんて呼ばれ続けることになった部分はあったと思う。

 

 ただ、そんな女王様も所詮は高校一年の女子。多感な年でもある。

 あたしはあの時、一人の男子に恋をしていた。相手は、一つ上の先輩の関根先輩だ。


 ……まあ、自分で恋をしていたと言っておいて何だが、あの時関根先輩に抱いていた感情は今になって思うと恋とは少し違った気がする。

 先輩はテニス部の中でも秀でた才能を持っていて、実績もあって、顔も中性的で整っていて。そんな彼に抱いていた感情は、恋というより憧れだったと思う。


 されど、あの頃のあたしに、恋と憧れの区別も付くはずもなく……。

 あたしは、いつか関根先輩にこの想いを伝えようとそう思っていた。


 高校一年の文化祭の日は、雲ひとつない青空だった。

 秋口に差し掛かっているにも関わらず、暑い日で……その影響で確か、かき氷を売っていた三年二組が売上部門で優勝をしていた。


 廊下であたしは何人かで歩く女子達とすれ違った。

 女子達は言っていた。この天気なら予定通り、後夜祭が行えそうだと。


 後夜祭。

 キャンプファイヤー。

 文化祭終わりの浮かれた雰囲気のまま迎えるその行事で、夜遅くまで残った学生達の気持ちは青春に染まることが多々ある。

 その青春の最たる例が、キャンプファイヤーの前での好きな人への告白だった。


 すれ違った女子の中の一人が、周りの友達だろう人達から激励されていた。

 多分、その人がそのキャンプファイヤーで告白をするだろうことは明白だった。


 あたしはその時、ふと思った。

 キャンプファイヤー。浮かれた雰囲気。

 そこでならあたしも、関根先輩に告白出来るかも。


 当時のあたしは女王様と呼ばれる身で、告白一つするだけでも細心の注意が必要だった。女王様には皆をひれ伏せさせるだけの実績がいるのだ。

 もし男に告白し振られた場面を皆に見られたら、その途端あたしは今の立場を失い暴君で居続けることは出来なくなる。そんな予感があった。


 でも、後夜祭の浮かれた雰囲気に便乗出来れば……。

 向こうもオッケーを出す気になるかもしれない。

 それでいて、祭りの楽しみごとの一つとして、振られた後も最低限の面子も保てるはず。


 まさに一石二鳥のタイミングだった。


 そんな経緯を経て、あたしは一年の後夜祭での関根先輩への告白を決意した。


 ただ、結局その告白を思惑通り実施することは出来なかった。

 告白出来なかったのは、あたしだけではない。

 ……廊下で仲間の女子から激励されていた女子もまた、タイミングを逸せざるを得なくなった。


 後夜祭の中止は、文化祭の閉幕式後、そろそろ皆が校庭に向かい始めるタイミングで、一斉で校内放送されるのだった。


 突然の雨が振ったわけではない。

 中止にする予兆なんて、何もなかった。


 ただ、唐突にその中止は正式決定されたのだ。

 勿論、学生達からは文化祭実行委員に対する非難の嵐が巻き起きた。

 あたしもまた、例に漏れずずさんな文化祭実行委員の連中へ怒りをぶつける気だった。


「ちょっと山本!」


 翌日、あたしはウチのクラスで文化祭実行委員を務めていた山本を呼び止めた。

 本当はもう一人、女子もウチのクラスから文化祭実行委員として選出されていたのだが、向こうは友達だったから咎める気にはならなかった。

 あの時のあたしは多分、仲間内でもない男を捕まえて、私刑にかけたかっただけなんだろう。


「昨日! 後夜祭! なんで中止になったのよ!」


 あの時のあたしは思っていた。

 この男から。

 山本から。


 碌な説明が出てこなかったら、許さない、と。


 山本はあたしの期待に答えてくれた。

 碌な説明をしてくれなかったわけではない。あまりにも明白に、わかりやすく。


 山本はあたしに、解をくれたのだ。


「ああ、俺がキャンプファイヤーの木材を発注するのを忘れてたんだ。悪いな」

 

 一瞬、怒りが削がれるくらいあっさりと、山本はそう言い放った。

 しばらくして、山本の言葉を咀嚼して、あたしの内心では沸々と怒りが湧いてきていた。

 そう言えばあの時、あたしは休み時間。他のクラスメイトも残る教室で山本を咎めた。多分、それが周囲が山本を嫌うようになった理由だと今更気づいた。


「なんでそんな初歩的なミスするのよ」


「返す言葉もないな。すまない」


「謝って済む問題じゃないじゃない!」


「……そうだな。悪かった」


 謝って済む問題じゃない。

 なのに山本はあたしに謝罪をする。

 当時のあたしは、そんな山本の態度が酷く気に食わなかった。


 だけど、今更思う。

 だったら、あたしは山本がどんな行いをしてくれたら彼を許す気になったのだろう。


 ……多分、許すことはなかったんだと思う。


 彼はそれもわかっていたんだと思う。

 だから、彼はせめてあたしと……クラスメイトの気を鎮めるためだけに、謝罪の言葉を続けたんだろう。

評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] あれぇ?関根先輩…、あれぇ?
[良い点] 新たな山本伝説の幕開け [気になる点] 真相が気になりすぎます [一言] この小説の更新が気になって何度もなろうに訪れています…
[一言] 真相が気になる…
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