際どい二人
「ねえメグ。メグの得意料理ってなんなの?」
「得意料理? そうだなあ。……かぼちゃの煮物」
「へえ、そうなんだ。ちなみにあたしの好物覚えてる?」
「佃煮」
「うん。今度あーんして食べさせてね」
昼ご飯の食材調達をするスーパーへ向かうまでの道中、林達の会話を俺は背後から聞いていた。一見すると、今の俺は彼女達のストーカー。二見しても、間違いなくストーカー。完全に詰んでいた。
まあそんな俺の危うい状況は一旦置いておいて、俺の部屋に遊びに来て会話を交わしていた時から思っていたが、この二人の会話はどこか危うさを覚える。なんだろう。二人で盛り上がるのやめてもらっていいですか。
まあ普通に考えたら、林は笠原のこんな願い出は断るだろう。
彼女達は親友ではあるが、恋人ではない。お熱い仲でもない人達が、あーんでご飯を食べさせあっている現場を目撃したら、俺は引く。
「わかった」
引いた。完全にドン引きです。お二人さん。
何なの? 最近の女の子の友達って、あーんでご飯を食べさすのは普通なの? 普通って何? 怖い。
ていうかこいつらの好物、渋すぎだろ。
「ちなみに後ろの山本の好物は牛たんだよ」
「へー、渋いね」
「お前らだけには言われたくない」
ようやく会話に交じれた俺は呆れた顔で言うが、二人は俺の言葉の意味がわからないのか顔を見合わせて見つめ合っていた。
「灯里、何だか顔赤いよ?」
「気のせいだよ」
「熱あったりするんじゃない? 大変、家に戻る?」
「とんでもない! そんなこと、絶対イヤ!」
さっきから何なんだよこいつら。親友どころか、思わずいかがわしい関係を連想するくらいには仲が良すぎやしないだろうか。
「お前達、久しぶりの再会だからって浮かれすぎてない?」
「そんなことある?」
「ないと思うよ?」
「じゃあない」
笠原に乗せられきっぱりと否定する林は、いつもの彼女らしくなく、酷く滑稽に見えた。さり気なくドヤ顔を見せているあたりも質が悪い。林の決まった顔を見ていると、何だか本当に彼女達が浮かれていないのではないか、とそんな錯覚に陥りそうになる。
「……まあ良いや。お前達が楽しいなら」
高校時代には気付く由もなかった。彼女達の距離感がバグっていることなんて。まあそれを今知ったとて、高校時代に知ったとて、多分俺と彼女達の関係は変わらない。だからこその発言だった。
「寛容だね、山本君。惚れ直しちゃうよ」
笠原が浮かれて言う。
「思ってもいないようなことは言うな。勘違いするだろ」
「えー、勘違いじゃないかもよ?」
無駄にドキドキする心臓を悟られないようにしながら、俺は笠原から目を逸した。彼女は昔から、こんな発言で俺の心をかき乱す。まあ、それが嫌というわけではない。もし嫌だったのなら、連絡先の交換なんてするはずがない。
「そう言えば二人、通っている大学一緒だよね」
ドキリ。珍しく勘の良い林に、俺は口を閉ざした。
「あー、そうだね」
「大学で会ったりしないの?」
「そう言えば、夏休みまでは全然だったね。ねー」
「そうだな」
まあ、彼女と俺の専攻する科が違うから、中々会う機会に恵まれなかった面もあるが、広いキャンパス内を歩いている中で、度々彼女の姿を見かけたことがゼロかと言われれば、実は全然そんなことはない。
ただ俺は、意図的に彼女に挨拶をしてこなかった。
その理由はまあ、出来れば語りたくはない。
「……ふうん。そうなんだ」
高校時代の林なら、面白そうな話だと首を突っ込んでかき乱して来そうなものだったが、今回はそうはならなかった。その配慮が今は有り難い。
林が俺の部屋に居候してきて、そろそろ数週間。彼女との出会いは夏休みの序盤だったが、そろそろその長期休暇も終わろうとしている。それだけの時間をある程度一緒にいて、随分と俺と林は打ち解けたものだと思っていた。
たださすがに、前方を歩く二人は年季が違う。内輪ネタから際どい発言まで、半年近く離れ離れになっていた時間を取り戻すように、二人は仲睦まじく楽しげに会話を続けた。俺の入り込む隙間は微塵もない。まあ、下手に介入して空気を壊すくらいなら、黙って見ている方が気楽で良い。
「ねえねえ、折角だし今日の昼は、たこ焼きパーティーしない?」
スーパーに着くやいなやそんな提案をしたのは、笠原だった。
たこ焼きパーティー。要約するとそれは、所謂陽キャの者が親睦を深めるためにする遊びであり食事だ。俺は思う。連中はそんなことせずとも親睦が深まっているのに、片付けが面倒そうなそんなことをどうしてするのか、と。加えて思う。パーティーするならもっと豪勢にやれよ、と。たこ焼き並べたくらいでパーティーを名乗るな、と。
「良いじゃん。山本はどう?」
「え?」
しかし、今の俺の周りにはたこ焼きパーティー賛同派しかおらず……多数決をしたら結果は見えていた。
「……たこ焼き器、ウチにないけど?」
まあ、れっきとした断る理由があるため、俺は言った。
「あー、機材買うほどでもない気分だね。じゃあ、止めよう」
「あ、じゃああたしウチから取ってくるよ。ここから近いし」
「じゃあ、食材買ってから寄ろうよ」
「あ、いいね! ……何ならウチでやる?」
「それだ」
「いやどれだ」
思わず、俺は突っ込んだ。
「何さ」
「……いやさすがに、まずいだろ。男を部屋に上げるだなんて」
「……そうかな?」
「……よく、家に男上げてるのか?」
「どうだと思う?」
俺は黙った。彼女は可愛らしい人だ。そんな人が、大学生活で一人暮らしを始めて半年。未だに仲の良い異性の友達が出来ていないとは考えづらい。そもそも、たこ焼き器を持っているような時点で、部屋に誰かを招いていることは間違いないわけで。
まあそんなことはともかく、今俺が黙ったのは、何だか笠原を問いただす今の自分が、若干気持ち悪く見えたためだった。
「……くすっ」
笠原は妖艶に微笑んだ。
「上げてないよ。上げてるのは女友達だけ」
「……そっすか」
……また、からかわれてしまった。さっきまで自分のことを気持ち悪いと思っていたのに、笠原の言葉を聞いて安堵をしているのは一体どうしてだろう。
「さっさと買い物済まそう」
俺は、酷く疲れてそう提案した。
「そうだね。じゃあ、パーティーはウチで、ね?」
「勝手にしろ」
俺は買い物かごを手に取って、スーパーに入店した。
横浜勝ったりジャンル別一位キープしてたり気分が良くて前倒し投稿した。最早この小説を読んでいる人は、作者が1日2話投稿するって言ったことを忘れていると思う。
しっかりしてくれよ、本当に。
読者達が声上げてくれないと作者、ずっと1日2話投稿しないんだぞ? それでええんか?
評価、ブクマ、感想よろしくお願いします!!!




