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【第4巻10/24発売!】高校時代に傲慢だった女王様との同棲生活は意外と居心地が悪くない  作者: ミソネタ・ドザえもん
肥える女王様

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面倒くさい女

 ジムの帰宅道、俺達は夕飯の支度のためにスーパーに立ち寄った。


「お、林見てみろよ。今日、豚肉やすいぜ」

「……」

「おい林、お前、何ポテトチップスかごに入れてるんだ。そんな脂質の塊、ダイエット中に食べるなんてありえないぞ」

「……」

「林さん。さっきからどうして俺を無視してるんですか?」


 おかしい。

 俺が異変に気付いたのは、林が俺を無視して、冷蔵庫に入るかもわからない程の大量の食材をレジに通している時のことだった。


 ぴっぴっと無機質な音が響く中、林は俺の言葉に一切の返事を寄越さない。


 これではまるで、俺が無視されているみたいではないか。

 ただ、林に俺を無視するな、と言っても返事が返ってこない。


 これでは本当に俺が無視されているみたいだが……はて、俺、林に何か悪いことしたかな?

 心当たりがないから、謝ることも出来ない。


「おい林、いい加減、機嫌を直してくれよ」

「……」

「お前、日頃はあんなにピーピーキャーキャー騒ぐのに、らしくないぞ」

「……」


 あれ、もしかして俺、本格的に林に無視されてる……?

 一体、俺のどの発言が林の琴線に触れたのだろう。


 ……もしかして、あれか?

 林、本当は温泉旅行に行きたくなかったのか?


「林、悪かったな」

「……」


 返事はないが、林はぴくっと反応した。


「……本当は嫌だったんだろう、温泉旅行に行くこと。なのに、無理強いしてすまなかった」

「……」

「だからさ、温泉旅行は辞めて、別の場所に行こう。そうだなぁ……。登山とかどうだ?」

「……」

「今の時期、きっと楽しいぞ。だから行ってこいよ。俺から笠原には声かけておくから」

「……れだよ」

「え?」

「それだよっ!」


 ……林が怒った。

 

「……いや、どれだ?」

「……」

「また黙った」

「……あんたは行かないの?」

「え?」

「あんたは行かないのって……聞いてるの」


 頬を赤く染めて、俯いて……いつになくしおらしい態度で、林は呟いた。

 ……登山に俺は行かないの、か。


 まあ確かに、登山は女性二人で行くには、中々二ッチな分野かもしれないな。


「いや、俺は良いかな」

「なんでよっ! 完全に行く流れだったじゃん」

「登山はいいよ。温泉なら行きたかったけど」

「じゃあ温泉でいいよっ!??」


 えっ、どっち?

 温泉に行きたいの? 行きたくないの? どっちなの?


「……温泉、行こうよぅ」

「……」

「あんたも一緒に、温泉行こうよ」


 ……あ。そういうことか。

 さっきから林が何に怒っているか理解出来なかったが……そうか、こいつ。


 ったく。

 こいつも結構、いいところあるじゃないか。


「……林、ありがとうな」

「別に……」

「でも安心してくれ」

「ん?」

「さすがの俺でも温泉旅行くらい行ったことがある。だから、そんなに気を遣わないでくれて大丈夫だぞ?」

「は?」

「お前、きっと俺が温泉旅行に行ったことがないから、本当は嫌だけど折角だから誘おっかなって声をかけたんだろ? だから、無理する必要ない。笠原と二人、とことん楽しんでこいよ」

「……っち」


 ……林の舌打ちが出たな。

 そこそこ一緒に暮らしているからわかったが、林の舌打ちが出る時は、彼女が思い描いた通りの展開になっていない時、極度の苛立ちを覚えた時に発生する。


 つまり、今俺は、相当林の意図しないことを言っているわけだ。


 ……いやはやまったく。

 どうして俺は、舌打ちの発生条件とかを見抜く洞察力には秀でているのに、林の気持ちは読めないのだろう(笑)。


 多分、笑っている場合ではなさそうだ。


「……冗談だ」


 さすがにここまで来たら、俺にも答えがわかった。


「本当にいいのか? 俺も温泉旅行に一緒に行って」

「……嫌なら」

「ん?」

「嫌ならこんなに怒らないから」


 ……林。

 嘘つけ。

 お前、自分が嫌なことされた時、結構露骨にキレるだろ。


 だからこそ高校時代、周囲から傲慢だの女王様だの呼ばれることになったんだろう。


 ……ただまあ、確かに。

 最近の林なら、今の林の言っている通りなのかもしれないな。


 本当、最近の女王様は、毒気がなくて……歯ごたえがない。

 でも、もしかしたらそれは、お互い様なのかもしれないな。


「……わかった。じゃあ、三人で温泉旅館、探してみる」

「……二人で」

「ん?」

「二人でいい」

「……え?」

「二人で行こう」


 ……林と笠原で?

 そんなはずは、ここまでのやり取りを考えたらありえない。


「二人で行きたい」


 ……俺と、林の二人で?


 内心、少しだけ俺は……逡巡した。


「わかった」


 しかし、すぐに答えは出た。


「わかった。……わかったよ」

「いいの?」

「ああ。これはお前への……ご褒美だからな」


 だから、たまにはお前の思い通りにしてやるよ。

 正直、俺と二人きりで旅行に行きたい意味は理解出来ない。


 ただ、こいつがそれを望むのであれば……仕方がない。


「……やれやれ」


 本当、こいつは面倒くさい女だ。

ごめん。書きながらめっちゃ思った。

ここまで来て付き合ってないの、最早作者のエゴだなって。


草。

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― 新着の感想 ―
最近よく見られる誤用なのですがー そうなんですか?私もここはアレって思いました。触れたのなら琴線ではなくて逆鱗だったのではないかと? まぁ、今の流行りというならそういうことなんでしょうね。チューニング…
男の方が面倒くさくなっとうね。 男と女が2人で温泉旅行で女の方から一緒に行きたいとか、そういう事やろ。
最近よく見られる誤用なのですが、「琴線に触れる」は感動や共鳴に関して用いる言い回しであり、この場面ではいくらか不適切であると愚考いたします。 彼が自分の何らかの言動により林ちゃんの機嫌を損ねた(と思っ…
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