A.正気じゃない
小説を書くモチベが久しぶりに高いです。
私の小説を書くモチベが高い時は、大抵仕事が忙しい時です。
仕事が忙しい時はストレスからか、現実逃避のために小説を書きたくなります。
つまり、そういうことです(泣)
ジムでの筋トレ後、更衣室に戻った俺は、更衣室内にあるシャワー室に足を運んだ。
「ふぅ……」
シャワーで汗を流しながらプルプル震える上腕二頭筋を感じていると、やり切った感を感じるのは気のせいか。
こんなことを思っていると、また林に馬鹿か、とか罵られそうだが……既に次回のジムの日が楽しみだ。
シャワーから出て、着替えを終わらせて、更衣室を出ると、林の姿はまだない。あいつも今頃、シャワーを浴びているのだろう。
俺は廊下にある椅子に座って、彼女が更衣室から出てくるのを待つことにした。
「お待たせー」
女子更衣室から、髪を濡らした林が出てきた。
「待った?」
「いいや、今出たところだ」
「そっか」
なんとなく今出たと嘘をついたが、この嘘は必要あったのだろうか?
「じゃあ帰るか」
「うん。いやー、運動後のシャワーはスッキリするねー」
「そうか」
「不快な汗がなくなるの、気持ちよくない?」
「それはわかる」
「ねー。なんかこうしてると、温泉とか行きたくなるよ」
林の言葉は、少しだけ意外に思えた。
高校を卒業し、この地で再会して以降の林は、大体いつも金銭的に不安があったため、節約を心掛けていたのだ。
気軽に温泉に行きたい、と言えるくらいに余裕が生まれたとなれば、こちらまで気持ちがよくなるってもんだ。
「いいじゃないか」
だから、俺は彼女に同意を示した。
「おっ」
林は少し驚いた様子だった。
「山本君、意外と乗り気ですね」
「まあな。色々と感慨深い気持ちになれたからな」
「ん? んー。そっか」
俺が何に感慨深い気持ちになったのか、林は理解出来ていない様子だったが、別に理解してほしいとは思っていなかった。
ただ……。
DV男との決別。
両親との和解。
親友との再会、結婚。
高校卒業以降、色んな苦難を味わった彼女が、温泉に行くこと……それこそ、慰安旅行に行くことには賛成だった。
「それなら、二泊三日とかで温泉旅行とかどうだ」
「えぇえっ!?」
林は……今度は少しではなく、大層驚いた様子で、声を荒げた。
「や、山本!? あんたどうしちゃったの。熱でもあるの? エイリアンに体乗っ取られた? もしくは、怪しい宗教に入信した? 壺とか買った?」
「慰安旅行を提案するだけで新興宗教への入信を疑われる程、俺がこんなことを言うのは意外だったのか」
「馬鹿言わないで」
「……林」
「意外なんてもんじゃない。正気を疑った」
「林……」
林から俺への信用のなさが天元突破している。悲しい。
「……たまには俺も、慰安旅行の一つくらい、提案するさ」
「本当?」
「ああ。それも……お前はこれまで、散々、大変な目に遭ってきたんだから。たまにはゆっくり体を休めたほうがいいだろ」
「……」
林は黙った。ただ、林の目は、俺のことをどこか冷たく見つめていた。
どうやら本気で正気を疑われているらしい。
中々失礼な奴だな、こいつ。
……失礼な奴なことは結構前から知っていたか。
最近は結構丸くなってきた気がするが、今でも時折、ナチュラル畜生な面を覗かせるんだよな。
「で、どうだ。行くのか。行かないのか」
俺は尋ねた。
「……山本、本当に信じていいの?」
「当たり前だろ。温泉旅行の一つや二つ。任せてみろよ」
まったく。こっちが折角誘ってやってるのに……。
「で、どこ行きたい。移動しやすさで言うと、熱海(静岡)とか箱根(神奈川)とか、後は石和(山梨)とかも楽だと思うぞ」
「えっ、まさか本気なの?」
「だからそう言っているだろ。……わかった。なら、俺が勝手に決めるぞ?」
「……うん」
「予算はどれくらいがいい。二万位で収めるくらいか? だとしたら新幹線は使えんだろうが」
「う、うん……」
「あとは……旅館だなぁ。ちょっと帰って調べてみるか。二人一部屋でいいよな?」
「!?!??!?!?!?!?!?!?」
林の顔が真っ赤になった。
「ちちちちちっちょっ、ちょっと待って! 山本! ちょっと待ってよ山本さん!?」
「なんだよ急に」
「二人一部屋って二人一部屋ってこと!? 二人一部屋って二人一部屋ってことなの!?」
「同じこと四回言ったよ」
「ちょっと待ってよ! そんなの……ちょっと待ってよ!!!」
なんでこいつ、こんな慌てふためているんだ?
「いきなりそんな……心の準備が、あたしにだって必要だと思わない?」
「心の準備って……これまでもそういう機会、たくさんあっただろ?」
「あったけども……。あったけども!」
あわあわしている林を見て、俺は呆れたため息を吐いた。
「わかった。じゃあ、相部屋はやめるわ」
「えっ!?」
林はまた声を荒げた。
そして、目を丸くして……しばらくして、もじもじし始めた。
「……別に、嫌とは言っていないじゃん」
「ほぼほぼ嫌って言ってたじゃん」
「言ってなかったじゃん!」
ごり押し。
「……そうだな」
俺は屈した。
「……はぁ。まあ、わかった。じゃあ、二人一部屋で旅館探してみる」
「うん。……うんっ!」
林は満面の笑みを浮かべた。
その天真爛漫な笑みを見ていると、慰安旅行を提案して良かったな、とほっこりした。
「じゃあ、お前は連絡しておけよ?」
「うん?」
「笠原に」
林の顔から、笑みが消えた。
「……なんだよ、その顔。行くんだろ? 慰安旅行」
俺は呆れたように続けた。
「笠原と二人で」
「嘘つきっ!」
「えぇっ!?」
「嘘つきっ! やっぱりあんた正気じゃないじゃない!」
いやいや……どう見ても正気だろ?
そうだよな?
な?
今更ですが、本作はラノベ版とWEB版で微妙に設定が違っています。
具体的には林の父の生死等。
WEB版ではご存命なので、その辺忘れないようにしておいてください(作者宛)
ちなみにラノベ版でもWEb版でも共通している設定として、こいつら付き合ってないは無理あるだろ




