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【書籍化】後宮の嫌われ白蛇妃〜推しのためなら悪意も美味しくいただきます〜  作者: 碧水雪乃@『龍の贄嫁』2巻〈上〉1/23発売&コミカライズ連載中


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62 紫淵殿下の悪鬼皇子めっ



(それにしても……。昨晩のあの様子から事件が起きそうな気配は察知していましたけれど……まさか『木蘭(ムーラン)様暗殺未遂事件その二』と『白蛇妃(はくじゃひ)暗殺未遂事件』、それから『上級女官追放未遂事件』が立て続けに起きるだなんて……)


「って、いえいえ、死人なら出ましたよっ」

「……誰か死んだか?」

「無実の野兎ちゃんが暗殺されてしまいました……!!!!」

「皇帝陛下の滋養強壮料理用に食肉業者から仕入れていたやつだろう」

「なっ、なんと冷たい! 紫淵(シエン)殿下は鬼ですっ、この悪鬼武官!! ではなくて悪鬼皇子めっ!」

「なんとでも言ってくれていい。事実だしな」


 野兎は苺苺によって手厚くお別れ会が行われた。あの世で寂しくないように、ぬい様と白蛇ちゃんも一緒に詰めてある。どうか野山を元気に駆け回ってほしいと思う。

 執務の手を止めた紫淵は机の上で頬杖をつくと、「それよりも」と言葉を切る。


「君の身になにも起こらなくてよかった。美雀(メイチェ)が刃物でも持っていたら、あの姿の俺では君を守れないかもしれないからな」


 静かな夜にふんわりと溶けるような微笑みを浮かべる。


(うっ)


 絶世の美青年の甘い眼差しを直視してしまった苺苺(メイメイ)は、手慰みに刺していた刺繍の手を止めて、その絹扇で目元以外の顔を覆う。


「い……今の会話の流れで、よくそのようなお顔をできますね……?」

「今夜の図案はまた凄いな。『白蛇玄鳥神鹿図』に観音菩薩と紫木蓮とは……天界か? 君は一体どこへ向かっているんだ」

「木蘭様は天女様の御使いですので、推しの概念を表現しました。ではなくて、」

「華やかでいいな。色選びもいいからごちゃついていないし、統一感があっていつまでも眺めていたくなる。なによりも、なんだか嬉しい」

「わたくしの突っ込みは聞いてませんね?」

(……今夜の紫淵殿下はおかしいです)


 時刻はすでに亥三つ(22時半)を回っている。

 しかし苺苺が寝衣ではなく、普段は散歩用に使用している簡単な衣裳をまとっているのは、ちょうど夜警に出てすぐだったからだ。


 猫魈(ねこしょう)を使った『木蘭暗殺未遂事件』の犯人である〝恐ろしい女官〟が誰だかわかった今、()()から木蘭を守らなくてはならない。


(現行犯で取り押さえた暁には、ぜひとも心を入れ替えていただかなくては。ふっふっふ、この白苺苺、必ずや木蘭様の素晴らしさを布教し、恐ろしい女官の方を木蘭様沼に突き落としてさしあげますわ! そのためにも今夜からは本殿に籠城ですっ)


 そう強く意気込んだ苺苺がぬい様と〝白蛇の神器〟を携え、紅玉宮(こうぎょくきゅう)本殿の見回りを始めようとしていたところ、寝室からぬっと出てきた寝衣のあやかしちゃん姿の木蘭様に抱きつかれて、

『お姉様ぁ。(わらわ)ひとりで寝るのは怖いです。今夜は妾と一緒の部屋で寝てくださぁい』

と言われたからさあ大変。


(かわゆいが大爆発をしていて、ついつい寝室に……。そうして気がついたら紫淵殿下に捕まって、こんなところまで……)


 寝衣のあやかしちゃん姿の木蘭から『目をつぶってしばらく待つこと』と言われて、衝立の裏でおとなしく待って過ごしていたら、いつの間にか寝衣から着替えた紫淵から『もういいぞ』なんて声をかけられるとは聞いていない。

 あまりの出来事に苺苺は『こんなの詐欺です!』と叫んでしまった。


 そうして箪笥の下に隠されていた扉から階段を降り、地下通路を通って出た先は、灯籠がらんらんと輝く天藍宮(てんらんきゅう)の瀟洒な寝室。


『苺苺、今夜はここで寝てくれないか』

『え?』

『俺は向こうの部屋で執務をしているから、問題があったら呼んでくれ』

『ええっ!?』

『おやすみ』


 まるでそれが自然であるかのように紫淵は優しい手つきで苺苺の頬を撫で、そう言い残して寝室を出て行く。

 はて? と思い室内を見回すと、木蘭の部屋にあるものよりも大きくて豪華な寝台の上には、紫色の堅物感のある枕が。

 そしてその隣には、新品とおぼしきふわっふわの羽根枕が鎮座しているではないか。


『ええええええっ』


 苺苺は思わず羞恥心にさいなまれ、ぶわりと頬を染め上げる。


『ま、待ってください! わたくしも行きます!』


 弾かれるようにして慌てて寝室から飛び出した苺苺は、濃紫の深衣姿の紫淵の背中を追いかけた。


 早足が捌く長い裾がふわりと広がるのに合わせて、後頭部を一部結って載せらた皇太子を表す(かんむり)(かんざし)飾りと、背中に流された紺青の黒髪がさらさらと揺れている。

 銀糸の刺繍が施された幅広の帯がきっちりと締め上げる腰はより細く見え、いつもの冷酷な雰囲気が漂う佩剣(はいけん)した武官姿とはまた異なる雰囲気だ。

 地下通路では判らなかったが、この姿は紫淵をこの宮の主人たらしめていて、よりいっそう高貴さが漂っている気がする。

 随分と見慣れてきた紫淵の姿との違いに、苺苺が少しどぎまぎしてしまうのも仕方ないだろう。

 しかもそんな皇太子の寝室に枕がふたつ、なんてただごとではない。


(い、いいえ。気おくれしていても仕方ありませんっ。ビシッと行きましょう! ビシッと!)


 そうして紅玉宮の本殿より長い廊下を通って辿り着いた先がここ、現在地である紫淵の執務室である。


(いったいなんだったのでしょうか……? もしかしてあれも豪華薔薇風呂と三食昼寝付きの〝異能の巫女〟の給金に含まれて……?? だとしたら不要な優待特典です)


 苺苺は絹扇の裏からじーっと胡乱げな視線で紫淵をうかがう。


「なんだその目は」

「いえ。あの枕はなぜあんなところに? と考えていまして」




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