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【書籍化】後宮の嫌われ白蛇妃〜推しのためなら悪意も美味しくいただきます〜  作者: 碧水雪乃@『龍の贄嫁』2巻〈上〉1/23発売&コミカライズ連載中


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52 春燕と鈴鹿



「ふんふんふ〜ん。ふんふ〜ん。ふふっふー」


 紅玉宮(こうぎょくきゅう)白蛇妃(はくじゃひ)に与えられた部屋にて。

 苺苺(メイメイ)は少し調子の外れた能天気な歌を口ずさみながら、窓際に置かれた古盆器の寄せ植えから野苺の果実を手でちぎって収穫すると、きゅきゅっと優しく手布でぬぐう。


(う〜む。今夜も収穫なしでしょうか……)


 苺苺が三日三晩見張った結果、やはり『恐ろしい女官発見器』であるぬい様が裂けることはなかった。

 それからさらに四日が経ったが、お茶会には相変わらず呪毒(じゅどく)が出ている。

 木蘭暗殺の意志は変わっていないようだ。

 しかし、いくらこちらを警戒して鳴りを潜めている犯人でも、作戦が遂行できないために相当な心的疲労(ストレス)を感じているはずだ。

 ――そろそろ、苺苺の存在を邪魔に感じている頃合いだろう。


(無期限なんて正気の沙汰ではない、必ず『白蛇の娘』を追い出さねば。決して自分の手は汚さずに。……そうお考えのはずですわ)


 白家の次期当主となる兄、静嘉(セイカ)が、

『頭の良い女官は決して自分の手は汚さない。後宮での事件はそうやって起こるものだと、僕の読んだ小説に書いてあったよ』

と物知り顔で得意げに話していた。


(いくら妹妹(メイメイ)のためだからと言って、後宮小説にはまりすぎでは? と思っていましたが、お兄様のご助言が事件解明に役立ちました)

「……あらあら? 今朝まで元気でしたのに、一株分、しおれています……! なんということでしょう、うううっ、悲しいです。まさかご病気に!?」


 苺苺はしなびてしおれている株に手を添えて震える。

 そこには寄せ植えを毎日見ている苺苺だからこそ気がつける、不自然な切り口があった。


(……――こうなったら、形代をやめてみるべきでしょうね)


 真っ赤に色づいた果実を見つめ、あーん、と唇を開いた時。部屋の扉が無遠慮に開かれる。


「ちょっとあんた。そのまま食べる気?」

春燕(チュンエン)さん」

白蛇(はくじゃ)娘娘(にゃんにゃん)、水盆を持ってきたなのです」

鈴鹿(リンルー)さん」


 苺苺はきょとんと目を丸くする。

 夕餉と湯浴みを終えた苺苺が、あやかしを警戒するために部屋を出るまでの間、静かに刺繍をしながら自ら育てた果実を摘むのを知った侍女二人は、頃合いを見計らって、果実を洗うための水差しと盆を持ってきていた。


「それ、洗ったら」

「ありがとうございます。わざわざすみません」

「別に。これくらいどうってことないわよ」

「白蛇娘娘、鈴鹿たちがお手伝いするのです」


 円卓に水盆を置いた鈴鹿が、「どうぞお座りくださいなのです」と窓際の苺苺を呼ぶ。

 春燕が引いてくれた椅子に苺苺がおずおずと腰掛けると、春燕は「ほら野苺」とぶっきらぼうに言った。

 苺苺が収穫したばかりの野苺の果実を差し出す。

 春燕はそれを受け取ると、意外にも丁寧な所作で水差しから清浄な水をかけた。

 丁寧に埃を洗い流し、鈴鹿が手渡した清潔な手巾で拭ってから透明な玻璃皿に盛り付けて、苺苺の前に差し出す。

 春燕は不機嫌そうな顔をしていたが、鈴鹿は少しだけ嬉しそうだ。


 苺苺は「いただきます」と食前の挨拶をしてから、玻璃の上できらきらと輝く果実を摘んで食べる。


「むむ。少し冷えていて、なんだか甘さが増した気がします。お二人のおかげか、いつもより美味しいですっ」

「馬鹿ね。いつもとおんなじよ。……あんたさえ良かったら、明日も出すけど。厨房でやってきてもいいわ」

「鈴鹿たちに野苺の管理を命じてもらえたら嬉しいなのです」

「お言葉に甘えて、と言いたいところですが。ふふっ、この子は水星宮(すいせいきゅう)で唯一のわたくしの家族でしたので。わたくしがお世話したいと思っています」


 お水を持って来ていただけるのは嬉しいです、と苺苺は微笑むが、春燕はぷいっとそっぽを向く。


「ふんっ。じゃあ知らない」

「春燕は『明日も持って来ます』と言っているのです」

「言ってないわよ!」


 ぎゃあぎゃあと春燕が鈴鹿に噛みつく。


「春燕、あまり騒ぐとまた肺にゴホゴホ響くのです」

「もうずっと患ってる慢性のものだから、今さら急に悪くなったりはしないわ。……でも変ね? ここ数日は咳き込んだ記憶がないかも……?」

「もしや治ったのです?」

「……そうかも?」


(ふふふっ、春燕さんと鈴鹿さんは息がぴったりで羨ましいです。わたくしも木蘭様と息がぴったりの仲になれたら……)


 苺苺そっちのけで言い合う賑やかな女官たちを眺めつつ、夜食の果実を摘み終えた苺苺は、


(はっ! いえいえ、わたくしは紫淵殿下の〝異能の巫女〟です! 美味しいご飯にお茶菓子にお風呂、それからこんなにふかふかな寝台を用意してもらっているのですから、お給料分きっちり働かなくてはッ)


 水差しの水を使って水盆の上で手を清めてから、ぱっと立ち上がって夜警の準備を始めた。

 衣装箪笥から取り出した一張羅、金糸で蛇の鱗模様を刺繍した破魔の装束を広げて、寝台の上に並べていた白蛇ちゃんたちを覆うようにして掛ける。


「あんた、ちょっと目を離した隙になにやってるの? そんな上等な衣裳を寝台に敷くなんて」

「ふっふっふっ。今夜は白蛇ちゃんたちに上等な(しとね)でのびのびと眠ってほしくて。わたくしの一張羅(とっておき)をお貸ししているのです」




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