表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】後宮の嫌われ白蛇妃〜推しのためなら悪意も美味しくいただきます〜  作者: 碧水雪乃@『龍の贄嫁』2巻〈上〉1/23発売&コミカライズ連載中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/80

45 木蘭と宵世と苺苺



「〝異能の巫女〟として紅玉宮(こうぎょくきゅう)でのお勤めは果たさせていただきます。ですが、やはり日中にはお暇を……」

「なぜだ」

木蘭(ムーラン)様にご迷惑をおかけしたくないからです」

「それは最初に聞いた。迷惑じゃないと言っているだろう。……ここにいてくれ、苺苺(メイメイ)

「で、ですが……」


 真剣な表情でこちらを見上げてくる木蘭が、そっと小さな両手を苺苺の頬に添えた。

 あたたかい。紫水晶の大きな瞳に吸い込まれそうだ。

 何も答えぬ苺苺に焦れたのか、木蘭の瞳は徐々に捨てられた子犬のような眼差しになる。

 苺苺はぐるぐると目が回り動悸が激しくなるのを感じた。


(ううっ。かわゆすぎます、木蘭様の命じられるままに、ここは)


と芯がぶれぶれになったところで、


(それでは推し活を嗜む妃として示しがつきません!)


と脳内の荒ぶる苺苺がお怒りの様子できゃんきゃんと叫び出したせいで、なんとかぎりぎりで踏みとどまる。


(そうです。それに水星宮には大事な、養うべき家族もいます!)


「わたくし、水星宮の庭で野苺を育てているのです。今朝には果実も赤く色づいているやもしれません。お世話をしに帰らなくては――」

「は?」


 紫淵は自分が今、木蘭の姿だということを忘れて、地獄の底から出たような低い声を出した。

 ――俺より野草が大事、だと?



 ◇◇◇



「宵世、盆器はこちらに」

「かしこまりました」


 普通の宦官よりも上質な官服をまとった青年、宵世が大きな古盆器を両手に室内へ入ってくる。


 侍女たちに朝の支度を手伝ってもらった木蘭は、堂々と皇太子付きの筆頭宦官に指図を出した。

 貴姫という立場上、東宮補佐官を呼び捨てても許されるようだ。

 宵世も当然といった表情だが、彼こそが紫淵が幼い頃から信頼している腹心の臣下のひとりだというから納得である。


「え、ああっ」


 同じく朝の支度のために紅玉宮で与えられた部屋に一度戻り、女官の手を借りずに身支度を自分で行った苺苺は、目まぐるしい展開に今だについていけていない。

 寝室での話し合いから宵世がやって来るまで、木蘭が本当になんでも決めてしまったからだ。


 苺苺はどうして良いのかわからずに、木蘭の一歩うしろでおろおろと動き回る。

 そして宵世が手に持っている古盆器に植えられていた緑の正体を知り、目を見開いた。


「あ、あ、わたくしの野苺ちゃんが……!」


 御花園で雑草抜きをしていた宮女たちが、ぽいっと投げてきた洗濯桶。それをありがたくもらってきて、寄せ植えにしていた野苺を栽培していた。

 洗濯桶栽培の野苺も見慣れると味があって乙なものであったが、……今はなぜだが、燐華国の千年の歴史を感じさせる上等な古盆器に植え替えられているではないか。


「まったく。僕に野草の植え替えを命じるなんて、どこのどいつですかね」


 窓際の日差しが丁度良い飾り机の上にそれを置きながら、小言を呟いた宵世がぎろりと苺苺を睨む。


(ひえええ。東宮補佐官様、申し訳ございません! ですがこの事態はわたくしも不本意でして……!)


 獰猛な黒狼に睨まれた生まれたての白蛇のごとく、苺苺は「すすすすみません」と小刻みに震える。


「ふむ、完璧だ。苺苺、これで妾より大切なものなどないな?」


 木蘭が満足げな表情で腰に手を当てながら、策士の笑みを浮かべる。


「もちろんでございます……っ」


 えぐえぐと悲喜こもごもの涙を流した苺苺は、「ありがたき幸せ」と完璧な礼をとる。

 こうして苺苺は紫淵の〝異能の巫女〟として、紅玉宮での無期限住み込みが正式決定した。




 苺苺が滞在する部屋は、昨日のお泊まり会決定の際、若麗(ジャクレイ)たち女官が苺苺のために用意してくれた場所をそのまま使用することになった。

 木蘭の住まう本殿の隣にある、二番目に豪華な建物だ。


 この場所を女官たちが用意したのは、苺苺の妃の位や、一応ではあるが木蘭の安全を考えてのことだろう。

 建物同士は廻廊で繋がっているので、犯人探しの計画上にはなにも問題はない。


 その後は筆頭女官に呼ばれるがままに木蘭と一緒に優雅な朝餉を取り――あの、木蘭が『苺苺お姉様』と呼んだ、女官たちへの説明に至るのである。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■スターツ出版文庫さまから好評発売中です■
『後宮の嫌われ白蛇妃〜推し活をしていたら愛されちゃいました〜』
後宮の嫌われ白蛇妃〜推し活をしていたら愛されちゃいました〜
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ