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【書籍化】後宮の嫌われ白蛇妃〜推しのためなら悪意も美味しくいただきます〜  作者: 碧水雪乃@『龍の贄嫁』2巻〈上〉1/23発売&コミカライズ連載中


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44 単身者向け一室住居ですッ


 ◇◇◇


 ――時は少し遡り、朝日が昇りきった木蘭(ムーラン)の寝室にて。

 最上級妃・貴姫(きき)と最下級妃・白蛇(はくじゃ)による今後の話し合いは行われていた。


『木蘭様も朝の身支度があるでしょうから、わたくしは一度失礼させていただきますね』


 そう言って一度退出しようとした苺苺(メイメイ)だったが、そんな苺苺をムッとした顔で通せんぼしたのが木蘭である。


『どうせなら、同じ寝台で眠って〝お泊まり会を満喫しまくったふたり〟を演出するために、あえて女官たちが来るのを待とう。苺苺、女官が来るまでは話し合いを続けるぞ』


 木蘭はそんな提案して、再び寝台に腰掛けるよう苺苺の手を引いた。

 そうして提案されたのが、紅玉宮への無期限滞在だったわけだが――。


「これ以上、木蘭様にご迷惑をおかけするのはわたくしとしても心が痛みますッ。秘密は死守しますので、夕餉を終えてからお泊まり会にだけご訪問させていただくというのは……!?」


「却下だ。夜だけ紅玉宮に来るだなんて、事情を知らない女官や宦官の間で変な噂が立つだろう。ただでさえ木蘭暗殺未遂の容疑で投獄されていたのに」


「うぐっ。確かに『白蛇妃が木蘭様を毎日呪いに通っている』なんて噂されそうです。ですがわたくしにも、立派な水星宮(すいせいきゅう)がございます。白蛇妃(はくじゃひ)として管理をせねば!」


 現在、苺苺は大反対の真っ最中である。

 なぜなら推しに迷惑をかけないのが、推し活を嗜む者の流儀だからである。


「水星宮の実態は調査させている。あんなところに住まわせて悪かった。これからは心置きなく、(わらわ)の紅玉宮で過ごしてくれ」


「いえ、あんなところだなんて! わたくしだけ離れだなんてむしろ好待遇、極楽お気楽自由気ままな刺繍道楽〜な毎日を過ごさせていただいておりましたわ! 鼻歌も歌い放題ですし」


「湯船は三尺の木桶。厨房は茶の湯が沸かせる程度。煎餅かと見間違う褥が敷かれた下女用の寝台。窓枠はどこもがたがきているし、日が暮れたら隙間風で冷えたはずだ。なにより、部屋が一室しかない。なんだあれは、馬小屋か? 誰が造った? 馬鹿なのか?」


「木蘭様、水星宮は歴史的建造物なのですっ。なにより一室にぎゅぎゅっと全てが整えられた画期的設計! むしろ時代の最先端やもしれません! 単身者向け一室住居(風呂、御手洗完備、厨房無し)ですっ」


 頭を抱える木蘭に、苺苺はふんすと鼻息荒く力説して詰め寄る。

 木蘭は「はあ?」と幼妃に似合わぬ呆れた声を出して、「とにかく」と苺苺の額を指先で小突いて押し返した。


「妾が自分の怪異に掛かりきりだった弊害だ」


 青年から幼女になるという怪異のせいで、青年の時間には天藍宮に籠もって溜まりきった多くの執務をこなさなければならず、幼女の時には妃らしくあるために授業がある。

 しかも後宮に入ってからは悪意による体調不良にも見舞われていた。

 そのせいで身動きが取れなかったというのもあるが、最も東八宮を調査しなかった理由は――。


 罪悪感と後悔が鬩ぎ合う。


「栄養たっぷりの朝晩の食事に八つ刻(三時)の茶菓子、燐華国十三大銘茶も苺苺のためだけに取り寄せる。美肌に効くという薔薇もすでに用意させた、湯浴みも妾の湯殿で好きなだけしてくれ。寝台も苺苺にふさわしいくあるよう、昨日のうちに十分に整えさせてある。犯人探しの時間以外は、ぐっすり昼寝をしてて構わない」


「な、なんと。豪華薔薇風呂と三食昼寝つき……!?」

「どうだ。好条件だろう?」


 ふふん、と木蘭は胸を張る。

 その仕草のあまりの可愛さに思わず胸がそわそわした苺苺だったが、


「はっ、自分を見失うところでした」


とぶんぶんと首を振る。


(それに、栄養満点の朝晩の食事とお茶の時間は魅力的ではありますが、わたくしは日がな一日刺繍をしているので、昼寝の時間はあまり意味はありません。薔薇風呂は、その、ほんの少し興味はありますが……やはり湯浴み時間を長く使っては刺繍ができませんし、本末転倒です。わたくしは木蘭様を全力でお守りするためだけに、後宮へ参ったのですから)


 苺苺は寝台に三つ指をついて深く頭を下げる。


「あ、ありがたいお申し出ですが、辞退させていただきます」


 得意顔をしていた木蘭は、すっと表情をなくして閉口した。




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