表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】後宮の嫌われ白蛇妃〜推しのためなら悪意も美味しくいただきます〜  作者: 碧水雪乃@『龍の贄嫁』2巻〈上〉1/23発売&コミカライズ連載中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/80

42 添えられた手


(わたくしは木蘭(ムーラン)様を『白蛇の娘』の全力をかけて応援するために後宮に入ったので、もともと仮初め妃ではありましたが……。その理由でしたら、紫淵(シエン)殿下を御支えするのも木蘭様を御支えすることと同義です。わたくしの立場は変わりません)


 苺苺(メイメイ)は腰掛けていた寝台から降りると、床に両膝をつき、すっと完璧な礼を取る。


「この命に代えましても、木蘭様と紫淵殿下の秘密をお守りいたします」


 寝衣のため多少格好はつかないが、それが紫淵と木蘭への誓いだった。


「白 苺苺。君の言葉に偽りはないな」

(はい)

「……ありがとう。恩に着る」


 紫淵は眉を下げてふっとやわらかく微笑む。


「俺は木蘭を〝寵妃〟として扱うことで、女官たちの目を欺いている。それには今後も口裏を合わせてほしい」

「それはもちろんです! ですが、そんなに簡単に欺けるのでしょうか……? 確かに本日まで、誰も疑っていませんでしたが……」


(わたくしも皇太子殿下は木蘭様推しだという認識でしかありませんでしたし)


 苺苺はそろりと、目の前の美青年を観察する。

 こんな高身長の、しかもなにやら常人とは違う雰囲気を醸しだす絶世の美丈夫が紅玉宮(こうぎょくきゅう)を徘徊していたら、すぐに女官の目に付きそうなものである。


「大抵は深夜にしか元の姿に戻れないからな。木蘭の時でも、寝室には日中の決められた掃除の時間以外は女官を入れないようにしている。元の姿に戻れた夜は、衣服を整えてからこの部屋の隠し通路を通って紅玉宮の外に出るんだ。簡単にはバレない」


 なんとこの寝室には厳重な鍵付きの箪笥があって、紫淵用の寝衣や衣裳、髪飾りがしまってあるそうだ。

 紅玉宮の女官は日常的に紫淵の名で木蘭に多数の贈り物が届くのを目にしているし、鍵付きの箪笥があるのも気にかけていないらしい。

 紫淵は寝台から立つと、室内を音もなく歩いて、彼の身長以上ある箪笥に手を触れる。


「この下に隠し扉があって、地下通路に続いている」

「隠し通路とは、なにやらわくわくする響きです」


 苺苺は目をきらきらと輝かせる。


 頭の中では、木蘭が小さな身体で一生懸命あの箪笥を押しのけて、幼妃に似合わぬ険しい表情で『右よし、左よし』と指差し確認したあとに、こっそりと隠し扉をくぐって紅玉宮から脱走する。

 ……想像してみると、その姿はなんとも庇護欲をそそった。


「やっぱりわくわくは撤回しますっ。なんとお大変な状況なのでしょうっ。この大きな紅玉宮でひとり、大きな秘密を抱える小さな木蘭様……! きっとたくさんの苦労があるはずですわ。健気なお姿を見つめるだけしかできず、胸が痛いです……」


 想像し終えた苺苺は胸を抑えて涙ぐみ、うるうるとした視線で紫淵を見上げる。


「木蘭様にたくさんのご加護がございますように……っ!」

「えっ。いや、隠し通路は俺が通るんであって、木蘭は通らないぞ」


 箪笥に熱い視線を送っていたかと思えば、今度は涙目で自分を見上げてきた苺苺の様子に紫淵はたじたじになる。


「女官や宦官でも押せないくらいあの箪笥は重厚に作ってある。武官でも押し入ってこなければ、隠し通路の存在は見つからないだろう。なにせ通路の繋がる先は地下、しかも出口は皇太子の寝殿の中だ」


「なるほど。天藍宮(てんらんきゅう)は位置的には紅玉宮の真後ろ。後宮とを仕切る城壁や門も、地下ならば関係ありませんね」


「そうなる。皇太子にしか誂えられない意匠が施された鍵付きの箪笥を、いちいち改めて事を荒立てる命知らずの女官は早々いないからな。隠し事はたやすい。まあそれも、こうして寝室で鉢合わせしなかった場合のみだが」


 紫淵は深くため息混じりにそう言うと、苺苺の手を取り再び寝台へ着席させる。

 頭上に疑問符を浮かべる苺苺の隣に遠慮のない仕草で腰掛けた紫淵は、まるで大切な宝物にでも触れるかのごとく妖艶に、もったいぶった動作でゆっくりと、苺苺の頬に男らしい手を添えた。


「――さて。秘密を知られた以上、ここから君を出すことはできなくなった」

「へ!? あの、わたくし、先ほど『この命に代えましても、木蘭様と紫淵殿下の秘密をお守りいたします』とお約束をっ」

「そうだな。だからこそ、俺が君の命を預かる」

「ひえっ!?」

「白苺苺。君には、俺の(・・)〝異能の巫女〟として、しばらくの間この宮に住んでもらう。少しでも秘密を漏らそうとすれば命はないと思え」

「えええええっ!?」

「もうじき日が昇る。秘密厳守、それから効率の観点からも、犯人探しは紅玉宮でしかできないからな」


 紫淵はにやりと美しく微笑む。

 美青年の姿はみるみる幼くなり、……――目の前には寝衣のあやかしちゃん姿の木蘭がいた。


 苺苺の頬に添えられていた手のひらは、大きさと温もりを変えて、そこにある。


「苺苺。乗りかかった舟だ。最後まで(わらわ)に付き合ってもらうぞ」


 愛らしい幼妃(おさなひ)の策士な笑みに、焦りと緊張から苺苺の鼓動はどきどきと高鳴る。


(えっ? えっ? どういうことですの? もしかしてわたくし、推し活をしていたはずが、なにやら紫淵殿下の重大機密に巻き込まれてしまったのでは……!?)





ここまでお読みいただきありがとうございました。


更新の活力になりますので、 少しでも面白い・続きが気になると思っていただけましたら★★★★★からの評価やブックマーク等していただけますと嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
■スターツ出版文庫さまから好評発売中です■
『後宮の嫌われ白蛇妃〜推し活をしていたら愛されちゃいました〜』
後宮の嫌われ白蛇妃〜推し活をしていたら愛されちゃいました〜
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ