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【書籍化】後宮の嫌われ白蛇妃〜推しのためなら悪意も美味しくいただきます〜  作者: 碧水雪乃@『龍の贄嫁』2巻〈上〉1/23発売&コミカライズ連載中


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26 紅玉宮の筆頭女官・若麗



「失礼いたします。白蛇妃(はくじゃひ)様はいらっしゃいますでしょうか」


 水星宮の扉を叩く音が聞こえる。寝台の上で数多の木蘭(ムーラン)ぬいぐるみに埋もれて眠っていた苺苺(メイメイ)は、「ハッ」と飛び起きた。


(徹夜でぬい様を製作しているうちに、いつの間にか意識を失っていました……。ああでも、たくさんのぬい様に囲まれて眠ったおかげか、睡眠時間は短いはずなのに超回復している気がします)


「ふっふっふ、まるで禁断の仙薬をキメた気持ちです!」


 苺苺は寝ぼけた頭でおかしなことを口走る。


「もし。水星宮(すいせいきゅう)の女官の皆様? いらっしゃいませんか?」

「は、はい、います! 少々お待ちくださいませ!」


 窓の外を見るに、尚食局(しょうしょくきょく)の女官が来る時間にはまだ早い。


(後宮の朝餉はほとんど昼餉という感じですものね)


 そう思っているのは実は苺苺だけなのだが、彼女はそれを知らない。

 苺苺の朝餉が遅いのは、尚食局の女官たちが互いに仕事を押し付け合っているためである。それで朝餉の時間が終わるギリギリの頃に、冷め切った御膳を持って、嫌々ながらしぶしぶやってくるのだ。


(どなたでしょうか? この声、どこかで聞いたことのあるような、ないような……? と、その前に着替えなくては)


 苺苺は慌てて寝台を降り、簡素な衣装に手早く着替えて、扉を開ける。

 そこには昨日見た顔があった。朱色を基調とした衣をまとった、木蘭付きの上級女官だ。


「白蛇妃様……?」


 上級女官は出てきたのが妃本人だったことに驚いた様子で一瞬ぽかんとすると、すっと礼のかたちを取った。


「前触れも出さずに突然のご訪問、申し訳ございません。私は(シュ)貴姫(きき)の女官を務めております、侍女頭の(シュ) 若麗(ジャクレイ)と申します」


(皇帝陛下の後宮では〝貴妃(きひ)〟に相当する貴姫の冠をいただく最上級妃、木蘭様の上級女官……。それも、木蘭様と同じ血筋の)


 瞠目した苺苺は、無礼に当たらぬよう即座に礼を取る。


「朱家の姫君、若麗様にご挨拶いたします。(ハク)苺苺でございます」


 家格を差し引いても、妃と女官という立場から身分は同等か。

 いや、現皇后陛下の縁者なのだからやはり彼女の方が上になる。


(それに朱家の若麗様と言えば『月琴(ゆえきん)の名手』と名高い、朱州を治める朱家当主の三の姫に違いありません。確かお祖母様は朱家に臣籍降嫁された公主様で、若麗様自身も現皇后陛下の(めい)御様に当たる高貴な血筋の姫君です)


 もしも木蘭が後宮に上がらなければ、現在十八歳の若麗が後宮に上がり貴姫となっていただろう。齢六歳の木蘭と比べて、皇太子殿下との年齢も近く遥かに釣り合いが取れている。


 だがそうならなかったのは、幼い木蘭の方が彼女よりもさらに朱皇后陛下に近しい存在だったからなのかもしれない。


「まあ、苺苺様。今の私めは一介の女官、本当に気にしないでください。どうか若麗とお呼びくださいね」


 若麗は苺苺に気を使わせぬようにか、優しく微笑みながらそう言った。

 苺苺を忌避している様子はまったくない。

 物腰も柔らかく、話していると〝姉〟のような親しみやすささえ感じられる。


(先ほどまでのように『白蛇妃』ではなく、あえて『苺苺』とわたくしの名前を呼ばれたのは、妹妹(メイメイ)と音を同じくされたのやも。偏見がなく、洒落っ気(ユーモア)に溢れた親切な方なのでしょう)


 苺苺の中の若麗の存在は、一瞬にして『木蘭様付きの信頼のおける女官』にまで爆上がりした。

 人との会話、それも木蘭関連の話に飢えていた苺苺は、うずうずが抑えきれなくなる。


「わたくしったら、お客様にお茶もお出しせずに申し訳ありません。ささ、お上がりくださいませ」


(若麗様は、尚食局の女官の方と伝令の宦官の方以外で水星宮を訪ねてくださった、初めてのお客様です。張り切っておもてなしをしなくてはっ)


 こうして苺苺は期待できらきらと目を輝かせながら、紅玉宮で暮らす木蘭の可愛いこぼれ話など聞きたさに若麗を部屋の中に招き入れたのだった。





 円卓の前にあるひとつしかない椅子を若麗に勧め、それからいそいそと湯を沸かす。

 お茶菓子はないので申し訳ないが割愛し、苺苺は水星宮の女官さながらにお茶を出した。


「こちら、野苺の葉で淹れました薬草茶です」

「の……野苺の葉の、お茶でございますか?」

「はいっ」


 実家ならば『お嬢様がお茶を、それもお手製の野草茶(・・・)を出すなど言語道断』と彼女付きの侍女に咎められそうな光景だが、ここに苺苺の侍女はいない。


 若麗に至っては女官という立場から妃にお茶を、それも得体の知れない野草茶を振舞われたことに目を丸めて驚きつつも、水星宮の主のもてなしを断ろうなどとはしなかった。

 どちらもお人好しなのである。


「水星宮の庭園にて、わたくしが手塩に掛けて育てている最中なのです」


 苺苺はやや照れた表情をしながら胸を張る。


 茶葉は定期的に各妃嬪に下賜されると聞いていたが、まだ一度も届いていない。

 実家へ茶葉を送ってくれるように手紙を書こうかとも思ったが、王都から遠い白州との距離を考えると、野草や薬草で自作した方が早かった。


水色(すいしょく)はかの十三大銘茶のひとつ、君山銀針(くんざんぎんしん)を思わせる色合い。味わいはスッキリと爽やか……。舌先にほのかに残る甘みは絶妙で、一度飲んだら忘れられないこと間違いなしです!」




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