64 ルカの祖母の話
普通は当主が亡くなってから跡を継ぐのが普通だけど、国王陛下の許可があれば息子に継ぐことは可能だ。
ルカ様のお家は、それが許された家系なのかもしれない。
「くそっ! 狼なんてヤバすぎる!」
ブロッディ卿は私たちを置いて逃げるように店内に入っていく。
「ルカ様、リゼ様、お逃げください!」
騎士たちが私たちを護るために近付いてこようとしたのでルカ様がそれを止める。
「大丈夫だ。危険はない」
普通は狼の背中にウサギが乗っているなんてありえない。
こういう状態の時って騎士たちの記憶はどう書き換えられるのかしら? うさぎが犬に乗っている感じ?
ブロッディ卿が店員に狼の存在を伝えたのか、店内はパニック状態になっていたが、イグル様たちだけは心配そうにこちらを見ていることに気がついた。
どうしたら良いのか困惑していると、こちらに向かってきていた狼はくるりと向きを変えて、また草むらのほうに戻っていく。
「このまま、あいつに今日のデートを潰されるかと思ったけど、何とかなりそうだな」
「でも」
ルカ様に近寄り、小さな声で尋ねる。
「このままにしておいて良いのですか? あの狼はお祖父様なのですよね?」
「大丈夫だよ。たぶん、リゼのことが気になって見に来ただけだと思うから。別邸に先に戻って待ってるんじゃないか」
「では、お祖母様もいらっしゃっているのでしょうか?」
「ばあちゃんは体が弱いから来てないと思う。年齢的にも長旅は辛くなってるだろうし」
「そうなんですね。失礼ですけれど、お祖母様はお幾つなんでしょうか?」
「ばあちゃんは五十代半ばだったかな」
ルカ様がラビ様たちが消えていった方向を見つめながら教えてくれた。
「そうなんですね」
私たちの国の平均寿命は70歳だから、まだまだ、お元気だと思う年齢だけど、体が弱いのなら心配になってしまうわ。
そんなことを考えていると、ルカ様が話しかけてくる。
「余計な奴はいなくなったし、食事だけ済ますか」
「はい」
せっかく出してもらったものを食べずに帰るのももったいないし、お店の人にも申し訳ない。
店内で心配そうにしていたイグル様たちも呼んで、テラスで食事を済ませた。
「お前たちがどうしてここにいたかは聞かないが、今からは別行動だからな」
食事を済ませたあと、お店の前でルカ様はイグル様たちにそう言った。
「わかってるよ。邪魔してごめん。本当にルカがリゼちゃんをエスコートできるか心配だったんだ」
「心配させるような男で悪かったな」
苦笑する私の横で、ルカ様がイグル様を睨みつけた。
「だから、ごめんって謝ってるだろ! リゼちゃんも本当にごめん」
「イグル様、私は気にしておりません。それに助けていただき、本当にありがとうございました」
「頑張ったのはルルだよ」
ルル様の横でそう言ったのは、イグル様の弟のシファ様だった。
シファ様はイグル様と同じシルバーブロンドの髪と瞳を持っていて、イグル様とは違い、少し生意気そうな印象を受ける顔立ちだ。
ルル様より2つ年上の6歳で、素直になれないけれど、ルル様のことが好きみたい。
私たちから見れば、シファ様の気持ちは丸わかりなんだけど、当のルル様は全く気付いていないのよね。
「いいえ。わたくしは、とうぜんのことをしたまでですわ」
いつも以上におめかししたルル様は、可愛らしい顔を歪めて話を続ける。
「リゼおねーさまとおにーさまのなかをひきさこうだなんてゆるせませんわ!」
「ルル様は、私とブロッディ卿の会話が聞こえていらしたんですね」
「ええ。ねこはみみがよいんですの」
「そうでした」
ブロッディ卿は必死に隠そうとしていたけれど、結局はバレてしまうことになりそうね。
「今回の件はルルがいてくれて助かったよ。だけど、お前たちはお前たちで楽しめよ」
そう言って、ルカ様は私の手を取る。
「行くぞ」
「うわあ、ルカが女の子と手を繋いでる! 感動! リゼちゃん、ルカの手汗が酷くても許してあげてね?」
「うるせえな!」
イグル様に茶化されたルカ様は一度私の手を離して、ポケットからハンカチを取り出して手を拭いた。
「あの、ルル様、ありがとうございました。また、違う日に一緒にお出かけしてくださいね」
「もちろんですわ!」
ルル様は私の足にぎゅっとしがみついてきたあと、すぐに離れて頷いた。
その後はルカ様と私は改めて手を繋ぎ直して、デートを再開することにしたのだった。




