59 初デートの前の2人
あっと言う間にその日はやって来た。
女性の友人がいない私は、今日のデート服についてライラック様とルル様、そして、ルカ様の好みを熟知していると言うイグル様に相談した。
ルル様はノルテッド邸に来てくれたイグル様に、自分たちもデートをしたいと駄々をこねて大変だった。
そのため、同じ日時に私たちとは別にルル様はイグル様とイグル様の弟のシファ様と3人で出かけることになった。
シファ様はルル様のことが好きみたいだし、三角関係といったところかしら。
そちらのほうも気になるけれど、今は自分のことを考えることにした。
学園に通う時はナチュラルメイクだが、今日はいつもよりもしっかりとメイクをしてもらい、髪はシニヨンにしてもらった。
いつもはハーフアップにしている髪を全て上げてしまっているから、首の後ろの風通しが良すぎて何だか落ち着かない。
服や靴は持っているもので一番、デートに向きそうなものを選んだ。
フリルのついた白のブラウスにラベンダー色の膝下丈のスカートに茶色のロングブーツ。
何度も鏡で自分を見直してから部屋を出ると、メイドたちが楽しげな表情でエントランスホールまで付き添ってくれる。
「ルカ様はもうお待ちですよ」
「今日のルカ様は一段と素敵です。もちろん、今日のリゼ様も素敵ですよ! ルカ様は固まってしまわれるかもしれません」
メイドたちは私よりも嬉しそうだし、とても楽しそうだ。
でも、喜んでくれているのはわかるから嫌な気はしない。
エントランスホールに近付くと、ラビ様とルカ様が話す声が聞こえてきた。
「いいね、ルカ。リゼが可愛いからといって手を出すんじゃないよ」
「どれだけ俺は信用されてないんですか」
「ルカだから言うんじゃない。……の前では理性を失う時もあるのだよ」
なぜか一部分だけ小声になってしまって聞こえなかった。
「あ、リゼが来たよ。いやはや、今日のリゼは特に可愛いね」
「ありがとうございます、ラビ様」
メイドたちの前なので人間姿のラビ様に褒められて、素直に嬉しくて頭を下げる。
「礼を言われることじゃないよ。素直に気持ちを伝えただけだからね。ほら、ルカなんて固まってしまっているよ」
そう言われて、ルカ様に視線を向ける。
ルカ様は私を見て口をぽかんと開けていた。
今日のルカ様は黒のチェスターコートに白シャツ、下は黒のパンツ姿で、いつもよりも大人っぽい。
ルカ様が口を大きく開けている状態じゃなかったら、きっと私が固まってしまっていた。
「若い2人の邪魔をしてはいけないね。気を付けて行くんだよ」
ラビ様は微笑むと、メイドたちと一緒に離れていく。
ラビ様たちがいなくなっても、ルカ様は私を凝視したままだった。
「あの、ルカ様?」
いつまでもここにいるわけにもいかないので話しかけてみた。
すると、ルカ様は我に返ったのか、口を押さえて謝ってくる。
「悪い。リゼがその、可愛かったから」
「あ、え、あ、ありがとうございます! その、ルカ様も今日は一段と素敵です」
「ありがとう」
顔が熱くなって俯いてしまう。
ルカ様に可愛いって言ってもらえて嬉しい。
また、長い沈黙が続いたので顔を上げてみると、ルカ様が頭を両手で押さえていた。
「あの、どうかされましたか?」
「いや、その、耳が引っ込まなくて」
「え!? もしかして体調が悪いとかですか? それなら今日はやめておきますか?」
デート中止は残念だけれど、ルカ様の体のほうが大事だ。
そう思って尋ねると、ルカ様は首を横に振る。
「大丈夫だ。行こう」
「え? でも! ルカ様の耳が」
「大丈夫だって」
そうは言ったものの、ルカ様が頭から手を離すと、ぴょこりと豹の耳が出てしまった。
この状態で出ていくのはまずいわ。
「駄目です、ルカ様。今日はやめておきましょう」
「……ちょっと待ってくれ」
ルカ様が目を閉じて大きく深呼吸すると、耳が引っ込んだ。
「あ、ルカ様、耳が見えなくなりました」
「なら、良かった」
ルカ様はそう言って歩き出そうとした。
でも、すぐに足を止めてこちらを振り返った。
「……ルカ様?」
「その、今日は」
「はい」
「手を、繋ぎたいんだけど、いいか?」
「……はい。もちろんです」
照れくさそうに言うルカ様が可愛くて、胸が苦しくなる。
「ありがとう」
なぜかルカ様はお礼を言ってくれたあと私の手を取った。
剣の練習をしているせいか、ルカ様の手にはタコが出来ていて、少しだけ痛い。
でも、手を離したいだなんて気にはならなかった。




