54 リゼの好きな人
私が勘違いして恥ずかしい思いをした一件から数日が経った。
あのあと、私の発した言葉がどういう意味なのかルカ様から確認されたけれど、素直に伝える勇気が出なくて曖昧にしてしまった。
あの時は勢いで言ってしまえたけれど、冷静になると恥ずかしかったし、ルカ様からの返事を聞くのが怖かった。
勘違いじゃないと何度も言われたけれど、ルカ様は優しいから、そう言ってくれたんだと思うと辛い。
正直に言ってほしいけれど、迷惑だなんて言われるのも嫌だなんて、本当に私は意気地なしだわ。
「リゼちゃん、ルカと何かあった?」
昼休み、ルカ様がお手洗いに行っている間に、前の席に座っていたイグル様が、こちらに体を向けて聞いてきた。
「えっと、どうしてそう思われるのですか?」
「ルカの様子がいつもと違うからかな。リゼちゃんのことをめちゃくちゃ見てるよね。それに、リゼちゃんも何か変」
「……そうなんですか?」
自分のことはまだしも、ルカ様に見られていることについては気づいていなくて聞き返すと、イグル様は大きく頷く。
「なんというか、ふとした瞬間に目で追っちゃってるみたいな? あからさますぎてやばいよ。気づいてないリゼちゃんもやばいけど」
「やばい?」
「あー、なんというか、ありえないみたいな感じ?」
「ルカ様については、私が変なことを言ったからだと思います。あと、私がやばいのは昔からです」
「リゼちゃん、そういう意味じゃないって!」
イグル様が両手を合わせて謝ってくる。
「本当にごめん! 僕はからかう意味合いで言ったんだ。リゼちゃんの性格を忘れてた僕が悪い」
「気になさらないでください! 私は何でも馬鹿正直に受け止めてしまうタイプなんです。卑屈になってしまっているということも自覚してます。これでも一応、自分に自信を持つように頑張っているつもりなんですけど……」
「良くいえば謙虚なんだろうけど、どうでも良い人間に悪口言われたって気にしないくらいの神経を持ってもいいと思うよ」
「それはそうかと思いますが、イグル様は私にとってはどうでも良い人間ではありません。私はイグル様のこと好きですから!」
「嬉しいことを言ってくれるなぁ」
イグル様がハンカチで涙を拭う真似をしたのだけれど、すぐに表情を引きつらせて動きを止めた。
「ル、ルカ」
「何だよ」
「いや、そのちゃんと最初から聞いてた?」
「リゼがイグルを好きだってとこは聞いてた」
戻ってきたルカ様はどこか不機嫌そうな顔で私の隣の席に座ると、なぜか私を見てきた。
「あ、あの、ルカ様?」
「何だよ」
「何か怒ってます?」
「怒ってない」
ルカ様の表情はかなり不機嫌そうだし、怒っているようにしか見えないわ。
どうしたら良いのかわからなくて、イグル様に目で助けを求めると苦笑して教えてくれる。
「ルカも言ってほしいんじゃないかな」
「え? 何をですか?」
「ほら、リゼちゃんは僕のことをなんて言ってた?」
「好き、ですか?」
「そうそう。ほら、ルカが睨んでくるからルカにも言ってあげて」
「えっ!?」
改まって好きと言えと言われてしまうと恥ずかしい。
それに、そういうことを言うとルカ様が動揺してしまうかもしれない。
「あの、でも、またルカ様の膝があんなことになっても嫌ですし」
「それは忘れろ!」
ルカ様が片手で額を押さえて言った。
「で、でも! お医者様は安静にしないといけないって言ってらしたじゃないですか! それほど強打されたということでしょう?」
「リゼが逃げなきゃいいんだよ」
「……」
私とルカ様の様子を見てイグル様は苦笑すると、ルカ様に言う。
「ルカ、もうやめておけば? こういうのは言わせるもんじゃないよね」
「……そうだな。リゼ、意地悪して悪かった」
「そんな! 謝らないでください!」
意地悪だとは思っていなかったので、何度も首を横に振る。
そして、勇気を振り絞って口を開く。
「ルカ様のことが好きなのは確かですから!」
「そ、そうか」
ルカ様の髪の毛がふわりと浮いた気がしたので、私とイグル様で片方ずつを手で押さえる。
豹の耳が出そうになっていたし、やっぱり動揺してるんだわ。
ルカ様は冷静になったのか、すぐに耳を引っ込めた。
「悪い」
「ルカはリゼちゃんのことになると本当に駄目だよね。っていうか、ルカの膝がってどういうこと? 最近、足を引きずってるなと思ったら何かあったの?」
「うるせぇな。色々とあったんだよ」
「その色々が知りたい!」
面白がるイグル様とそれに対して嫌がっているルカ様のやり取りを見ていると、なんだか心がほっこりする。
私が伝えても良いんだけど、ルカ様は知られたくなさそうだし、話題を変えるためにイグル様に交流パーティーの話をしてみた。
すると、イグル様はうんうんと何度も首を縦に振る。
「そっか。デフェルの野郎がどうなるかは知りたいよね。楽しんでおいで」
「良かったらイグル様も一緒に行きませんか?」
「え? なんで?」
不思議そうにするので、ルカ様を見て答える。
「ルカ様はイグル様のことが好きですし、一緒のほうが良いかと思ったんですが」
「その好きの意味はリゼへの好きとはまた違うからな」
「ルカに好かれるのは嬉しいけど、恋愛感情では好かれたくないし、そうであってくれると嬉しい」
ルカ様が眉根を寄せて答えると、イグル様が笑いながら言った。
こうして、交流パーティーには私たち3人が参加することになったのだった。




