36 ミカナの絶望②
伯父様の発言には、私だけでなく、ライラック様達も驚いたようで、ライラック様は手で口を押さえ、ラビ様は私の腕の中でピクピクと耳を動かした。
そんなラビ様の背中を撫でて、自分の気持ちを落ち着けながら黙って見守っていると、ミカナが泣きながら叫ぶ。
「どういうことですか、お父様!?」
「どうもこうもない。お前が毒を仕入れたことはわかっている」
「お、お父様!? 何を言ってらっしゃるんですか!? それはお父様がっ!」
「ミカナ。素直に罪を認めて謝りなさい。わかった時点で、すぐに警察に連絡を入れるべきだったが、お前が思いとどまってくれるかもしれないと様子見をしていたんだ! それなのに……!」
伯父様は顔をくしゃくしゃにしてミカナに向かって続ける。
「ミカナ、もう諦めるんだ。リゼを殺そうだなんて馬鹿なことを考えてはいけない」
「お父様! 私を見捨てるおつもりですか!? 大体、お父様だってリゼが邪魔だと言っていたじゃないですか!」
「見捨てるんじゃない。救うんだ」
伯父様は強い口調で言った。
ミカナを救うんじゃなくて、フローゼル家を救いたいだけね。
そう思ってミカナを見ると、彼女もそれを悟ったようで、ポロポロと涙を流しながら伯父様を睨む。
伯父様もさすがにばつが悪いのか、ミカナから目を逸らした。
そんな伯父様の代わりに、デフェルが口を開く。
「ミカナ、お前は初犯だからすぐに出してもらえるって。まあ、うちには戻ってこれないだろうけど」
「戻ってこれないって、どういうこと?」
「……わかるだろ。犯罪者の妹なんていらないんだよ。フローゼル家の恥になるだろ」
「あんたに言われたくないんだけど!?」
ミカナはデフェルに掴みかかって叫ぶ。
「あんただって、リゼを襲おうとしてたじゃないの! あれだって、立派な犯罪じゃないの!」
「さあ? 覚えてないなあ。というか、お前、そんなことを言うなら、何でその時に止めないんだ?」
「何を言ってるのよ! わたしに相談もなかったじゃないの! 何かする時には言えと言っていたでしょう!?」
「そうだったか? 覚えがないなあ?」
デフェルは顎に手を当て、考えるようにして天井を見上げる。
その仕草がわざとらしくて、つい口を挟む。
「あなたに覚えはなくても、私は覚えてるわ」
「リゼは自意識過剰すぎる。俺がお前を襲うわけ無いだろ」
「あなた、よくもそんなことを……!」
あんなことをしておいてよく言うわ!
この言葉が本当なら嬉しいところではあるけれど、どうせ、この場だけの嘘だろうから意味がない。
伯父様もそうだけれど、デフェルも、どうしてこんなに焦りが見えないのかしら。
普通なら、自分達も巻き込まれると思って焦るはずなのに……。
「リゼ、あんまりカッカすんなよ。ミカナは警察に渡すからさ」
「それは当たり前のことよ! でも、あなた達も一緒に行かないといけないはずよ!」
「俺や父上は何も悪いことはしてないから捕まらねぇよ」
デフェルは大声で笑った。
シーニャのお母様は、そんな彼に対して怯えている様子だった。
襲われそうになったのだから、怖くて言えないわよね。
でも、私にはルカ様達がいるから怖くない。
「いいえ。私が警察に連絡するわ!」
「無理だって、どうせ信用してもらえねぇよ」
「どういうこと?」
「俺達のバックには、お前では到底敵わない相手がいるからだよ。あ、ノルテッド辺境伯家でも難しいと思いますよ」
デフェルはライラック様を見て、にやりと笑みを浮かべた。
「待って! 本当にわたしは悪くない! こうしたら良いと教えてもらったからやっただけなのに! お父様だって知っていたはずじゃないですか! わたしが悪いというのなら、お父様だって同罪です!」
そう言って、ミカナが伯父様の元へ向かって走っていく。
すると、伯父様の後ろから警察の制服を着た人達が現れた。
「見てくれ! 娘に襲われそうになった! 助けてくれ!」
伯父様が叫ぶと、屈強な男性達は驚いて立ち止まったミカナの両腕を掴んだ。
「殺人未遂の容疑で連行する」
「ちょ、ちょっと待って! おかしいじゃない! 毒を仕入れたのはわたしじゃない! お父様なのよ!」
「やっぱり、毒を仕入れていたんだな! この馬鹿娘が!」
伯父様はミカナの頬を強く叩く。
「どうして、お父さっ」
ミカナが何か言おうとすると、伯父様はまた彼女の頬を叩く。
ここまでする必要はないわ!
私が止めに入ろうとすると、ライラック様が後ろから伯父様の股間を蹴り上げた。
ライラック様の後は、私の手から飛び出したラビ様が飛び跳ねて、同じく伯父様の股間にうさキックをした。
「うお……」
伯父様は股間を押さえて床に座り込む。
「ミカナさんのやったことは良くないけれど、父親のくせに、よくもまあ娘に対してそんな仕打ちができるわね」
ライラック様は伯父様を見下ろして言い、ラビ様も一発では怒りがおさまらなかったのか、俯いて痛みをこらえている伯父様の頭にうさキックをした。
私もライラック様と同じ意見で、ミカナのやったことは許せないけれど、ミカナに対する伯父様の行動は酷すぎる。
「助けて……、お兄さま……」
ミカナは涙でぐちゃぐちゃの顔でデフェルに助けを求めた。
けれど、デフェルは悲しげな顔を作って首を横に振る。
「リゼを殺そうとしたから罰が当たったんだ。しっかり罪を償えよ?」
「酷い! 酷すぎるわ!! わたしがお父様に何をしたって言うのよ!? リゼ、助けなさいよ! あんたのせいじゃないの! こんなはずじゃなかったのに!! あんたのせいでっ!」
「ミカナ、あなたは私を殺したかったみたいだけど、それが出来なくて残念だったわね。でも、私だって殺されたくないし、誰かを殺そうとすることは悪いことなのよ。それに気付いてちょうだい」
「うるさい! どうして、どうして、お父様もお兄様もわたしを見捨てるのよ!」
自分がそうやって喚けば喚くほど、伯父様達が彼女を助けるつもりがなくなるのを、彼女は気付かない。
泣きわめき暴れていたミカナは、最終的には警察の人に引きずられるようにして連れて行かれたのだった。




