12 ルカの希望
次の日はノルテッド家の別邸に泊まっていったルカ様と一緒に登園することになった。
朝食を一緒に食べた時に聞いたのだけれど、今のところ、世間体的には私はルカ様の婚約者になっているらしい。
そうじゃないと、世話してもらっている意味がわからないものね。
ライラック様達は私に何の断りもなく話をしてしまったことについて、何度も謝ってくれた。
だから「こちらとしては、ルカ様の婚約者扱いだなんて、とても光栄です」とお伝えしたら、ルル様がその気になってしまい、結婚式の話などをし始めて、妄想を止めるのに苦労した。
食事をした時の私を見ても普通だったルカ様は、待ち合わせていたエントランスホールで私を見るなり聞いてくる。
「髪型とメイクが違う?」
「あ、そうです! いつもはハーフアップにしてたんですけど、今日は編み込みにしてもらって後ろで止めているんです」
くるりと背を向けて、ルカ様に見せると「そうか」と言う声が聞こえた。
「ルカ! もっと気の利いたことを言えないのか」
ジョシュ様が見送りにきてくれたのか、ルル様と手を繋いでエントランスホールに現れ、ルカ様に近付いて苦言を呈する。
昨日のこともあり、ジョシュ様は別邸での滞在を少し延ばされたのと、ルル様は私とルカ様の恋の行方が気になると言って、ライラック様としばらく別邸に滞在することになった。
ルカ様曰く、本音としてはイグル様に会えるから、こっちに住みたいのだろうと言っていた。
ルル様がルカ様を見上げて、可愛い眉根を寄せる。
「きょうのきみは、いちだんとかわいくて、こいにおちちゃったよ、とか、いってみたら、どうでしょう?」
「誰からそんな言葉を教わったんだ」
「イグルさまからですわ!」
「人の妹に変なことを教えやがって!」
イグル様のお母様はライラック様の妹で、現在はノルテッド家に名は連ねていないけれど、自分の家族を危険に晒すような方ではなく、その旦那様や息子であるイグル様も、家族やノルテッド家の人としか、その話をしないため記憶を書き換えられることはないのだそう。
イグル様は、ルカ様にとっては従兄弟であり、親友でもあるのよね。
ルル様と口喧嘩をしているルカ様を見て、私はそう思った。
ノルテッド家の人や使用人に見送られ、ルカ様と一緒の馬車で学園に向かう。
その馬車の中でルカ様が仏頂面で謝ってきた。
「家族が色々と悪い」
「いえ! 私が何から何までお世話になってますので! 本来ならこんなことをしていただける立場じゃないですし……」
「好きでやってるんだから気にしなくていい。助けたから後は知らないなんてほうが無責任だろ」
「でも、家を出させていただいて、色々と世話をしていただいてますし……! 野良猫達だって!」
「元々そのつもりだったんだよ。リゼは猫を置いていけないから家を出れなかっただろ? 最初から引き取るつもりだった。ルルは猫になるから、余計に放っておけないし、一応、俺も母上もネコ科だから」
お世話になっていて何だけれど、ルカ様達がどうしてここまでしてくださるのかわからない。
ルカ様はいじめが嫌いだと言っておられたけれど、私を養う必要はないはず。
ジョシュ様は未成年の貴族の女性である私を放り出したとなれば、ノルテッド家の名に傷がつくと言われていた。
でも、本当にそれだけかしら?
もしかして、私に利用価値がある……?
いつか、お金を返すにしたって、平民では返せない金額を使ってもらっている。
それなら、利用価値があると言ってくれたほうがいい。
そういえば、ルル様が言っていたわよね。
「フローゼル家との婚約に何か意味があるのですか?」
「元々はな」
「どういうことでしょう?」
「……リゼ、話が長くなるから、授業が終わったあとに少し話せるか?」
「……はい」
頷くと、向かいに座っているルカ様が身を乗り出して言う。
「リゼ、俺達に悪いと思うなら遠慮すんな。どうせ、リゼは伯父の家でも、実の娘じゃないのに育ててもらって申し訳ない、両親と一緒に死にたかったと思ってただろ」
「……」
図星だったから、言い返せなかった。
ミカナ達は昔は意地悪はしてこなかった。
けれど、伯母様が私に対して優しくて、愛情をかけてくれたから、ミカナは特に、独り占めしていた母を奪われたと思っていたかもしれない。
そう思うと、心苦しいところがあった。
今だってそう。
私は人に迷惑しかかけていない。
……私は、ノルテッド家の人に死を選ぶと思われているのね。
だから、助けてくれた。
「リゼ、俺はお前を助けたことを後悔してない」
ルカ様が私をしっかりと見つめて言った。
だけど、変わらなくちゃ。
このまま、ウジウジしていたり、本当に死を選んでしまったら、ルカ様に後悔させてしまう。
「私、変わります!」
「期待してる。あと、少なくとも、俺達はリゼに感謝してる」
「……どういうことですか?」
「フローゼル家に財力を見せつけるために買った家が、リゼがいなかったら、人間が住まずに保護猫ハウスになるだろ」
「かなりの猫ちゃんが暮らせますね」
苦笑すると、ルカ様は頷く。
「しかも、使用人付きだ」
「動物を保護する場所は、この国にはないですから、ある意味、良いかとも思いますけどね。でも、ありがとうございます、ルカ様」
「何もしてねぇよ。いてくれて助かるのはこっちだ」
私が負担にならないように気を遣ってくださってるのはわかるもの。
ここは、笑顔を見せてお礼をしないといけないわ。
「いいえ。ルカ様のおかげで、私は今は幸せな気持ちになれていますから」
にこりと笑うと、ルカ様は「それなら良い」と言って、身を乗り出して、髪型が崩れないように、優しく頭を撫でてくれた。
その時ふと、ルカ様の頭に三角耳が生えているのに気が付いた。
「ル、ル、ルカ様! 耳が4つになってます!」
「何言って……?」
そこまで言って気が付いたのか、ルカ様は両手で三角耳をおさえて大きく深呼吸した。
すると、嘘みたいに一瞬にして耳が引っ込んだ。
「悪い」
「いいえ! あの、自分では気付けないのですか?」
「目で見えないところだと無理だ。魔法なのに感情に反応する時がある」
「ルル様もそうでしたものね」
ルカ様はもう一度、深呼吸したあとに言う。
「リゼの姿を見たら、ミカナ嬢はどう思うだろうな。それから、あいつも……」
「……ミカナは驚くという自信はあります」
今日の私は髪型やメイクも違うし、前向きな気持ちになっているから雰囲気がまったく違うはず。
他の人からは調子にのってるだとか言われそうだけど、学園の規則違反をしているわけではないし、どうこう言われたくないわ!
私がウジウジしているのも悪かったけど、いじめる必要はないんだから!
「よし、行くぞ」
ルカ様が言ったと同時に馬車が止まり、御者が扉を開けてくれた。




