10 ルルの魔法?
数日後の学園が休みの日、ジョシュ様とルル様が明日には領地に帰られるということで、私の買い物なども含めて、ノルテッド家と私とイグル様でお出かけすることになった。
まずはアクセサリーを買いに行くことになり、店の中に入ると、ライラック様が事前に連絡をしてくれていたようで個室に案内された。
ライラック様がお店の人と私に合いそうなものを探してくださっている間、ソファーに座って待っていると、イグル様が話しかけてきた。
「リゼちゃん、ルカとの婚約を断ったらしいね?」
「はい!? 断ってなんかいません! といいますか、ルカ様から何か言われたこともないです!」
「え? そうなの? ジョシュ様はルカがリゼちゃんにフラレたから、新しい婚約者を探すって言ってたけど?」
「違います! そんなことはありえません! 婚約者を探されてるのは嘘ではないと思いますけど」
ルカ様が私をかまってくれているから、噂になってもおかしくはないと思っていた。
でも、私がルカ様をフるだなんて話はありえない。
このままじゃ、ルカ様にご迷惑をかけてしまう。
早く独り立ちできるようにしなくちゃいけないわ。
「おい、ちょっと待て、それ、どういうことだ」
私達の話がルカ様に聞こえてしまったようだった。
ソファーに座っているイグル様の後ろに立っていたルカ様は、イグル様のこめかみをグリグリと拳で押した。
「いだだだだ! ごめん! でも、ジョシュ様が言ってたのは確かなんだって!」
イグル様が涙目になりながら謝ると、ルカ様は大きく息を吐いてから拳を離した。
「父上は、俺がリゼを気にしてたから誤解してるんだろ」
「え? 僕もリゼちゃんを心配してたんだけど?」
「なら、お前がリゼを助けてやりゃ良かっただろ」
「勝手に動いたのはルカじゃないか。それに、僕は違うクラスだしさ。ねえ、リゼちゃん。ルカが駄目なら、僕なんてどうかな?」
イグル様が私に近付いて、冗談を言ってきた時だった。
「あ、ありえませんわ! わたくしというものがありながら、うわきだなんて!」
ルル様の声が聞こえて、慌てて声のした方向に振り返ると、そこには黒猫がいた。
黒猫といっても屋敷にいるような保護猫ちゃん達よりも3倍以上は大きい猫だった。
体型で言えば、ルル様よりも少し小さいくらいの大きさだ。
三角耳の長毛の黒猫ちゃんは、金色の瞳をイグル様に向けて、ソファーの上にお座りしていた。
さっきまで、そこにルル様がいたんだけど、もしかするともしかするの?
「やばい。父上、母上!」
ルカ様が黒猫の姿を自分の体で隠してから叫ぶと、お店の人と話をしていた二人は不思議そうな顔をしてルカ様を見た。
そして、体をずらしたルカ様の後ろに見えた猫を見て驚いた顔をされた。
でも、すぐに冷静になると、ちょうどこちらに背を向けている店の人に向かって、ライラック様が笑顔で話しかける。
「ちょっと気になったものがあるから、見に行ってもいいかしら?」
「もちろんでございます」
店の人は特にこちらのことを気にした様子もなく頷くと、二人を連れて個室から出ていった。
すると、待っていたかのように猫が口を開く。
「イグルさま、ひどいですわ! わたしとけっこんすると、やくそくしてくださいましたのに、リゼおねえさまにまで、きゅうこんするだなんて!」
「ああ……、もう最悪だ。というか、イグルは結婚の約束なんてしてねぇだろ」
巨大黒猫が言葉を話し、ポロポロと涙を流すのを見て、ルカ様が頭を抱える。
そして、そんなルカ様を呆れた表情で見つめながら、イグル様が尋ねる。
「ルカ! リゼちゃんは知ってるのかよ!?」
「まだ話してない! ただ、リゼは記憶が書き換わらないんだよ!」
「マジか!」
「とにかく、今はルルを落ち着かせてくれ!」
ルカ様がイグル様に向かって叫んだと同時、黒猫がイグル様に飛びかかった。
「うわきはゆるしませんわぁ!」
「ごめん、ルルちゃん! 落ち着いてくれ!」
イグル様は飛びかかった黒猫、ルル様の体を何とかキャッチすると背中を撫でながら話す。
「ごめんね、ルルちゃん、冗談だよ。リゼちゃんにはルカがいるだろ? とにかく落ち着こうね?」
「お前が悪い癖を出すからだぞ!」
「ごめん! つい、ルカをからかうほうに神経がいっちゃって……。しかも、ルルちゃんが変身までするなんて思ってなかったんだよ」
座ったままのイグル様はルカ様を見上げて、申し訳無さげに眉尻を下げる。
「おにーさま、イグルさまはわるくないんですの。わたくしのかんじょうがコントロールできなくて、まほうをむいしきに、つかってしまったのですわ」
そこまで言うと、猫のルル様は目に大粒の涙を溜めて私に話しかけてくる。
「リゼおねーさま、わたくしのこと、おきらいになりましたか?」
「そんな! 嫌いになんてなりません!」
ルル様には、はっきりと否定してからルカ様のほうを見てお願いする。
「詳しい話を教えていただけませんか? 人間が動物に変化できるなんてありえないことですから!」
「そのことなんだけど」
ルカ様がこめかみを押さえて話しだそうとした時、ジョシュ様が戻って来て、ルカ様の代わりに私の質問に答えてくれる。
「ノルテッド辺境伯家の一族には魔法がかけられている」
「おとーさま! だめだといわれていたのに、ごめんなさい!」
ルル様はイグル様から離れ、ジョシュ様のほうに猫の姿のままで走っていく。
「ルルはまだ、感情のコントロールが出来ないからしょうがない。それに元々、リゼには話をしようと思っていたしな。ルル、感情のコントロールが出来るようになるまでは、イグルと会うのは家の中だけにしなさい」
ルル様が変身したきっかけが、イグル様の行動だとわかっているようで、ジョシュ様は自分の元に駆け寄ってきたルル様を抱き上げて言った。
「イグルさま、きてくださいますか?」
「……わかったよ。僕がルルちゃんに会いに行くよ」
イグル様はルル様には笑顔を向けはしたけれど、すぐにソファーに倒れ込んでしまった。
「リゼ、詳しい話はここでは出来ない。家に帰ってからでいいか?」
「もちろんです」
ジョシュ様に尋ねられ、素直に頷く。
私達の住んでいる国では、魔法なんてお話の世界でしか存在しない。
どんな話をしてもらえるのか、好奇心にかられた。
「でも、そのまえに、リゼおねーさまのイメージチェンジをしないといけませんわ!」
お咎めなしと知って安心されたのか、ルル様がいつもの調子を取り戻す。
「その前に、ルルが人間に元の姿に戻らないとな」
「……はい。たぶん、あともうすこしで、まりょくぎれでもどりますわ。もうしわけございません」
猫のルル様はルカ様に謝ったあと、反省するかのように顔を下に向けた。




