10月27日 決戦編その2 さあ、盛り上がって行こう!
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ここは控え室となっている剣道準備室。
現在司さんにチェックしてもらいながら、
改めて防具を付け直している所である。
激戦になるであろうし、
万全の装備でいかないとな。
「よし、これで大丈夫だ。
無理だけはするなよ。」
「あはは、無理しないで
どうにかなる相手なら良かったんですけど。
逆にお義父さんは大丈夫なんですか?」
「正直父様もそろそろ落ち着いて欲しいというのが、
娘としての本音ではあるんだがな。」
「来年には『おじいちゃん』になりますからね。
お疲れ様、司さん、渉さん♪」
「お、お母様!」
「お、お義母さん!」
「おほほ。
息が合っていて羨ましいわ。
新婚さんって本当良いわよね。」
いきなり横合いから司さんのお母さんにして、
俺のお義母さん、梅原梓さんが現れた
ことに俺たちはびっくりしてしまった。
その容姿はお義母さんの方が多少背が高いものの、
非常に司さんに似ており、
和装が実に絵になっていた。
確か50歳くらいのはずだが、
正直司さんのお姉さんと言って
十分通用する感じである。
勝也との決闘の約束後、
一度こちらに顔を見せてくださった際に
ご挨拶させていただいたのだが、
とても柔和でコロコロと微笑む様子が
相変わらず印象的であった。
「勝也さん、むすっとして
全くしゃべってくれないから
遊びにきちゃったわ♪
ごめんなさいね、渉さん。
うちの人が迷惑かけて。」
「いえ、こちらこそ
こんな騒ぎにしてすいません。
この勝負が終わりましたら、
改めてご自宅にご挨拶に
伺いますので。」
「いいのよ、いいのよ。
あの人よく
『自分の息子と真剣勝負がしたい。』
なんて詮無いこと言ってたから、
今回のことも満更でもないと思うわ。
どんな結果になろうとも
悪いようにはしないから、
二人とも安心して。」
底抜けに明るいその様子は
あの剛直な勝也とは不釣り合いなようで、
意外とバランスが取れているのだろう。
まあ、最後の『悪いようにしないから』で、
細めていた目を見開いた時は
流石道場を切り盛りする女将さんって、
迫力があったし、
決して勝也が好き放題できている訳ではないのだろう。
司さんも『母様は武道はやっていないが、
父様との喧嘩で負けたのを見たことが無い。』と言っていたし。
•••ゆめゆめ怒らせない様にしないとな。
「父様の様子はどうですか、母様。」
「うふふ、いつも以上に入れ込んでるわね。
おかげで準備を手伝ってくれている
河中さん汗びっしょりよ。
あんまり放っておくと
彼胃に穴が空いちゃうかもしれないから、
もうちょっとしたら戻ってあげないとね。
そういえば、司さん、
男の子と女の子一人ずつだったみたいね♪
今から本当に楽しみだわー♪♪」
「あはは。
まあ、男の子用と女の子用両方、
清水のお義母さん達にベビー用品を
いただいてましたから、
無駄にならなくていいんですけど。」
「この前電話口でお話させて
いただいたけど、
とてもお話が面白くて、
素敵な方ね、瑠璃子さん。
今度一緒にご飯に行きましょうって
約束しちゃったのよ、渉さん♪」
「そ、そうですか。
本当ご迷惑をおかけしなければいいんですけど•••」
司さんの父親を気遣う質問に対しても
軽妙に返すお義母さん。
向こうも気合い十分みたいだし、
いい勝負にできそうだ。
河中さんには今回副審もして
もらうし、
色々苦労をかけたから、
今度お礼をしないとな。
ちなみに話に出て来た通り、
先日の検診でほぼお腹の
双子の性別が分かった。
男の子と女の子一人ずつということで、
司さんが言っていた様に、
うちのアホ母姉が
計画性も無く買った大量のグッズが
無駄にならずに済みそうである。
うちの無茶苦茶な家族が
お義母さん達にどう受け止められるかは
相当に心配であったのだが、
どうやらソフトランディングできたようで
何よりだ。
とはいえ今後もどんな粗相をしでかすか
分からないから、
雅樹にしっかりと報告してもらう様にしないとな。
「あら、もう15分前ね。
10分前には会場に入場みたいだから、
そろそろ戻るわね。
渉さん、遠慮なくあの人を
懲らしめちゃっていいから、
頑張って下さいね。」
「ありがとうございます。」
「母様、終了後、
父様へのフォローお願いします!」
「任せなさい♪」
娘の真剣なお願いに、
ウインクで返し、
部屋を後にした梓さん。
彼女と勝也の馴初めなんかも
いつか聞いてみたいものだ。
その辺りも含めて、
終了後結婚式の話でもしながら、
仲良く笑い合えればいいんだけど•••
ええい、とにかくやるっきゃない!
行くぞ、勝也!!
俺は再度気合いを入れ直すと、
面を脇に抱えて、
竹刀を掴んだ。
完全に用意してから出て行ったら
良いと思ったんだが、
付けずに会場まで行って、
双方の紹介をしてから
勝負ということになるらしい。
その辺の段取りは全部直澄に任せたから、
別にいいんだけど、
最後の朝練終了後、
どうも直澄がニヤついていたのが、
気になるんだよな。
「盛大にやりますよ!」
とか言ってたけど、
こんな地味な勝負どうやって
盛り上げるんだか。
まあ、どう宣伝したのか、
お客さんはそれなりに
来てくれているみたいだし、
無様な姿をさらさない様に
気を付けよう。
「渉、では私も観覧席に行くな。
本当に無理だけはするんじゃないよ。」
「安心して下さい。
決闘といってますが、
これはあくまでもお義父さんとの
『対話』なんですから。
大事なのは勝ち負けではなく、
お義父さんに俺という人間を
分かってもらう為にやるんです。
きっと認めてもらいますよ。
そして良い結婚式にしましょう。」
「うん、そうだな。
行ってらっしゃい、渉。」
「行ってきます。」
俺と司さんは
『行ってきます』のキスを交わすと、
二人一緒に控え室を出た。
司さんは階段を昇って上部にある観覧席へ、
俺は道場に向かって行く。
愛する奥さんのloveエナジーを受けて、
俺の調子は最高マックス!
やってやるぜ!!
そんな気分でいた俺は
そのまま道場に入ろうとして、
入口に立っていた生徒に
何故か足止めされてしまった。
何でも直澄の指示で
両者スタンバイが出来てから
入って欲しいとのこと。
何らかの演出を考えているようである。
あいつも大分こういうイベントを動かしたり
するのに自信をつけてきたよな。
連携担当に就任してまだ半年だが、
産まれて来る子どものことを考えると
早めに直澄辺りに引き継ぐのも必要かもな。
スタンバイが出来るまで、
俺はそれくらいに軽く考えていたのだが、
可愛い弟分はどうやら俺の想像を
軽く超えるぐらいに成長してしまったようである。
「レディース、アーーーンド、
ジェントルメーーーーン!!
ただいまより義父子デスマッチ、
2時間一本勝負を執り行います!!!」
そんなうろな町非公式リングアナたる、
須藤さんの叫び声によって、
色んな意味で想像を超えた超絶バトルが
今ここに開幕する。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
すいません、勝負の場面にまでいきませんでした。
引っ張ってしまい申し訳ありませんが、
多いに盛り上げていきますので、
ゆっくりとお付き合いください。
綺羅ケンイチさんより須藤さんをお借りしています。
ふっと思いついてこんな役をお願いしました。
どうぞよろしくお願いします。




