ダンジョンと罠 2
全員が真剣な顔つきで、壁や地面をくまなく触って調べていく。
特に懸命な様子を見せているのはクーザ様とシル様だ。
クーザ様は私がここに移動させられる事になった原因となってしまった責任を感じているからだとして……シル様はどうしてあそこまで必死に調べてくれるんだろう?
「シル様、皆様……」
「こうして見てると、これはこれでまあまあ面白いな。美形が揃いも揃って壁に顔を寄せてなめるように見ながら触ったり、地面に這いつくばってほふく前進……なんか、笑える。なあ?」
「笑えません」
『なあ?』じゃあない。
私のせい……私の為にあんな姿を晒してくれているのだから、全くもって笑えない。
この男性が出した道具が放つ光から映し出された、今実際に起きているのだろう映像を見て、申し訳ない気持ちになる。
「あの、そろそろ、皆様をここへ移動させてあげられませんか? 貴方ならできるんでしょう?」
この人は、扉もないこの部屋へ移動してきた。
そして、自分で作ったというダンジョンの卵を持っている……つまり、このダンジョンは。
「ここは、貴方が作ったダンジョンなんでしょう? 違いますか?」
「いや? 違わないな。もう少し見て楽しみたい気もするが……ゴーレムの性能も早く試したいしな。まあ、いいか」
男性はそう言うと手を前に伸ばした。
すると、映像の中のシル様達がいる地面に大きな魔方陣が浮かび上がった。
それに気づいたシル様達は一斉に立ち上がり身構える。
次の瞬間映像は消え、部屋の隅に今見たばかりのものと同じ魔方陣と、その光に包まれた数人の人影が現れた。
「さて、ちょっと我慢しろよ?」
「えっ?」
段々はっきりと見えてくる人影を見ていると、耳元に男性の声が聞こえ、同時に肩を掴まれぐいっと体を引っ張られた。
次いで、首もとにひやりとした物があてられる。
「え……!? あ、あの!?」
「し~っ」
「!! アカリ嬢!! 貴様、何者だ!? アカリ嬢を離せっ!!」
「ああ、いいぜ? 離してやるよ。……こいつに、お前さん達が勝ったらなぁ!! 出でよ、ゴーレムッ!!」
シル様の鋭い声と、男性の楽しげな声が響く。
そして、ゴゴゴゴゴゴ、という大きな音を立て、私と男性がいる場所とシル様達がいる場所の間に壁ができた。
あれが、ゴーレム。
「さあ、この子を返してほしけりゃ、そいつを倒しな!」
「くっ、ゴーレムか……!」
「殿下方、お下がり下さい! ここは我らが!」
ゴーレムを睨み、シル様達の前に護衛の皆様が進み出る。
けれどそれを制して、シル様がゆっくりと、更に前に出た。
「ひとつ聞く。このゴーレムを倒せばアカリ嬢を離すと貴様は言ったが、ゴーレムを倒す間、アカリ嬢に危害は加えないだろうな?」
「ああ、それなら心配ない。俺はそのゴーレムの性能を検証したいだけだ。俺が作ったダンジョンのひとつにゴーレムを置いてるんだが、冒険者達に弱点が知れ渡ってね。容易に退治され始めたから、強化したやつを置き直す事にしたんだ。そいつはその強化バージョンの試作品ってわけさ。だからこの子に危害を加えるつもりはない、が……もしそいつを倒せなかったらこの子はお前さん達には返さない。俺が連れて行く」
「ええっ!?」
「……なるほど、理解した。なら……全員、手出し無用だ。シエル、セリオム。俺達だけで倒すぞ」
「は、シル様」
「いつも通りに、ですね」
「へ? シルにシエルにセリオム? どっかで聞いたな……お前さん達、有名人だったりする?」
「……それなりに名は通っているようだが、ただの冒険者パーティーのひとつだ」
「へえ! ラッキーだな、そりゃ楽しみだ。なあ?」
「……楽しくありません」
『なあ?』じゃあ、ない。
もう、申し訳なさすぎる…………。




