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趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた  作者: 歩く魚
予想通りにいかなすぎる

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一閃2

 ローヴァンさんは腰の刀に軽く手を添えたまま居酒屋を出た。俺も後に続く。

 いつの間にか、先ほどまで感じていた夜風の湿り気が消えている。

 剣が抜かれてもいないのに、すでに戦場の温度だけが下がったかのようだった。


「…………」


 再び大通りに戻った俺は、ローヴァンさんと並んで首領を見据える。


「――待たせたな! この人が俺の援軍だよ!」


 そう呼びかけると、首領は呆れたように鼻で笑った。


「はっ、そんな老いぼれを待っていたんですか?」

「あぁ。確かにこの人は酒飲みだし、すぐにどっか行っちゃうし、スパルタだ」

「――坊主、ちょっと言い過ぎてないか?」

「でも、とんでもなく強いらしい。それこそ、お前なんて秒殺さ」

 

 首領は肩をすくめる。

 ローヴァンさんが、わずかに顎を上げた。


「首領とか言ってたな、お前さん」

「……そうですが」


 首領は、初めて「警戒」を含んだ視線でローヴァンを見ていた。

 ただの老兵ではないと察しているのか、単に警戒するクセがあるのか。


「ちょっと聞かせてもらいたいんだが――縦と横、どっちがいい?」


 ローヴァンの口調は穏やかだった。

 まるで、散歩中の老人が迷子の子どもに話しかけるかのような、落ち着き払った声。


「……はぁ、意図がこれっぽっちも分かりませんが。酒の飲み過ぎでボケてしまったのでは?」


 首領の煽りはローヴァンさんに意味をなさない。

 それどころか、彼はため息を吐いて、踵を返してしまった。


「――えっ!? ローヴァンさん!?」


 俺が声をかけると、彼は片手をヒラヒラさせながら言葉を返す。


「……盗賊団の長ともなれば、少しは腕に覚えがあるんだろうと期待したんだがな」

「いや、俺よりは強いですよ!」

「青いも青い。坊主、そいつに教えてやれ。一つ、戦場では即座の判断が命運を分ける。二つ、ヤバいやつと相対したら、とりあえず逃げる。まぁ――」


 どうして俺が振り返ったのか、理由は説明できなかった。

 ただ、俺が首領を視界に収めた時には、もうすべてが終わっていた。

 ――首領の身体が僅かに傾く。

 身体全体が揺れているのではない。

 すぱっ、と横に真っ二つに割れる。

 まるで空間そのものがズレていくように、斜めに、寸分の狂いもなく。


「……ッ……が……ッ……!」


 言葉にならない呻き。もう意識はないのだろう。

 肉体がその場に崩れ落ちるまでに、ほんの数秒の猶予があっただけだった。


「――もう聞こえちゃいないか」

 

 盗賊団の首領。

 あれほどの力を持っていた男が、ただの一撃で。

 どのタイミングで攻撃したのか。

 おそらく、「縦と横、どっちがいい?」と聞いた直後なのだろう。

 だとしても、刀を抜く動作も、飛ばされたであろう斬撃も、何一つ見ることができなかった。

 それはきっと、首領も同じなのだ。

 俺よりも強い奴が気付くことすらできなかった攻撃。

 ローヴァンさんはぜんぜん本気じゃない。


(……これがSSランクか)


 リゼットは全てに長けている万能タイプ。

 ラグナルは動きも素早いが、一撃の威力が凄まじい。

 それに対して、ローヴァンさんは《剣神》での攻撃に特化したタイプなのだろう。

 物理でも魔術でも、因果すらも断ち切ると言われている剣神の一撃。

 それを、あの速度で放たれるのなら、一体誰が避けることができるのか。

 爺さんだと思って油断していたが、またとんでもない存在を仲間に引き入れてしまったと、戦慄が遅れてやってくる。


「……そんじゃあ、俺は朝まで飲んでるからな。店主が戻って来そうになったら、上手く誤魔化しといてくれ」


 そのまま歩き去っていく背中は、まるで何もなかったかのように穏やかだった。

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