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趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた  作者: 歩く魚
予想通りにいかなすぎる

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路地裏のボクサー

 赤いドレスに、透き通るような金髪。

 どこからどう見ても高貴な出自だと分かる彼女だが、その呼吸には焦りが浮かんでいた。


「はっ……はっ……はっ……はっ……」


 気付けば路地裏。行き止まり。


「そ、そんな……」


 少女と女性の狭間にいる彼女の耳に、いくつもの足音が聞こえた。


「へへへ……もう逃さねぇぞ……」

「身ぐるみ剥いで、その後はお楽しみだぜぇ」

「その髪、俺の唾液でビチャビチャにしてやりてぇなぁ」


 言うまでもなく盗賊。

 彼らは街中での略奪よりも、目の前を通り過ぎていった貴族を追いかけた方が美味しい思いができると考えた。

 そして、振り返った彼女は、恐怖に顔を――。


「――まぁ! これは助かりましたわ!」

「…………はい?」


 驚いたのは女性――セレスだけでなく、盗賊たちも同様だった。


「街に盗賊がでたというので、わたくしは人助けと走り込みを両立していたのですが……どうにも道に迷ってしまいまして。あなた方も気をつけた方がよろしくてよ!」


 シンからの指令が下された後、セレスは執事を引き連れて人命救助にあたっていた。

 転んだ人を持ち上げて立たせ、飛んでくる火種を握りつぶし、潰れそうな店を買い取る。

 それに加えて、すべての動作に負荷をかけることで、自らのトレーニングも行う。

 まさに一石二鳥。理想的な状況だったのだが……いつしか知らない場所に迷い込んでしまっていた。

 タイミング良く現れたつもりだった盗賊たちは戸惑っていた。

 街に盗賊が出たことに気をつけるのか。

 道に迷ってしまうことに気をつけるのか。

 どちらでも良いのだが、彼らが言いたいことが一つだけある。


「……俺たちが盗賊なんだけど」

「あらあら、そうですのね!?」


 この世間知らずのお嬢様は、見た目では盗賊と理解できないようだ。

 なら、名乗ってやれば怯えてくれるだろう。

 セレスが嬉しそうに両手を合わせるのを見て、盗賊たちは自分の考えが浅かったと知った。


「お嬢ちゃん、俺たちが君に酷いことをしようとしてるって、わかってるかな?」

「もうそうやって笑えないような、心に刻み込まれる傷をつけて――」

「――お嬢様」


 盗賊たちの背後から聞こえた低い声。

 全く気配を感じさせなかったそれに、盗賊たちは一斉に振り向き、武器を取り出す。


「だ、誰だテメェ!」

「執事みたいだな……その子と一緒に死にてぇのか!」


 脅してみるも、執事はまったく怯まない。

 怯まないというより、自分たちの存在を認識していないとすら思えた。


「ラグナル様が戦いを終えたようです。私たちも戻り、シン様を探しましょう」

「そうですわね! さすがはラグナル様、あの御仁から信仰されているなんて、シン様は偉大ですわ〜!」

「――お前ら、無視してんじゃねぇよ!」


 このままだと忘れさられてしまいそうだ。

 盗賊達は武器を振って威嚇する。

 それを見て、セレスは楽しそうに笑った。


「じいは何をしなくてよろしくてよ! 命拾いしましたわねぇ!」

「そうですな」


 セレスは一歩前に出て、優雅にドレスの裾を摘まみ上げた。

 その表情は、どう見てもただのお嬢様。

 敵意どころか、困惑すら見えない。


「……あの嬢ちゃん、まさか戦う気か?」

「ドレス着て、ヒラヒラしながら……?」


 次の瞬間、セレスのヒールが地を蹴った。


「……なッ!?」


 その速度は尋常ではない。

 思考より先に視界が揺れる。

 セレスの腕が、盗賊の腹へと深く沈んでいた。

 ――ボディブロー。


「ごふッ……!」


 息を詰まらせて膝をつく男。

 そのまま倒れ込むかに見えたが、セレスは腕を引くと、今度はステップで横へと滑る。


「シン様から仰せつかっていますので、手加減しますわよ〜!」

「な、何言って――ぶはっ!」


 二人目がセレスの左ジャブを鼻っ面に受けて後方にのけぞる。

 直線的に放たれた拳は、盗賊の顔面を正確に捉え、その身体を弾いた。


「こちらに来てから、あまり鍛錬の時間が取れずに困っていましたの。感謝ですわねぇ!」

「こちとら盗賊だぞ!」


 驚く三人目が、斧を振りかぶる。

 セレスはそれを見た瞬間に、くるりと身体をひねって回避。

 細く絞った胴体が、寸分の無駄もなく流れるように動く。

 そして、躊躇なく繰り出される右ストレート。


「――ふっ!」


 放たれた拳は、的確に盗賊の顎を撃ち抜いた。

 頭部が跳ね上がり、視線が上を向いたまま、三人目が後ろに倒れ込む。


「ば、化物だ……お嬢様の皮を被った獣だ……」


 最初に腹を抉られた盗賊。かろうじて立ち上がり、逃げようと振り返る。


「まぁまぁ! 背中を見せるなんて、失礼ですわよ!」


 セレスが一気に距離を詰める。


「マナー違反には、お仕置きが必要ですわね!」


 ステップイン。

 わずかに浮かせた足でバランスを取り、踏み込んだ身体から繰り出されたアッパー。

 真上に突き上げられた拳が、逃げかけていた盗賊を捉える。


「うっ、ぐ……!」


 声にもならぬ呻きとともに、盗賊は地面から十数センチ浮き、そのまま大の字で地に伏した。

 路地裏に残るのは、倒れた盗賊と、軽く息を整えるセレス、そして静かに見守っていた執事だけ。


「ふぅっ……良い運動になりましたわね。じい、見ていました? 今日のフォーム、少し改善されていた気がいたしませんこと?」

「お見事でございます、お嬢様。ストレートの打ち出し角度が1.2度改善されておりました」

「そうでしょうそうでしょう! うふふ、やっぱりトレーニングは裏切りませんわ!」


 と、その時。通りから叫び声が聞こえた。


「さぁ、行きましょう。人々のために、わたくしができることを!」

「かしこまりました、お嬢様」


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