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趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた  作者: 歩く魚
予想通りにいかなすぎる

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毒沼ブラザーズ3

「……読む力が、勝ちを拾う」


 以前、シンがレオンに対して告げた言葉。

 実際にはローヴァンからシンに向けて送られたものであったが、レオンから教えを請われて困ったシンは、あたかも自分の経験かのように伝授したのだ。

 とはいえ、その言葉は本物であり、恩人の口から発せられたならなおさら効力を発揮する。

 レオンは毒沼ブラザーズと相見えてから今までのことを、詳細に、しかし瞬時に思い出していた。


『俺たちは毒沼ブラザーズッ!』

『俺たちのコンビネーションの前に跪きなぁ!』

『俺たちは本当の兄弟じゃない。だが、互いがどう動くのかは考えずとも理解できるのさ』

『俺たち毒沼ブラザーズのコンビネーションには遠く及ばない』


 二人の言葉の中に糸口があるのではないか。

 活性化した脳細胞が、彼に閃きをもたらした。


(……上手くいくか分からないけど、やってみるしかない)


 決意したレオンが放った言葉。

 その一言が、場の空気を変えた。


「お前たちは……嘘をついてるな」


 抽象的すぎる指摘。

 何についての、どんな嘘なのか。

 恋人が浮気している気がするけど、具体的な証拠がない。そんな時に繰り出されるブラフのような、中身のない攻撃。

 しかし毒沼ブラザーズは――びくりと肩を振るわせた。


「ほ……ほぉ!? おおお俺たち毒沼ブラザーズが嘘をついてるって!? そそそそんなハズねぇだろ! なぁ兄弟!?」

「ももももちろんだぜ! 俺たちは盗賊だが嘘はつかない! 身から出た錆は一文にもならねぇからな!? なぁ兄弟!?」


 あらかさまを通り越し、もはや演技なのではないかと疑ってしまうほどの反応。


「い、一体どんな嘘をついてるってんだ!? 俺たちがよォ!」

「そうだぜ言ってみろ! な、舐めなこと言ったら引き摺り込んでやるからな!? 毒沼とかによぉッ!」


 突然の展開にイーリスは戸惑っていたが、動くことはしない。

 兄の次の一手を待っている。

 そして、レオンはもったいぶって深呼吸すると、先ほど自分たちが向けられていたような、勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

「悪いけど……俺とイーリスの方が、兄妹として上なんだよ」

「……ふぅ…………何?」


 何かに安堵したゼーレが、続けて片眉を上げる。

 優位を確信していた顔が、わずかに動揺で歪んだ。


「は、はは……何を言いだすかと思えば、本物の兄妹だからって? くだらねぇな」

「違う。そういうことじゃない」


 レオンはゆっくりと剣を構え直す。

 毒沼の縁に立ちながらも、恐れの色はない。


「お前たちの連携はすごい。正直、驚いた」

「ほう? なら何が不満なんだよ」


 ダリオが笑みを浮かべる。

 だが、その笑いは先ほどのように軽くはない。

 顔に張り付くような笑みだ。


「お前らの連携は、言ってみれば訓練の賜物だ。綿密に練り上げられた戦術……それは確かに強い。だが、俺たち兄妹は信頼で繋がってる」

「信頼? は、はははっ、なんだそりゃ! 俺たちに信頼がないとでも? 兄弟、なんか言ってやれよ!」

「あぁ、もちろんだぜ! クソガキが、今さら精神論で勝てると思ってんのか?」

「精神論なのはお前たちだ」


 レオンは揺れず、淡々と言葉を続ける。


「考えてみれば、お前たちは最初からコンビネーションにこだわりすぎてる。『俺たちのコンビネーションはすごい』とか『動きが手に取るように分かる』とかな。それが何を意味してるか、教えてやろうか」

「そ、それは……俺たちの絆の深さだよな?」

「それだ、それ以外にあるわけがねえ」


 互いに頷きあう毒沼ブラザーズ。


「いや、違うな。確かにコンビネーションは凄い。だけどお前たちには……兄妹に対するコンプレックスがあるッ!」

「「なっ……!」」


 衝撃を受けて固まる二人の男。


「事あるごとに自分たちの繋がりをアピールして……本当は自信がないんじゃないのか? 『本当の兄妹には負けるんじゃないか』って。俺たち兄妹は――別々に戦っても強い絆で結ばれている!」


 この場で唯一、イーリスだけが、三人がアホだということに気付いていた。

 そして、レオンの主張が支離滅裂だということも。


(……兄さんは、どうにか奴らを分断しようとしている)


 イーリスの読みは当たっていた。

 経験で劣っているのなら、せめてタイマンでの勝負に持ち込む。

 その方が勝てる確率が上がるし、自信がある。それは分かる。

 問題があるとすれば、レオンは舌戦に向いていないということだ。

 自らが敬愛しているシンの「やり方」を模しているのだろう。

 だが、それにしては論法が稚拙すぎる。


(別々に戦っても絆が強いって何!? もっと違う道筋があったでしょ!?)


 これではレオンの魂胆が丸見え。

 むしろ分断作戦が難しくなってしまう。

 そのはずだったが――。


「――俺たちだって、できるに決まってんだろッ!」

「おうよ兄弟ッ! 俺たちは別々に戦っても最高のコンビネーションよッ!」


 ――盗賊達はレオンのペースに呑まれてしまっていた。

 額に青筋を浮かべたゼーレが毒沼に身を沈める。

 次の瞬間には、レオンの真後ろから跳び出してくるだろう。


「兄弟、任せたぜ!」


 ゼーレの叫びに、ダリオが答える。


「ああ、好きにやれ! 俺はこっちの小娘と遊ばせてもらう!」


 その瞬間、自然と戦場が分断される。

 レオンとゼーレ。イーリスとダリオ。

 二対二の戦いは、二つの一対一へと変化していた。


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