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趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた  作者: 歩く魚
予想通りにいかなすぎる

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時間稼ぎ/毒沼ブラザーズ

「一石二鳥ッ! これもまた、筋肉の魅力ッ!!」


 決死の嫌がらせ作戦を開始してすぐ、ヴェスティアの街が震えるほどの爆音が響く。


(――ラグナルがやってくれたか)


 正直言って、まったく心配はしていなかった。

 あの大男を倒すことができる存在など、この世にほとんどいないだろうし、いたとしても盗賊なんていう蛮行に手を染める必要がない。

 これで幹部は残り四人。他のギルドメンバーの状況は分からないが、雑魚はラグナルが処理してくれるだろうし、俺が首領の注意を惹いている限り、負けはない。


「――おい!」


 瓦礫の間をぬって全力で駆けながら、十数メートル後方にいる男へ声を飛ばす。


「さっきから、お前の部下たちが減ってきてる気がしないか?」


 その一言に、首領の足が止まった。


 しかし、焦りはない。

 むしろ口元には余裕の笑みが浮かんでいた。


「そうですか? 私はこれっぽっちも、そんな気はしませんが」


 喋る声すら悠然と、まるで散歩でもしているような口ぶりだった。


「あなた……自分の声が震えていることに気付いていますか? 私を動揺させようとしているんでしょうけど――逆効果ですよ」


 くく、と喉の奥で笑いが漏れる。


(……うん、いい反応だ)


 そりゃあそうだろう。俺はわざと情けない演技をしているのだから。

 俺の仕事はギリギリを攻めること。

 余裕があるとバレてはいけないし、計画通りだと悟られてもいけない。

 あくまで小物だと――実際に小物ではあるが――思わせることが重要なのだ。


「あなたはもっと、自分の心配をするべきです」


 その言葉と同時に、背後から複数の足音が迫ってくる。

 振り返れば、七、八人の盗賊が路地を封鎖していた。

 誰もが武器を構え、血走った目でこちらを睨んでいる。

 

「そ、そんな……俺の相手をするには、人数が多すぎじゃねぇか……?」


 情けなく目を泳がせ、足を後退させながら声を震わせる。

 この「雑魚臭」が大事なのだ。


「おやおや?」


 首領がにやりと笑いながら、こちらへゆっくりと近づいてくる。


「むしろ少ないくらいですよ。あなたがボロボロになり、這いつくばって私に許しを乞う――その姿を見たくてたまらない」

「……いい性格してるじゃねぇか」


 にやりと返して、全身に意識を集中させる。

 次の瞬間、盗賊たちが一斉に飛びかかってきた。

 鈍い衝撃、響く打撃音。

 四方から振るわれた剣、鎌、棍棒が俺の身体を打つ。

 もちろん、致命傷になりそうな刃だけは全て躱した。

 だが、残る拳や棒の一撃は、あえて受ける。

 頬が裂け、腕に痺れが走り、脇腹に紫色の鈍痛。

 意識が霞み始めても、それはすべて計算のうちだ。

 

「ぐっ……本当に、いい、性格だよ……」

 

 本心だ。こうやって余裕を見せていてくれるから、他のメンバーは動くことができる。

 そして、俺は俺で愉しむことができているのだ。

 致命傷になりそうな武器だけを避け、他は喰らう。

 徐々に動かなくなっていく身体、それでも何とか命を繋ぐ。

 たまにはこういう「死闘」も良いじゃないか。

 二分、三分、五分……幸せな時間はあっという間に感じる。


「はぁ……どれだけ時間をかけているんですか……」


 首領がため息を吐き、踵を返す。

 マズい。俺に飽きて他に行こうとしている。そうはさせない。

 既に俺の顔面は血塗れで、頭もクラクラしてきている。

 つまり、全ての能力値が一段階上昇しているのだ。

 その状態で並の盗賊の攻撃を避けるのは造作もなく、俺は一人一人の武器を空中に弾き飛ばすと、首領に向けて蹴り飛ばす。


「おらぁッ!!」


 そのうち一本が首領の左肩を掠めた。


「……ッ!」


 小さく舌打ちする首領。

 その目に、初めて本気の色が灯った。


「あなたは……本当に癪に触りますねぇ……ッ!」


 杖を構え、紫色の魔力が渦巻く。

 だが、俺も次の手を打つ。

 立ち上がりざま、周囲の盗賊たちを殴る。

 足を、腹を、顎を。急所を正確に突いて、一瞬だけ全員の動きを止める。

 その隙に一人の背後をとり、羽交い締めにする。


「――さあ、どうする? 撃てよ。どんな魔術でも、五人は道連れになるぜ?」


 首領の顔が、ぎゅっと歪んだ。


「くっ……外道が……!」

「褒め言葉かぁ~!? マイナスの奴にマイナスのこと言われたらプラスになるんだよッ!」


 言いながら、俺は確信していた。


(……あと三十秒は稼げる)


 首領との睨み合い。

 一分にも満たない時間だが、この小さな積み重ねが俺の快か――街の人々を救うことに繋がる。

 その時、かなり後方で爆発音がした。

 残りの誰かが戦っている。俺の方も頃合いだ。

 羽交締めにしていた盗賊を蹴り飛ばすと、首領をできるだけ煽り、逃げ始める。

 背後から何か言い返してきているが、俺の耳には届かない。

 口喧嘩とは、言うだけ言って相手の言葉を聞かない奴が勝つのだ。


ーーー


 シンが耳にした爆発音は、魔術によるものだった。

 それを放った張本人――イーリスは険しい表情で口を開く。


「ごめん兄さん、外しちゃったかもしれない」

「いや、かなり惜しかったと思う。手傷くらいは――」


 言いかけたレオンだったが、土煙から姿を現した男達は、傷一つ負っていない。


「……なんだ、こいつら」


 レオンの眉がぴくりと動く。

 あり得ない。至近距離に近い位置からの魔術。回避行動を取ったとしても、直撃に近い。

 もし当たっていれば、いかなる盗賊でも無事では済まないはずだ。


「そんなに、俺たちが無事なことが不思議かい?」


 土煙を踏みしめながら現れた男の一人が、にやりと笑った。


「お前ら、明らかに動揺してるみたいだぜ。なぁ、兄弟」


 もう一人も、骨が軋むような音を鳴らしながら肩を回す。


「そりゃそうだろ、兄弟。ちょっと派手な光を見たくらいで、俺たちがやられると思ったのか?」


「かわいそうに、あんな魔術じゃ蚊に刺された程度だぜ、なぁ兄弟」

「それを言うなら、蚊にも謝らないと」


 二人の男はまるで鏡写しのように似ていた。

 黒いフード、骨のような刺繍が入ったローブ、爛れたような手の甲。

 表情も、歪んだ笑みまでそっくりだった。


「……」


 レオンとイーリスは無言のまま二人を睨みつける。

 その態度が気に食わなかったのか、片方の男が一歩前に出た。


「おい、兄弟。こいつらの顔、気に入らねぇな」

「ああ。真面目な面してさ、こっちはちゃんと挨拶しようとしてるのによ」


 片方の男が、ぴっと自分の胸元を指差す。

 そこには、金属製の徽章が刺さっていた。

 表面に刻まれた二つ名は――《毒沼》。


「俺たちは毒沼ブラザーズッ!」

「毒にも耐性のないヤツは、骨まで溶かしてやるぜッ!」


 唐突に始まる名乗りと決めポーズ。

 謎の自信と、圧倒的な自己満足。

 それを前にして――レオンは直剣を、イーリスは光魔術で生み出した弓と矢を、それぞれ白けた顔で構えた。

 


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