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趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた  作者: 歩く魚
予想通りにいかなすぎる

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異空間で不利すぎる2

 石畳の上を靴の先がかすめる。

 細く、鋭い音が空間を引き裂いた。

 即座に身体を低く沈め、半身を翻すと、頬の横を真空の刃がすり抜け、後方の壁に亀裂を作った。


(……風魔術か)


 首領の杖の先端から放たれた攻撃は、明確な殺意を伴っていた。

 威嚇ではない。最初から仕留めにきている。

 直後、左右の路地から駆け込んでくる下っ端二人。

 さっきまで粒子のように揺れていた彼らも、今はしっかりとした肉体を持っている。

 一人は剣、一人は斧。乱雑ながら、動きに迷いはない。


(ってことは、諸共刺しに来るタイプじゃなさそうだ)

 

 首領が下っ端ごと仕留めるタイプなら、彼らの動きに迷いが出るはずだからな。

 いくら上司の命令といえど、自分の命を容易く差し出せる奴は少ない。

 今のこいつらは、こちらの死角を取り、囲むことだけに集中している。

 恐怖や焦りの影は見えない。


「くそっ……」


 振り下ろされた斧の一撃。

 咄嗟に飛び退くも、わずかにタイミングがずれ、避けきれず肩口に受ける。

 衝撃が全身に響き、呼吸が一瞬止まる。


(……おかしい。動きが鈍い)


 膝を着きかけた身体を無理やり起こしながら、周囲の状況を探る。

 目の前の敵は変わっていない。

 下っ端二人。装備も姿もさっきと同じ。動きが良くなったようにも感じない。

 なら、原因は自分自身にある。


(転移の影響か……?)


 今の時点では明確に言語化できないが、感覚が微妙に合わないのかもしれない。

 

 地面の硬さ。空気の抵抗。重力の向き。

 全てが、僅かだが狂っている気がする。

 避けようとすれば、足元が想定よりも半歩分ずれる。


(……空間に慣れなきゃ、下っ端にも勝てないかもしれない)


 首領の方は、こちらに詰めてくる気配はない。

 広場の奥から、淡々と魔術の隙を見定めてくる。

 下っ端に削らせて、魔法で仕留める。

 王道の手だが、一番厄介だ。

 三人の動きを見逃さないよう、ゆっくりと後退する。

 武器もない状態。

 このまま真正面からやり合えば、遅からず隙ができて終わる。

 そうなる前に――。


「――逃げるつもりですか?」


 思考として出力する前に、首領が言い当てる。


「ちょっと、買い忘れた物があってな。店員を頼んでもいいか?」

「困りますねぇ……こちらも時間があるわけではないんですよ」

「へぇ……そりゃあ大変だねぇ」 


 言い残して、俺は背を向けて一気に駆け出した。

 広場の端から石畳の通りへ飛び出し、角を曲がる。

 追撃の魔術が背後から放たれるが、建物の陰に入ったことで辛うじて回避できた。

 光の破片が耳元をかすめ、白い火花がレンガの壁に散った。


(……何か変だ)

 

 勢いよく蹴り出した足に、わずかな違和感が残っている。

 だが、止まっているわけにもいかない。

 路地を駆け抜けながら、できるだけ冷静に分析する。

 身体が思ったよりも遅れる。足元がやけに浅い。

 どこか、地面との接地感が薄く感じる。


(転移の影響か、空間の性質か……。もしかして、この世界そのものに、何かがあるのか?)


 やはり、普段なら気にも留めない情報が、どれも微妙にずれているように感じる。

 だからこそ、動きが噛み合わない。


「……ん?」


 視線の先。見覚えのある通りに出た瞬間、違和感が確信へと変わった。

 角のパン屋、その隣にある雑貨屋。位置が逆だ。

 現実のヴェスティアなら、パン屋は左、雑貨屋は右だった。

 けれど、今見ている風景はその逆。左右が反転している。


(流石にまだ、記憶違いは起こさない年齢だよな)


 さらに数メートル先、壁に掲げられた看板の文字が、鏡写しのように反転していた。

 右から左へと読めるように書かれているが、どう見ても不自然だ。


(完璧な再現じゃない……?)


 おそらく、現実世界から一つずれた層にいるというのは合っているはず。

 首領も「別の空間」と言っていたからだ。

 しかし、この空間は厳密に言えば「完璧」なものではない。

 世界の成り立ちとして、俺たちの知らない異層の空間が存在しているのではなく、あくまで何者かが魔術で異層を作り出し、杖で利用しているという解釈の方が近いのだろう。

 あくまで人間が作り出したものであり、完成はしていない。

 その不完全さが、こうして歪みとして現れている。


(だったら――この歪みが、出口に繋がってるかもしれない)


 確信はない。

 とはいえ、賭けないという選択肢はない状況。

 このままでは、俺は人知れず殺されるだけだ。

少しでも面白いと思ってくださった方はブクマ、評価等お願いいたします。

どれも感謝ですが、評価、ブクマ、いいねの順で嬉しいです。

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