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趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた  作者: 歩く魚
予想通りにいかなすぎる

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路地裏

 ラグナルの声がまだ背後で響いている中、俺は焼き鳥を片手に、そっと人混みから抜け出した。


(……こういう時に動かないと、絶対誰かに捕まる)


 言い訳はちゃんとある。

 リゼットへのお土産だ。

 いつも留守を任せてばかりだし、何か形に残るものを買って帰らなきゃ後が怖い。

 下手をすれば、「それでは、シン様をお土産としていただきます」とか言いかねない。本気でやるからな。

 通りの喧騒を避け、ひっそりとした裏路地へと入る。

 人混みから解放されただけで、胸の奥がすっと軽くなる。

 軒を連ねるのは、小さな雑貨屋ばかり。

 木の棚や縄に吊るされた品々は、どれも観光客向けの手工芸品で、通りの大通りよりも落ち着いた空気を漂わせていた。

 籠細工に小さなランプ、魔除けと称されたお守り。

 金属細工の指輪やペンダントは手作りらしい歪みがあって、逆に味になっている。

 俺の視線が止まったのは――細い銀糸で編まれた髪飾りだ。

 澄んだ青のガラス玉が中央に嵌め込まれていて、落ちかけている夕陽の残滓を透かして淡く光り、小さな水晶の雫のように見える。

 リゼットが身につける姿は想像できない。

 ただ、机の引き出しに大事そうにしまって、時々そっと取り出して眺めたりする。

 そんな姿は、妙に容易く思い浮かんでしまう。

 

「お客さん、良い目してるねぇ」

 

 店の婆さんが、にやりと笑って声をかけてきた。

 

「これはね、恋人への贈り物にぴったりさ。幸せを呼ぶ色だって言われてんだよ」

「いや、恋人とかじゃなくて……」

 

 慌てて否定するが――。

 

「どうだい、包んどこうか?」

「……お願いします」


 婆さんが器用に小箱へ髪飾りを収め、柔らかな布で包む。

 俺はそれを受け取り、上着の内ポケットにしまい込むと、胸の内で小さくガッツポーズをした。


(よし、これで土産問題はクリアだ……!)

 

 あとは人知れず戻れば完璧だ――そう思った矢先。


「……ッ、やめろ! 誰か助け――!」


 裏路地の奥から、掠れた悲鳴が響いた。

 十中八九、盗賊の仕業だろう。

 現地のいざこざに首を突っ込みたくないが、見過ごすのも寝覚めが悪い。

 

「……はぁ」


 諦めのようなため息を一つ。

 さっき手に入れた髪飾りの小箱を上着の内ポケットに押し込み、肩を回す。

 戦う準備なんてしてきていないのに、身体はもう勝手に動くモードに入っていた。

 音のする方へ足を踏み入れると、薄闇の中で光る刃が見えた。

 二人組の盗賊が、観光客らしい男を壁際に押し付けている。

 片方は肩で男を押さえ込み、もう片方が短剣をちらつかせ、財布をもぎ取ろうとしていた。


「離せっ! 助けて……っ!」


 必死に抵抗する男。

 だが、刃先が喉元をかすめた瞬間、その声が恐怖に詰まる。

 下手をすれば財布どころか、命まで奪われかねない。

 俺は、足を止めずに声をかけた。


「――おい」


 盗賊達の肩がピクリと揺れる。

 振り返った顔には、狩りを邪魔された獣のような苛立ちが浮かんでいた。


「なんだテメェ」

「観光客か? こっち見なかったことにして帰んな」


 短剣を構える盗賊の腕が、わずかに震えていた。

 威嚇のつもりなんだろうが、あの構えじゃ素人同然だ。


「観光客じゃない。ギルド仕事で来てるんだよ」


 俺はそう告げ、念のために持っておいた腰の木剣を抜いた。

 金属の剣じゃないから舐められるかもしれないが、別に構わない。


「悪いが、その財布は置いてけ」


 静かに告げた俺の言葉に、盗賊の顔が真っ赤に染まる。「ふざけんな!」と怒声を張り上げ、勢い任せに飛びかかってきた。

 振り下ろされた短剣。けれど、踏み込みは浅い。

 恐怖を紛らわせようとして吠えた結果、力が空回りしている。

 俺は半歩だけ身体をずらし、木剣の柄尻を鳩尾に叩き込んだ。

 ぐえっ、と呻いて倒れ込む盗賊。

 その様子にもう一人が狼狽し、反射的に短剣を突き出してきた。

 だが、狙いは雑だ。突き出された腕をすり抜けるように身をひねり、空いた胴へ、木剣を横薙ぎに叩きつける。

 鈍い音と共に、そいつも壁にぶつかって崩れ落ちた。

 

「……弱いやつでよかった」


 思わず安堵の息が漏れる。

 この程度なら、ただの街のゴロツキだ。

 木剣を振るい直し、観光客の男に手を伸ばそうとした、その時――。


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