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趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた  作者: 歩く魚
予想通りにいかなすぎる

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50/71

観光すぎる

 単独行動を諦めて――諦めさせられ歩いていると、通りの武具屋に吊るされた剣に、レオンが思わず足を止めた。

 

「わっ……すごい……!」


 この店も、掘り出し物の武具を扱っているのだろう。

 夕陽を受けて輝く刃は、そこにあるだけで人を惹きつける。

 細工の凝った鍔に、鞘を収めてもなお伝わる鋭さ。

 ロマン武具に精通した俺でなくとも「高いんだろうな」と直感できる代物だ。


「シンさん、この剣……! 持ちやすそうです!」


 レオンが無邪気に目を輝かせる。

 その様子は、まるで玩具屋の前で足を止めた子供みたいだ。

 ということは、彼に現実を教えるのは親役の俺の仕事だ。

 

「……レオン、値札を見ろ」

「え? ――ご、ごご50万!?」


 目を剥いて固まるレオン。

 驚きのあまり、剣より値札の方を凝視している。


「兄さん、絶対ダメ。家一個買える額だよ」


 隣のイーリスが肩をがっしり掴んで、耳元で釘を刺す。

  

「わ、わかってる! わかってるよ!」

 

 レオンは顔を真っ赤にして、慌てて手を振った。

 

「剣は値段じゃない。握った時に自分に馴染むかどうかだ」

「馴染む……ですか?」


 横から口を挟むと、レオンが真剣な顔で聞き返す。


「そうだ。安物でも、自分の手に合ってれば十分強い。逆に、いくら名匠の剣でも、重さやバランスが合わなきゃ足かせになるだけだ。高い剣でも扱えなきゃ意味がない」


 レオンは真剣な眼差しで、その言葉を全身で受け止めるように頷いた。


「……勉強になります!」

 

 目をきらきらさせながら深々と頭を下げてくる。

 これが、ギルドマスターの説得術だ。

 レオンは俺と似ていて、好きなものに全額をブチ込めるタイプ。

 彼が浪費家になり、金に困ってしまうと、俺を信じて送り出してくれた村の人たちから悪い印象を持たれてしまう可能性が高い。

 すると、やがて悪評が王都へと広まり、ギルドの評価が下がり……助成金が取り消される。

 そうならないためにも、イーリスだけでなく、俺もガーディアンになる必要がある。

 冷静になって考えてみると、Aランク相手にBランクが何を偉そうに、という感じだが。

 ……え? レオンと俺が似てるなら、俺にも財布ガーディアンが必要だって?

 安心してほしい、俺の財布は既にリゼットにガッチリ握られている。多分、心臓とかも。

 まぁ、レオンには今度、俺が適当に見繕った武器を買ってやろう。


 続いて、イーリスが立ち止まったのは小さなアクセサリー屋。

 

「シンさん、ちょっと見てもらえますか?」

 

 細い銀のブレスレットを手首につけて、こちらに向けて差し出してきた。


「どう、ですか? 似合いますか?」

 

 瞳が不安げに揺れている。

 わざわざ俺に聞かなくても、元が良いんだからなんでも似合う。

 だが、ここでしっかり自分の意見を告げることが大切だと、セラとのやりとりで学んでいる。


「すごく似合ってるよ」

「っ……ありがとうございます!」


 イーリスの頬がほんのり染まり、笑顔が弾ける。

 財布を握りしめ、そのまま「じゃあ、これ買います!」と勢いよく店員に声をかけた。

 ……俺の言葉、そんなに信用して大丈夫か?


「まぁ! これは……素敵ですわ!」

 

 セレスが手に取ったのは、宝石の縁取りが施された外套。

 鮮やかな赤に金糸の刺繍、背中には意味不明なほど大きな紋章。


「お忍び用のマントですって! シン様にぴったりですわ!」

「セレスさんセレスさん、お忍びの意味を知ってますか?」


 俺の突っ込みも無視して、彼女はマントを俺の肩に羽織らせようとする。

 

「さぁ、今すぐ羽織ってくださいませ!」

「いやいやいや、目立ちすぎるだろ! 絶対に盗賊の目に留まる!」

「盗賊にすら注目されるなんて、シン様の魅力は罪ですわね!」

「その理屈はおかしい! 論破みたいな顔しないでくれ――って力強いね!?」

 

 そのままマントを勢いよく肩にかけられる。

 見なくとも似合っていないのが分かるぞ。

 と、その時。「お客様、お目が高い」と言いながら、店員がにこやかに近寄ってきた。

 今なら分割払いも可能です、と言い出しそうな営業スマイル。


「やばいやばい、買わされたらたまったもんじゃないぞ」


 俺は慌ててマントを脱ぎ捨てるようにセレスへ押し戻し、店員の手が伸びる前に店を飛び出した。


 最後まで粘るセレスをなんとか引きずり、屋台通りに一歩足を踏み入れた瞬間、ラグナルの声が地鳴りのように響いた。

 香ばしい煙が立ちこめ、鉄板で焼かれる肉の匂いが食欲を刺激する。

 観光客や子供たちが「わぁ」と歓声をあげるそのど真ん中で、ラグナルはなぜか、呼び込みの商人と並んで立っていた。

 

「さぁさぁッ! 筋肉の栄養源ッ! 焼き鳥はいかがですかァッ!」


 上腕二頭筋をぶんっと誇示しながら串を掲げる。

 それを見た通りすがりの客たちは圧倒されて足を止め、「……す、すごい迫力……買おうか」と財布を開き始めた。

 その光景を見た屋台の親父は大慌てで、額の汗を拭きつつラグナルに深々と頭を下げた。


「ラグナル……なにやってんの?」

「団長ォッ! この熱気、たまりませんなッ!」


 答えになってないです。


「お、お前さんが団長さんかい!? 本当に助かるよ! 売れ行きが倍どころか三倍だ! いや、下手したら店ごと吹っ飛ぶ勢いだ!」


 どうやらラグナルは、店主に「団長の命令で手伝っている」とか言ったらしい。

 話が妙に通じてしまっているせいで、俺のところにまで余波が来た。


「ほら団長さん、これはサービスだ! こんな立派な仲間を連れてるんだ、あんたも食ってくれ!」


 差し出された焼き鳥を、俺は無言で受け取るしかなかった。


少しでも面白いと思ってくださった方はブクマ、評価等お願いいたします。

どれも感謝ですが、評価、ブクマ、いいねの順で嬉しいです。

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