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趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた  作者: 歩く魚
予想通りにいかなすぎる

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人が多すぎる

 ガタガタと揺れる馬車が、長い街道を抜ける。

 夕暮れの陽光が差し込む頃、視界の先に灰色の石壁が現れた。

 

「おぉ……あれがヴェスティア……!」

 

 レオンが思わず声を漏らす。

 石畳を積み上げた高い城壁。

 尖塔の屋根が幾重にも重なり、窓からは橙の灯が揺らめいている。

 千年の歴史を背負った古都。

 その姿が、地平線の向こうから迫ってきていた。


「まぁっ! 素敵ですわねぇ!」

 

 セレスが扇子をぱたぱたと煽ぎ、瞳を輝かせる。

 

「見てください、あの橋! もう灯籠が吊るされてますよ!」


 城門へと伸びる大橋には、すでに色とりどりの灯籠が並び始めている。

 街全体が祭りの準備に包まれ、遠くからでも熱気が伝わってきた。


「団長ッ! この熱気ッ! よく汗を流せそうですなッ!」

「あー……確かに?」


 サウナじゃないんだぞ。

 そんなやり取りをしている間にも、馬車は城門へと近づく。

 門の前には人と荷馬車の行列。露店の支度をする商人や、観光に訪れた旅人がひしめき合っていた。

 香辛料の匂い、楽師の調弦の音、遠くの歓声。

 もうすでに祭りが始まっているかのようだ。


「……賑やかだが、やっぱり隙が多い」

 

 ローヴァンさんが人混みを見回す。

 

「祭りと盗賊は、いつだってセットだからな」


 馬車は城門前で停められた。

 ラグナルが手綱を握ったまま、ぎゅっとブレーキをかける。


「団長ッ! 無事に到着でありますッ!」

「お、おう……お疲れ」


 街の中は人も屋台もごった返していて、馬車ごと進むのは不可能だった。

 そこで、荷を一旦降ろし、俺たちが宿まで運び込むことになった。


「馬と馬車はどうするんです?」


 レオンが聞くと、ラグナルは胸を張って答える。

 

「任せてくださいッ! 城門外の馬宿に預けてまいりますッ! 私が責任をもって見張りますのでッ!」

「見張らなくていいから、ちゃんと預けといてね?」


 まぁ、宿代が一人分浮くと考えれば……ありなのか?

 考えつつ視線を巡らせるヴェスティアの大通り。

 石畳の道には人々がひしめき合い、宿屋の看板はどこも「満室」の札で埋まっていた。


「す、すみません! 七人で泊まれる部屋は――」

「悪いねぇ、祭りの時期は何日も前から予約で埋まっちまうんだよ」


 三軒目、四軒目。

 聞いて回っても答えは変わらない。

 肩に荷を担いだまま俺はため息をつく。


「……やっぱり、遅かったか」

「ど、どうしますかシンさん。もしかして、野宿……?」


 イーリスが不安そうに俺を見る。

 

「夜風に当たりながら夜を過ごすのも一興だが……嬢ちゃんたちが可哀想だな」

「団長ッ! 街角で腕立てをしつつ夜を明かすというのはどうでしょうッ!」


 ローヴァンさんと、いつの間にか戻ってきていたラグナル。

 そんな中、ドリルを揺らして一歩前に出たのはセレスだった。


「――お任せくださいませ!」

 

 扇子をバンッと閉じ、胸を張る。

 彼女はすぐ近くの立派な宿へとずかずか進んでいき、受付へ声をかけた。


「ごきげんよう。セレス・オーギュスト・ド・モンフォール・エルミナリエですわッ!」

「っ!? も、モンフォール家のお嬢様……!?」


 受付の顔色が一変する。

 そして、数秒の交渉ののち――。


「……只今より、最上階の貴賓室をご用意いたします!」


 俺たちは豪華な鍵を渡されていた。

 飾り金具が光り輝く、大きな鍵。

 どこにでもある宿の木札なんかとは格が違う。

 セレスは誇らしげにこちらを振り返る。


「ご覧なさいませシン様! この交渉術を!」


 それは交渉術とは違う何かなのでは?

 そう思ったが、なにも言わないでおいた。

 とにかく、俺たちは部屋を手に入れることができた。

 宿の主人は平身低頭で、俺たちを豪奢な階段へと案内する。

 磨かれた赤絨毯。壁には絵画。窓辺のカーテンは絹。

 完全に庶民お断りの世界だ。


「すごい……ここ、ほんとに泊まっていいんですか」

 

 レオンが荷物を抱えたまま、おどおどと周りを見渡す。

 

「いいんですの! 《白灯》には相応の宿が不可欠ですわ!」


 どデカい扉の前で宿の主人が深々と頭を下げ、去っていった。

 鍵を鍵穴に差し込み、ガチャリと回すと、重厚な扉がゆっくりと開く。

少しでも面白いと思ってくださった方はブクマ、評価等お願いいたします。

どれも感謝ですが、評価、ブクマ、いいねの順で嬉しいです。

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