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趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた  作者: 歩く魚
予想通りにいかなすぎる

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この依頼は受けたすぎる2


 依頼書を受け取った俺は、自分のギルドへと戻り、ロビーでくつろいでいるメンバーに依頼書を突き出した。

 

「――というわけで、依頼を受けてきた」


 最初に食いついたのはセラだった。


「珍しいね、マスターが自分から依頼を受けるなんて」

「まぁな」


 どこかのおばちゃんに脅されでもしない限り、俺が依頼を受けるのは金のためだ。

 ギルド開設資金を貯めるため、面倒な採取依頼やら雑務やらを数多く受注してきたのは記憶に新しい。

 しかし今回は例外。純粋に、俺の興味を惹いた依頼なのだ。

 

「今回の行き先は――古都ヴェスティア。年に一度の『千灯祭』に合わせて、出展品の運搬と納品だ。希少鉱石、魔力薬草、ちょっと珍しい小動物が一匹。割のいい護衛依頼だな」


 依頼内容を聞いて、空気がぱっと明るくなる。


「まぁっ! ヴェスティアといえば、石畳と回廊、歴史と芸術の都ですわね! 社交界でも、人生に一度は訪れるべき古都と讃えられておりますの!」

 

 セレスが扇子をぱたぱたと扇ぐ。目が星みたいに輝いてる。


「千灯祭……! 橋にずらーって灯籠が並ぶやつですよね?」


 イーリスが胸の前で手を組み、憧れの眼差しを向けてきた。


「あと、掘り出し物の剣が売ってるって聞いたことが……」

 

 レオンは少し遠慮がちに口を挟む。かなり気になっていそうだな。

 兄妹の住む村にも噂が届いていたようだし、流石の知名度である。


「……千灯祭か」

 

 ローヴァンさんが低く唸るように言った。酒を置き、じろりと依頼書を睨む。

 

「観光気分で行ける場所じゃねぇぞ。昔から、盗賊団が根城にしてるって噂があるからな。財布と命が同じくらい軽くなる街だ。……それはそうと、美味い地酒があるんだよな」


 あんたも行きたいんじゃねぇか。

 渋い顔をしておきながら、最後の一言で全てが台無しだ。


「とはいて、まずは仕事。荷を無傷で届けて、受領印をもらうのが最優先だ」


 口では釘を刺しつつも――実のところ、俺の胸の内はメンバーとそう変わらない。

 観光気分、というより「観光そのもの」が目的だった。

 ギルドを立ち上げてからというもの、俺の生活は一変した。

 以前は、好きな時間に飛び出して、血塗れになって心を満たし、ひっそりと帰宅する最高の日々。

 だが今は、朝から晩まで誰かしらがロビーにいて、深夜でも誰かが作業していることが多い。主にリゼットが。

 仲間が増えたのは……頼もしさという面では良いことだ。

 しかし、常に誰かの視線を感じる生活は――その視線が重いものだということもあって――息苦しいものだった。

 古都ヴェスティア。芸術と歴史の街。

 俺の脳裏には、祭りの夜に橋一面を照らす灯籠の光景が浮かんでいた。

 そこを一人で歩く。屋台で何かを食べる。人混みに紛れて、誰の目も気にせず過ごす。

 思わず頬が緩みかけたところで、目の前にいたセレスが勢いよく立ち上がる。


「決まりですわね! わたくし、社交界に先んじてヴェスティアの知識を取り入れますわよ〜っ!」

「素晴らしい心がけです、お嬢様」

「そうでしょう! そして、シン様とご一緒できれば、さらに幸せなこと間違いなしですの!」


 やめてくれ、爺。俺を見るな。

 続いてラグナルが腕を組み、筋肉を隆起させながら大声を上げる。


「団長ッ! このラグナル、実は芸術に興味があるのですッ! 共に鑑賞しましょうッ!」


 さらにイーリスが恥ずかしそうに手を挙げる。


「あのっ……私、お弁当作ってもいいですか? ……シンさんに食べてもらえたら……」


 視線を逸らしながら、頬をほんのり染める。

 あぁ、青春が胸を締め付ける。

 最後にローヴァンさんが、どっかり椅子に腰かけたまま口を開く。


「……祭りに紛れて盗賊も動く。俺が目を光らせといてやる」


 格好いい台詞だが、左手にはすでに酒瓶。

 どう考えても、見張りより飲む気だ。

 ――これで分かった。俺が静かに過ごせる可能性は、ごく僅か。

 作戦を遂行する隙は一瞬だということだ。


「……ちなみに、今回は俺、ラグナル、レオン、イーリス、セレス、ローヴァンさんで行こうと思う」


 ラグナルには馬車の見張り、兄妹は小回りの利く戦いができ、セレスには……小遣いをねだろうという算段。

 ローヴァンさんに関しては、彼をギルドに残しても事務などを行ってくれなさそうだし、保険という形で連れて行くことにした。

 セラを連れて行かないのは、単純に人数の問題。

 もちろん、留守の時に核になるのはリゼットだ。

 彼女はというと……。


「……まさかとは思いましたが、やはり私を置いて行くのですね」

 

 声色は平坦、感情の起伏はない。

 だが、ジトッした視線が俺に突き刺さる。


「……シン様との観光、楽しみにしていたのですが……」

「い、いや、その……リゼットは留守番をしてくれた方が……」

  

 俺が口ごもりながら理由を並べ立てようとすると、横からセラがひそひそ声で囁く。


「マスター……目が笑ってないよ」

「し、知ってる……」


 かなり良くない流れだ。俺は慌ててフォローを重ねる。


「ほ、ほら! リゼットが残ってくれないと、ギルドの受付も財務も誰もできないだろ? 大事な役割なんだ」

「……そうですね」


 こっち方面での説得は、もはや意味をなしていない。

 俺は喉をゴクリと鳴らし、意を決して言った。


「……じゃ、じゃあさ。今回帰ってきたら……その……デート、でも行こうか」


 空気が止まった。リゼットの長いまつ毛がぴくりと震え、じっと俺を見つめてくる。


「……本当ですか?」

「も、もちろん。ほら、働き詰めじゃ疲れるだろ? たまには休養も必要だし」


 場当たり的な言い訳を重ねる俺を、彼女は数秒黙って見ていた。

 そして――ほんの少しだけ、表情が和らぐ。


「……分かりました。では、シン様。無事に戻ってきてください」


 その声音はやっぱり平坦だ。

 だが、耳まで赤く染まっているのは俺の目にもはっきり分かった。


(……助かった)


 胸を撫で下ろした瞬間、横から勢いよく肩を掴まれる。

 視線を向けると、セラが満面の笑みを浮かべていた。


「マスター、私も行けないんだよね?」

「あ、うん……そう、だね……?」

「――私ともデート、してくれるよね?」

「…………もちろんです」


 力なく答える。

 セラは「やったぁ!」と子供みたいに飛び跳ね、ぎゅっと俺の腕に抱きついてきた。


「マスターとデート〜! ふふっ、何着ていこうかなぁ〜」


 墓穴を一つ掘ったつもりが、二つに増えていた。


「まぁ! デート! なんて素敵な響きですの! もちろん、わたくしも順番をいただけますわよね?」

「ちょ、ちょっと待っ――」

「団長ッ! 私ともデートをッ!」


 なぜだろう。このメンバーの中で安全そうなのはラグナルだ。

 こうして、俺たちは古都ヴェスティア行きの依頼を正式に受けることになった……が、しかし。

 よく分からん事件に巻き込まれることになるとは、この時の俺は思いもしなかった。

伸びが悪ければ、この章でひとまず完結となりますので、少しでも面白いと思ってくださった方はブクマ、評価等お願いいたします。

どれも感謝ですが、評価、ブクマ、いいねの順で嬉しいです。

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