この依頼は受けたすぎる
――俺には一つ、祝福とも呪いとも言える特徴があった。
自らの性癖を満たすには、周囲に正体を知られない方が都合が良い。
そんな思いが実ったかのように、ギルドに向かう時には何らかのアクシデントに巻き込まれ、戦いでは自発的に血塗れになることができる。
この「血塗れ現象」のおかげで、俺は今まで顔を明かすことなく活動できていた。大体のことは「なんやかんや」で何とかなった。
しかし、リゼットに居場所を突き止められ、セラやラグナルとギルドメンバーが増えるにつれて、この能力が弱まってきている。
血に塗れずに帰還したり、怪我ひとつなく事態が収束することが増えてきた。便利なようで、俺にとっては死活問題だ。
……どうして、今こんな話をしているかというと――。
「――あっ! シンさんお久しぶりです!」
「ど、どうも……」
俺は、王都にあるどデカいギルドを訪れていた。
基本的に依頼というものは、依頼者から各ギルドに直接出されるものだが、ギルドは大小様々であり、その全てに連絡をするのは面倒だ。
だから、依頼者によっては大規模なギルドにのみ掲示依頼を出し、それを見に来た他ギルドの人間が引き受けることも可能なのだ。
ということで、さる筋から「面白い依頼がある」という情報を受け取った俺は、王都まで足を運んだのだが――顔を知られてしまっている。
俺に挨拶をしてくれた受付のお姉さんだけでなく、「シン」という名前を聞いて、冒険者たちがざわつくようになってしまった。
「……おい、シンって『血塗れ』なんだろ?」
「あぁ、Bランクの英雄だよ。俺の友達も彼に助けられたって言ってたぜ」
「孤高を愛するって話だったはずだが……今はギルドマスターをやってるらしいな。なんでも、加入条件はSランク以上だとか」
「あの人は、他の誰より勇敢だからな。強さやランクじゃないのよ。高潔な志には、強い奴らが集まるってことさ」
……めちゃくちゃ居心地が悪い。
勇敢とか高潔とか、誰の話だよ。
俺はただ、生きるか死ぬかのギリギリの戦いがしたいだけなのに。
そもそも、ギルドの加入条件をSランク以上だなんて定めた覚えはない。
勝手に噂が独り歩きして「理想の指導者像」みたいに盛られている。
ひしひしと感じる視線。憧れ、尊敬、時に羨望。
胃が痛くなってきた俺は、受付への挨拶もほどほどに、お目当ての依頼を探すことにした。
王都ギルドの依頼掲示板は、さすが大規模ギルドだけあって桁違いだ。
木板一面にびっしりと貼られた紙の数々。
日用品の運搬から、魔物討伐、遺跡調査、時には「王宮からの正式依頼」と印が付いたものまで。
冒険者の群れが、紙を食い入るように見つめている。
(さて……変に目立たず、こっそりと依頼を……)
と思った矢先、背後からまた声が飛んでくる。
「おい、あれ見ろ。『血塗れ』が依頼を選んでるぞ」
「どんな危険な依頼を選ぶんだろうな……!」
「この前は、王都の壊滅を人知れず阻止したって話だぜ!」
頼むから実況するな。
人知れないんだったら誰から聞いたんだよ。
これ以上の尾鰭を付けられると厄介だし、急いで依頼書を確認していく。
(これは……魔物討伐、違うな。素材採取でもないし……お?)
目に留まったのは、豪奢な金文字で書かれた一枚。
(……これだ)
討伐じゃない。採取じゃない。かなり面白そうな依頼だ。
日数がかかるし、最近張り出されたばかりだから受注者がいないだけで、放置していたら、すぐ誰かに取られてしまうだろう。
俺が依頼書を手に取ると――。
「見ろ! 『血塗れ』が選んだ!」
「なるほどな……こういう依頼で彼の真価が発揮されるのか……」
勝手に納得して盛り上がる冒険者たち。
今度からは耳栓を持ってこよう。
そうして、俺は「面白そうな依頼」を正式に受注した。
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