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趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた  作者: 歩く魚
予想通りにいかなすぎる

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39/71

財力がありすぎる


 謎の胃痛に襲われた俺は、セレスとローヴァンさんの依頼を翌日に回し、熊鍋を堪能して寝た――のだが。俺は、朝から違和感を覚えていた。

 ロビーに降りて行くと、部屋中を満たす香水の香り。

 廊下に並べられた、やたら豪華な花瓶。


「おほほほほっ! 完成しましたわ、ギルド《白灯》の品格向上計画っ!」


 嫌な予感は当たるものである。

 ロビーの真ん中で高笑いするセレス嬢。

 両手を広げ、天井にはキラキラ光るシャンデリアが輝いていた。


「……セレス、これは?」

「ご機嫌麗しゅう、シン様! 貴方のような高貴な方の居城としては、このギルドは少々地味かと思いまして。わたくしが救済いたしますわ!」

「いや、あの……地味ぐらいがちょうどいいというか」

「なにをおっしゃいますの! 木を隠すには森の中、と言いますでしょう?」


 あ、この人フィーリングで喋ってるな。

 俺の抗議を聞く気は最初からないのだ。

 とはいえ、俺のことを考えてこんな……どこから持ってきたのかは分からないが、重い照明を設置してくれたのだ。

 面と向かって「取り外してくれ」と言うのは気が引けるし、背後に控える爺に殺されそうだから、リゼットに頼みたいんだが……。


「――おはようございます、シン様。今、シン様に相応しい椅子のデザインを考えているところなので、少々お待ちください」


 現れたリゼットは、スケッチブック片手に真剣な顔。

 

「あらあら、リゼットさんは家具のデザインまでできますのね!? しかも、シン様にピッタリですわ!」

「そうでしょう。あなたもなかなか見る目がありますね」


 なるほど、リゼットはそっち側だったか。

 他のメンバーはどうだ?


「このソファ、ふっかふかだよ!」

「本当ですねっ! セラさんと私が座っても、全然スペースがあるし……兄さんも座りなよ!」

「う、うん――おおっ、ちょっと落ち着かないけど、本当に柔らかいな」


 セラ、イーリス、レオンの若者三人組はソファに夢中。

 シャンデリアに気を取られていたが、よく見ると他にも色々持ち込まれている。

 俺の落ち着いた木の温もりはどこへ……。

 あとは、ラグナルとローヴァンさんか。

 硬派な二人だから、こういう派手目な場所は好みじゃないのではないか。まだ希望はある。


「ええと……ラグナルはどこに――」

「――ふんっ! ふんっ! いやぁ、このクローゼットはトレーニングにもってこいですなッ!」


 筋トレマニアは、俺の身長ほどのクローゼットを持ち上げながらスクワット。ツッコミを入れる気力すら起きない。

 最後はローヴァンさんだ。

 彼は……いつものように、カウンターの端で黄昏ている。

 いい流れだ。SSランクの彼に注意してもらえば。

 そう思っていると、ローヴァンさんおもむろに立ち上がり、セレスの方へ向かう。


「……ちょっといいか、嬢ちゃん」

「あら、どうしました?」

「色んな酒が飲みたいって言ったら……取り寄せてもらえるかい?」

「もちろんですわよ! 共にシン様をお守りする同志、遠慮なくですわ〜!」


 ダメだこりゃ。セレスの羽振りが良すぎて相手にならん。

 途方に暮れている間にも、セレスの家の使用人らしき人々が、家具を運び込んでくる。

 俺は諦めて、ギルドマスター用の椅子に座り――今気付いたが、これも前のやつと違うな。

 革張りの背もたれに、しっとりと沈む座面。妙に座り心地が良い。

 腰を落とした瞬間、俺の背骨が「やっと文明に出会えた」と言わんばかりに喜びの声を上げる。


「いかがですの、シン様? まるで王座のようでしょう!」

「……良いね」


 セレスが胸を張って言い、俺は頷かざるを得ない。

 左右から香水の香り、頭上にはシャンデリア、正面にはご丁寧に立派な額縁に入った《白灯》の紋章。

 俺は、王様ごっこをしている子どもみたいな状況になっていた。

 セレスがぱん、と手を叩く。


「では次はシン様のお召し物を整えましょう! 今のお姿も麗しいですが、まだまだ磨きあげたく存じますわ〜!」

「えっ、ちょっ――」


 気づけば使用人たちが、煌びやかな布やら仕立て途中のジャケットやらを抱えて押し寄せてきた。

 そして、そのまま俺の部屋に――。


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