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趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた  作者: 歩く魚
予想通りにいかなすぎる

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模擬戦したくなさすぎる

 

「最初は……レオンだな」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 レオンを連れて向かったのは、街からほど近い平原。

 草が柔らかく、足場は悪くない。ぴったりの場所だ。

 レオンは目を輝かせ、周囲を見回している。

 遠足で張り切る小学生みたいだな。


「えー……いきなりで悪いが、レオンにはこなしてもらう依頼はない」

「ない……というと?」

「レオンには、これから模擬戦をしてもらう」


 兄妹の話を聞く限り、レオンは近接戦闘が得意で、イーリスは遠距離型だ。

 二人組で動かせば強いのは間違いないが、現実の依頼では必ずしも一緒とは限らない。

 だからまず、単独での力を見たかった。

 今のところ、呪いでのたうち回っている姿しか見てないからな。

 そして、その相手というのが――。


「――シンさんとですか!?」

「そんなわけあるか」


 どうして新入りにボコボコにされなきゃならんのだ。


「王都ギルドから腕の立つ冒険者を雇っておいた。俺は審判役、公平に実力を見られるしな」

「わかりました! それで、その方はどこに?」

「えっと……確か、この辺だったんだが」


 俺が依頼したのはAランク冒険者、蛇鞭のゴブ。

 通り名の通り、鞭を蛇のようにしならせての遠距離戦、さらに近距離でも強いらしい。

 レオンがいかにして、自分の得意なフィールドに持っていくかを見たかったんだが……いないな。

 草原をぐるっと見渡すと、遠くに小柄な男がぽつんと立っていた。

 彼はこちらに気付くと、何とも言えない顔で近づいてくる。

 

「もしかして、あんたらが《白灯》の人かい?」

「あ、そうですけど……」


 レオンが告げると、男は申し訳なさそうに両手を合わせる。


「申し訳ないんだが、ゴブは飲みすぎて二日酔いだ。今日はなかったことにしてくれねぇか!」


 死ぬほどどうでもいい理由だ。

 報酬は後払いだからいいが……予定は丸潰れだ。


(おいおい……代わりは誰がやるんだよ)


 俺は絶対にやりたくない。

 だが、男は「じゃ、そういうことで」と軽い挨拶を残して、来た道を引き返していった。

 レオンが小首を傾げ、真剣な眼差しを向けてくる。


「……じゃあ、シンさん?」

 

 その目は期待に満ちていた。

 やめろ、その純粋さ。こっちは逃げる口実を探してるんだ。

 俺はしばし空を仰ぎ、深く息を吸う。

 思考を巡らせるが……無駄だった。


「……俺が、やります……」

 

 せっかくここまでレオンを来させたし、やってやるしかない。

 ただ……。

 

「模擬戦のルールは、先に一撃を決めた方の勝ち。武器はこれ」


 持ってきていたそれをレオンに手渡す。

 

「木剣な。くれぐれも、本気で殴らないように!」


 俺の方がランクが低いって知ってるよな?

 本気でぶん殴ったら普通に死ぬからな?

 

「了解です! シンさんに鍛えてもらえるなんて、嬉しいなぁ!」


 ……本当に分かってるよな。


「じゃ、じゃあ……始めるか」

 

 木剣を握り、距離を取る。

 レオンは剣を中段に構え、目に迷いがない。


「よし、いつでも――」


 言った瞬間、突きが一直線に迫る。スタートダッシュが過ぎるだろ。

 木剣を辛うじて弾くが、腕が痺れた。

 間髪入れず斬り下ろし、回り込み、蹴り。全てが速くて正確だ。

 これ、普通にやったら十秒で終わるぞ。


「くっ……!」


 俺はひたすら受け流し、下がり、距離を取る。

 でも距離を詰められるのも早い。

 足裏に草の感触ではなく土の硬さが伝わった時、背後の木に行き当たった。


(……やべぇ、瞬殺コースだ)


 いや、本当に驚いた。ここまで押し込まれるとは。

 模擬戦開始からまだ一分も経っていないのに、俺の防御はギリギリだ。

 とはいえ、レオンが王都ギルドの判定通り、Aランク相当の実力を持っていることはよく理解できた。

 ここで「はい、降参です」と言ってしまえば、潔いし平和だ。

 ……いや待て、よく考えろ。

 俺の頭の中に、いやらしい電球がポンと灯る。


(ここで勝てば……レオンをパシリにできるんじゃないか?)


 SランクやSSランクの怪物連中――セレスやローヴァン――に舐めた態度を取れば、間違いなく次の日には俺の葬式が執り行われるだろう。

 だが、Aランクならどうだ?

 今この瞬間だって、戦況は不利とはいえ完全に詰んではいない。

 運さえ味方してくれれば……十回に一回くらいは勝てるはずだ。

 模擬戦とはいえ、ここで「俺が勝った」という事実を残せれば、「お前まだまだだなぁ~修行しろ修行!」と上から目線で雑用……いや、基礎訓練を押し付けることができる。

 強くなるには、まず当たり前のことをこなすんだとか言えば、それっぽく聞こえるしな。

 そうやって軽い依頼を回しておけば、俺はわざわざ命懸けの前線に出る必要がなくなる。

 安全で、助成金も安定し、俺のスローライフは守られる。

 さらにギルドとしての活動実績も積み上がり、王都ギルドからの信頼も増す。

 そうなれば、ノランさんに「また面倒事を押し付けられる」リスクも減る……はずだ。


(……よし、やるか。姑息だろうが何だろうが、勝ちは勝ちだ)

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