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趣味で人助けをしていたギルマス、気付いたら愛の重い最強メンバーに囲まれていた  作者: 歩く魚
ドリルお嬢と爺剣士

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32/71

お嬢様の爺が怖い

 ギルドの奥、普段は物置にしている小部屋。

 急ごしらえのテーブルと椅子を並べ、俺は面接官用――なわけがないが――の椅子に腰掛けていた。

 左右にはリゼットとセラが控え、ラグナルは入口で仁王立ち。

 対面には候補者のための椅子を並べてある。


「では、面接を開始します」

 

 リゼットの静かな声と同時に、ラグナルが待機者に呼びかけ、最初の冒険者たちが入ってきた。

 俺は腕を組み、わざと低い声で言う。

 

「……じゃあまず、志望動機をどうぞ」

「え、えっと……『血塗れ』と呼ばれるシンさんの戦いぶりに憧れて――」

「はい不合格」

「えっ!?」


 横でリゼットが小首を傾げる。

 

「理由は?」

「えーっと……俺の戦い方は命を削るだけなので、真似しないでほしい」


 続いて二人目。

 

「戦闘は得意で、剣と槍の両方を扱えます! 護衛任務ならお任せを!」

「……不採用」

「な、なぜですか!?」

「今求めているのは戦闘要員ではなく雑用係なんだ。君にはもっと、良い職場がある」


 三人目は、やたら筋骨隆々な男がドアをくぐった。

 だが、その手に握られていたのは――毛糸の玉と編み棒。


「……えーと、趣味は?」

「編み物です!」

「……戦闘経験は?」

「ありません! でも、団長のために靴下とマフラーを一年分編みます!」


 リゼットがぴくりと眉を動かす。

 

「かなりの逸材ですが……シン様の冬支度は私がやります」

「不合格らしいです」

「そ、そんな……!」


 俺的には、彼はちょっとアリだと思ったんだが。

 リゼットもパシリを探している割には、結構厳しいよな。

 去り際、彼の落とした毛糸が床を転がり、ラグナルが全力で拾い上げて外に投げ返した。以降も――。

 

「目つきが怖い」

「笑顔が爽やかすぎる」

「セラに話しかけた」

 

 など、無茶苦茶な理由で次々と不採用を叩きつけていく。

 しまいには、入室した瞬間に「はい次」と言うだけの簡単なお仕事になり、リゼットが書類を淡々と片付け、ラグナルが希望者を外に押し出すという完全分業制が出来上がっていた。

 こうして半日が過ぎ――。


「……次の方たちで本日の面接は終了です」

 

 残った書類は、わずか二枚。

 リゼットが最後の名前を読み上げ、ドアが静かに開いた。

 まず入ってきたのは、鮮やかな赤のドレスに身を包んだ少女と、付き添いらしき執事服の爺さん。お嬢様か?

 ツヤのある金髪はドリルのように巻かれていて、扇子で口元を隠しながら、俺を見下ろすように歩いてくる。お嬢様だ。


「ふふ……こんな近くにいらしたのですねぇ! 夜会の君っ!」


 ビシィ! と俺に指を突きつけるお嬢様。

 目はキラキラと輝き、今にも宝石でも飛び出しそうだ。

 

「……誰でしたっけ?」

「お忘れですの? セレス・オーギュスト・ド・モンフォール・エルミナリエですわっ!」


 名前が長すぎる。そして、まったく覚えがない。


「悪いけど心当たりが――」

「ありますわっ!」


 俺の否定をかき消すように、セレスが一歩前に出て、扇子をバンッと閉じた。

 

「あれは……二年ほど前のことでした。王都の夜会に出席していたわたくしは、庭の噴水近くで……酔った拍子に、足を取られて転んでしまいましたの」

「……はぁ」

「そこへ現れたのが――あなた!」


 あー……なんとなく思い出してきた。

 あの日、俺は依頼で外警備の真っ最中。

 庭の方から妙に派手な「ひゃああ!」という悲鳴が聞こえて、見に行ったら、ドレス姿の女性が芝生の上でうずくまっていた。

 仕方なく顔も見ないまま抱え上げて、会場の馬車まで運んで――それで終わりだ。


「お顔は……見えませんでしたわ。ですが、魂が震えましたの。この方こそ、わたくしの運命だとっ!」


 勘違いです。

 

「翌日、わたくしは屋敷中にこう命じました――『あの紳士を探して! 必ず見つけ出して!』と!」


 顔も覚えてないのにどうやって探すつもりだったんだ……。


「その後、じいが色々と手を回してくれまして……私を救ってくださったのが『血塗れ』という方だということまでは分かりましてよ」


 背後の執事――どう見ても由緒正しい爺が、頷きながらこちらを見てくる。

 テンプレを裏切らないでくれて助かるが、目が「お嬢様のため、どうか…」と訴えているのがプレッシャーだ。


「そして昨晩、ついに『血塗れ』様の足取りが掴め、こうして巡り会えたのですわ! ですから――わたくしも、このギルドに入ります!」

「ダメです」

「――どうしてですのっ!? 運命で結ばれた者同士ですのにっ!」

「結ばれてないです。そもそも俺、顔も覚えてなかったし」

「顔など関係ありませんわ! わたくしは、心でお慕いしているのです!」

「いやだから――」

「わたくしの、この胸の高鳴りをどう説明なさいますの!?」


 興奮してるからじゃないですかね…。


「えっと……そもそもあなたは――」

「セレスですわっ!」

「……セレスさんは、見たところ由緒ある家系のお嬢様ですよね? そんな方が、危険な冒険者職に就くのは良くないんじゃ……。失礼ですが、ランクを聞いてもいいですか?」

「Sランクですわよ〜っ!」


 なんでそんなに強いんだよ。


「ですから、どうかご心配なく。むしろ、わたくしがシン様をお守りいたしますわ!」

 

 いかん、このままだと押し切られてしまいそうだ。

 どうにかして……そうだ、爺を味方につけてお帰り願おう。


「……セレスさんの執事さん」


 俺が声をかけると、爺は静かに一歩前へ出た。

 背筋は棒のように伸び、まるで剣そのもの。


「はい、血塗れ殿」

「長く仕えているあなたなら、分かるでしょう。セレスさんが冒険者になるなんて、とても危険で――」

「賛成でございます」

「賛成!?」

「お嬢様は幼い頃より、屋敷の塀を飛び越えては野犬を追い払い、森の熊を叩き伏せ、近隣の盗賊を一人で縛り上げて戻ってこられるようなお方でございます。いっそ正式に冒険者となったほうが安全かと」


 ……お嬢様が持つ武勇伝じゃないですよ、それ。


「加えて、血塗れ殿に恩義を感じておられるのも事実。止める理由が見当たりませぬ」

「いや、でも……」


 そこで爺が、ふいに俺を手招きした。

 眉も目尻も下がった柔らかい笑顔。

 ……ああ、分かった。セレスには逆らえないから、俺にだけ本音を打ち明けようって魂胆だな。

 もしかしたら、「本当は反対だが、この場は合わせるしかない」的なやつかもしれない。

 一縷の望みをかけ、俺はそっと耳を寄せた。

 

「――お嬢様を加入させないなら、ぶち殺します」

「ッッ?!」


 脳内で警鐘が鳴り響き、反射的に一歩下がる。

 にこにこの笑顔。目尻に深い皺。声色はまるで孫を褒める祖父のように優しい。

 でも今、この人確かに「ぶち殺します」って言ったよな。

 再び手招きされる。

 ……聞き間違いかもしれない。

 念のため、もう一回耳を近づけてみよう――。


「――軽いお気持ちでお嬢様に手を出しても、シバき倒しますので」


 観念した俺が視線を戻すと、セレスは自信満々の笑みを浮かべていた。

 爺がなにを喋ったかは理解していないが、完全に「勝ったわ」って顔だ。

 ……最後に、砦としてリゼットに意見を聞いてみよう。


「リゼットさん、どう思いますか?」


 彼女は少しだけ考える素振りを見せ、口を開いた。


「モンフォール家は名の知れた名家。その後ろ盾が得られるのなら、良い選択肢かと。私がシン様の一番であることは変わりませんし」

「あ、そうですか……採用です……」

 

 セレスは扇子で口元を隠しながら得意げに笑った。

 その背後では、爺が「良い判断でございます」と満足げに頷いていた。




 

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